#4
「私はカレーの鍋運ぶから、霧島君は人数分の食器、橋谷君はサラダと鍋敷きお願い」
「はい」
落とさないよう気を付けながら、人数分の食器を運ぶ。盛り付けは占部さんが行ってくれた。おいしそうなカレーライスだ。
「みんな。できたよ」
「おっ。カレーですか」
「おいしそうだな」
「もう手は洗った?」
「あっ。洗ってきます」
奈森さんがホールを出てキッチンに手を洗いに行く。
「机の上どかして」
先生が机の上に置いてあったオセロをどかし、占部さんはカレーライスとサラダを盛りつけ始めた。それが終わりかけたころ奈森さんが戻ってきた。
それから彼は、透明なケースに入った錠剤を目の前に置かれた水で飲んだ。先生が、彼は持病があって薬を飲んでいることを教えてくれた。
「奈森の薬、すごい苦いぞ」
「今はそれほどでもないよ」
そんな話をしていると占部さんが手をたたいた。
「みんないきわたった?じゃあ、いただきます」
「「いただきます」」
おいしそうに食べながら、橋谷さんが言った。
「占部さん、料理の腕落ちてないね」
「ありがと。以前に比べたら外食増えたんだけどね」
「売れっ子作家さんだからなぁ」
「昔は奈森も作文上手かったよな」
「論文書くのに役立っているよ」
食事の話も飽きなかった。参加している人たちはぼく意外それなりに有名で、メディアでも多く取り上げられる。ためになるような話や面白い話がいっぱいあった。
「それにしても橋谷、夢がかなってよかったな」
「みんなほど有名じゃないんだけどね」
「そんなことないでしょ」
「そんなことあるよ」
「それにしても岸谷くん、探偵なんて物語にしか出てこないと思ってたわ」
「岸谷にぴったりだよ」
「岸谷、昔から鋭かったからな」
それから話はみんなの昔話に移った。先生も昔はやんちゃだったらしい。今からは想像もつかない。
話に耳を傾けているうちにみんな食べ終わったようだった。
「みんな食べ終わった?じゃあ、岸野君と奈森君、片づけお願いね」
ぼくも満腹だ。線背は料理をしないのでこんなにおいしいカレーライスを食べたのはいつぶりだろう。もしかしたら食べたことすらないのではないかというくらいだ。
「片づけは、去年と同じ場所でいい?」
「うん。お願い」
先生と奈森さんが食器の片づけをする間、ぼくたちはいよいよ追悼会の準備に取り掛かった。
大きかったテーブルに真っ黒のテーブルクロスを引く。大きな燭台を二つ並べた。ホールにあるソファやピアノなどはすべて入り口に移動させた。
先生と奈森さんが戻ってきた。
「じゃあ始めよう。みんな座って」
全員が着席すると電気が消えた。心は静まっていく。
「まずは、黙祷」
ザザ―
屋敷全体が静かになったので嵐の音がはっきり聞こえる。嵐は相変わらず振り続けている。やむ気配はなかった。
一分ほどすると電気がついた。そっと瞼を開ける。みんな真剣な表情をしている。まわりがとてもまぶしく見えた。
「今からは、思い出を共有しましょう。年を経るにつれ忘れ去っていくもの新たに思い起こされるものあると思います。書記は、霧島くん、お願いしていい。上がった話をパソコンに打ち込んでいってもらえる。来年また使うから」
「はい。分かりました」
占部さんにノートパソコンを渡された。ぼくは新しいファイルを開いて話された内容を打ち込んでいく。
こうして追悼会は始まった。各々の思い出を共有した後は、過去に話したものを振り返る。今年は四回目だそうでまあまあな量だった。一つずつ読んでいく。先生も頷いたりして懐かしそうにしていた。
それが終わると亡くなった先生の墓前に供える手紙をかいた。ぼくは部外者のはずだが特別に書かせてもらえた。
そんなことをして気づくと十二時を回っていた。かれこれ四時間以上やっていたらしい。
「じゃあ今年は、これでお開きにしましょうか。皆さんお疲れさま。私はここで寝るけどそれぞれ部屋に戻っていいよ。明日は、十時ぐらいにはホールに来てね」
「「おつかれさま」」
そう言って占部さんは席を立つ。
「じゃあ私は戻らせてもらうよ。今日は疲れたのでね」
「それじゃあ僕も、戻らせてもらいます」
「俺はもう少しいとこかな。いい、占部さん」
そう言ったのは橋谷さんだ。
「ええ、大丈夫よ」
「僕も戻ります」
最後に奈森さんも部屋に戻った。
「おやすみ」
部屋のドアを閉めて風呂に入り、ベッドに潜り込む。
これまで体験したことないパーティだったけど、先生と来てよかった。有意義な時間になった。ぼくは先生にあいさつした後、シャワーを浴び、ベッドに入った。嵐の音を聞きながら、ぼくは眠りに落ちた。
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