40枚目『また来年戻ってくるよ ―旅の途中・シロツメクサ―』

 ……遅かったか。


 目の前に広がる水田すいでん地帯。綺麗きれいな空を映す水鏡みずかがみは、どこにも見当たらない。既にいねが植え付けられて、緑に侵食しんしょくされゆく鏡しかない。


 折角来たのに、徒労に終わってしまった。脱力感だつりょくかんを覚えてあぜに座り込む。


 タンポポやナズナなど、畔には春の雑草が自由にいている。私は、その中の白いボンボンみたいなシロツメクサにちかいを立てる。


「 また来年、ここに戻ってくるよ――絶対に。だよ」


 来年こそは、田植えを見るぞ。

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