第33話 選択肢



景色が見える高台の広場に来た。外はもう暗く、街の明かりがキラキラと光っていた。夜空にも少しだけ星が見える。綺麗だななんて思いながらぼんやりと眺めていた。この場所はこの地域では有名なデートスポットらしい。


ミズホから話をしたいと言われ、ミズホのリクエストでこの場所に来たのだった。正直二人きりは嫌だったのだが、どうしてもとお願いされてしまった。昔の俺なら喜んでいただろうけど、今は本音を言えば逃げ出したい。今更告白の返事でもされるのではないかといろんな意味でドキドキしてしまう。付き合う気はもうサラサラないが。


ミズホはどこか清々しい表情をしていた。



「やっぱり私達はゆっくり話すべきだと思ったのよね。コウキくんに私、まだ伝えていなかった事があるわ」


「何?」


微妙な間が開く。何を言われるかわからないこの時間が一番怖い。



「……私、本当はすっごく性格が悪いのよ。信じて貰えないかもしれないけれど」


俺は開いた口が塞がらない。ミズホは胸に手を当て、何故か得意げに話していた。


「えー……」


「どうしたの?驚いたのかしら?目が泳いでいるわ!」


「いや、知ってるよ!」


「どうしてなの?!隠していたつもりなのに!恥ずかしいわ!……もしかしてコウキくんは変態なのではなくて?」


「いや、違うから!最初はわからなかったけど……今はめちゃくちゃ知ってる。前よりもずっとミズホの事分かってる……つもり……」


「ふーん」


ミズホは不満気に返事をしたがその後、少しだけ嬉しそうな表情をしていた。前よりは話しやすくなったような気がする。俺自身の性格この数日間で変わったと思う。



「この本は知っているかしら?」


ミズホは一冊の本をカバンの中から取り出した。


「タイトルは……『恋をしてしまった』……?」



目を疑った。それは先日タクミが俺に勧めて来た本と同じだ。何故ミズホがこの本を持っている?偶然なのか?


……そうか。

全てが俺の中で繋がった。認めたくないが、やっぱり意外とタニガワが言っていた事は合っていた。



「ええ。そうよ。知っている?知る訳ないわよね。コウキくんは本なんて読まないものね。これはね、サクラの好きな人がよく読んでいた本らしいわ。サクラは好きな人の名前だけは教えてくれなかった。でもいつも大切にこの本を持っていたの。……目を覚ましたら、好きな人の事を話してくれるかしら?」


「……話してくれるといいな」


「この本、すごく素敵なお話だったのよ。サクラの好きな人も本を読むのが好きだなんて、何だか私と似ているわよね。いつかお会いしてみたいわ」


「そうか……そうだな」


「もっと興味を持ちないよ!コウキくんも、この本を読んで少しは恋について理解を深めた方がいいと思うわ!」




言うべきか迷ったが、これは言わない方が良いと思った。火に油を注いでしまうような気がしたから。


タクミはマイカを想いながらその本を読んでいたのに、それを知ってか知らずかサクラもその本を大切にしていた。この話は、サクラの口から聞いた方がミズホも納得出来るだろと思う。


俺はサクラの本当の気持ちまでは知らないのだから。

ミズホは本を大切にまたカバンの中へとしまっていた。



「……話ってそれだけ?」


「いいえ。ここからが本題よ。コウキくん、クイズを出しても良いかしら?」


「え?」


「コウキくんには三つの選択肢があります。私には二つの選択肢しかありません」


「どういう事?」


「コウキくんの選択肢はこの三つ。

一、今日、夜行バスでこの街を出る。

二、私とこのまま駆け落ちする。

三、家に帰る」


「え……だいたいその、二番ってどういうつもりなの?意味わかんないんだけど」


ミズホは俺の質問には答える事なく、また話出した。余裕のある笑みを浮かべていた。



「私の選択肢はこの二つ。

一、コウキくんと駆け落ちする。

二、ここから飛び降りる」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る