初めてのDMは勇気が必要

 さて、俺のなけなしの貯金を切り崩してVになる決心をつけた訳だが、ぶっちゃけた話をすると今って配信機材が足りている訳では無いのよ。


 まあ雑談だけだったし不要ではあったんだけどね。


 配信機材より先に受肉を優先させるなんて我ながら欲に忠実だななんで思うが、それで良いだろう。

 変な使命感とかより欲望に従った方が幾分か健全だろ。そんなことない?


 さて、そんなこんなで良い絵師さんとモデラーさんはいないかと、SNSの大海原を徘徊していたわけですが、皆さん魅力溢れる絵で迷う。


 例えるのであれば、最高級のバイキング(ただし1品しか食べれない)みたいな。

 全部食べたいけど物理的に不可能みたいな。そんな感じだ。


 あとは絵師さんたちにも各々スケジュールがありますから、依頼する側も気長にゆるりと待つのが良いのではないかな。


「決めたンゴ」


 小一時間、悩みに悩んだ末に最初に依頼する絵師さんを決めた。


 その人の名前は『れもねぇど』さん。

 超人気絵師さんで、Vtuberの立ち絵やソシャゲのキャラクターデザインなど幅広く活躍している方である。


 早速DMを送ろうとしたのだが、ここでひとつ問題が発生した。


「むちゃくちゃ緊張する……」


 ここに来て固有スキルである陰キャが発動してしまった。

 初めて絵師さんに絵の依頼をするという効果も合わさって、俺のコミュニケーション能力に凄まじいデバフがかかっている。


「失礼のない文章を考えなくては……」


 俺が推している絵師さんに依頼をするのだ。

 失礼のないように、そして分かりやすい文章で端的に依頼をすることが求められるだろう。


 というかそうでなくては俺が俺自身を許せなくなる。


 推しに迷惑をかけるなんて言語道断。


「吐きそう」


 というか俺みたいなクソ雑魚ナメクジ配信者が天下のれもねぇど様に対して文字を媒介しているとは言え接触をしてしまってもいいのだろうか。

 身の程知らずと罵られてもおっしゃる通りですと赤べこのように首を縦に振るだけの全肯定botになるのは火を見るより明らか。


 俺は一旦スマホを開いて凛斗へメッセージを送ることにした。


『DM送るのめっちゃ緊張するんだが』


 するとすぐに既読が付いたと思ったら、美味しそうな手羽先の画像が送られてきた。


「チキンって言いてぇのか?やかましいわ」


 むかついたのでこいつに連絡をするのはやめよう。非常に生産性がない。


 というか画像で会話するとかオタクかよ。まあ俺もオタクなんですけどねー。


 なんか腹たったからなのかさっきまでのネガティブな思考はなくなっている。


 結果オーライだ。


 絶対あいつには感謝しないが。


「もうこうなったらヤケクソで送るしかない」


 いつまで経ってもうじうじしていそうなので、俺は吹っ切れた。



『突然のDM失礼致します。予算〇〇万円でVtuberの立ち絵の依頼をお願いしたいのですが大丈夫でしょうか』



 と、このような文章をれもねぇどさんに送った。あとは向こうから返信が来るまで待つだけだ。


 あー怖。


 処刑台に登る死刑囚の気持ちがほんの少しわかった気がするわ。これは時間が経てば経つほど徐々に心にダメージが入ることだろう。


 俺のよわよわメンタルは今に始まったことでは無いが、それでもここ5年で一番緊張したと言っても過言では無い。


 この気持ちはどこかで発散したいし、SNSで呟くか。



 =============

【CHIZU】

 我、無力也

 ==============



 そう呟くと付くわ付くわ『草』の数々。

 君たち俺の視聴者だよね?俺が推しの人とかもいるんじゃないの?と甚だ疑問に思ってしまう。


 思考停止で『草』なんて打ってんじゃないよ。botか。


 まあそんなこと言いつつも、これで気持ちが楽になっているのだから俺はチョロい。


 俺のメンタルはひょんなことからすぐに折れるしひょんなことからすぐに復活するよ。


「ふぅー」


 なんだかDMを送っただけだと言うのにどっと疲れた。


 あとは返信を待つだけだし、断られたらまた別の人に頼むか。


 時刻は深夜0時を回っている。


 もう今日は寝よ。

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