第29話 真実は
「じゃあ、さっきの話の続きだけど……あの事件の日に私が見た事を話すね」
重たい空気が流れる。こう言う場は苦手だ。俺は固唾を飲んだ。
「私はその日、掃除当番でタナカくんとゴミを捨てに行っていた。ゴミ捨て場から帰る時、中庭の方から戻ってくるタクミを遠目に見かけた。声を掛けようと思ったけど、タクミは何だか急いでいるように見えた。必死で左手を隠しているようだった。今思えば返り血でも隠していたんでしょう?
その時はまだ何も知らない私は、いろいろあってサクラとの待ち合わせ時間に遅れちゃってて。用が済んでから急いで向かったの。そしたら中庭に人がいっぱいいて、騒ぎが起きていて……。サクラが……刺されたって……」
「マイちゃんはタナカから告白されたんでしょ?なんて答えたの?」
「なんで知ってるの?」
「それは教えない」
「話がそれちゃうでしょ?そんな事どうでもいいじゃん?!で、話戻るけど、私はその時タクミの事を一番に思い出した。中庭の方から慌てて出て来たタクミの姿を。そしたら、なんか直感でタクミが刺したのかもって思ったの。次に狙われるのも多分私だって。
でも確実な証拠がある訳じゃないし、一人じゃどうにも出来なくて、怖くて怖くて逃げたくなった。タクミが今まで私の事を『可愛い』とか『好きだ』って褒めてくれた事が全部気持ち悪く感じた。だからまずは髪を染めたの。タクミは黒髪が好きだって言ってたから茶髪にしたの。タクミがもし犯人じゃなかったら、真犯人が捕まった時に何食わぬ顔で家に戻ればいいって思ってた。
その日の夜、たまたま駅のホームに停まっていた電車に乗り込んだ。遠くに行けるならもうなんでも良かった。ついた駅に夜行バスが停まってて、予約なしでも乗れるって言うから乗り込んだの。でも何をしていても、タクミがサクラを刺したっていう事実が頭から離れなくて怖くて……。怖くて誰かに頼りたかった。甘えたかった。助けて欲しかった。
そんな時コウキくんを見つけたの。
コウキくんは私みたいに闇を抱えた表情をしていた。話しかけてもどこか遠くを見ているようだった。逆にそれが良かった。気楽でいられた。でも思っていた以上に優しくて頼もしくて一緒にいるうちに本当に心の底からコウキくんと出会えて良かったって思った。
ミズホちゃんには二人で事件を解決しようって言われたの。
ミズホちゃんはタクミが犯人だって会った瞬間にわかったって言ってたよ。私はミズホちゃんについてコウキくんから話を聞いていたし、半信半疑で最初はミズホちゃんの事信用してなかった。でもミズホちゃんは誰よりもサクラを大切に思っていたし、私の力になってくれるって約束してくれたの」
何かの合図なのかミズホと目を合わせていた。ミズホが今度は話し始める。
「私は旅館で初めてタクミくんを見た時すぐに犯人だってわかったわ。そんな驚かなくても理由をちゃんと教えてあげるわよ。……あの時私が旅館に居たのは本当に偶然だった。コウキくんに私が乱暴された事とサクラの事件があったから、私を元気づける為にパパとママが旅館に連れて行ってくれたの」
「だから俺はやってないって」
「コウキくんはお黙りになって。私とサクラは親戚で、とても仲が良かったの。私はサクラから『マイカ』と『タクミ』という友達の話をよく聞かされていた。二人と一緒に撮った写真やプリクラもいつも嬉しそうに見せてくれたの。
でも私は事件が学校で起きたから学校のお友達の中に犯人がいるって私は考えていた。『マイカ』と『タクミ』ならサクラの事件の真相を知っているのではないかって考えていた。私が唯一知っているサクラの友達がその二人だけだったからなのだけれど。
サクラのプリクラに載っていた『マイカ』を大浴場で見かけたのよ。初めは信じられなかった。髪の色も変わっていたしね。こんな都合よくマイカちゃんが現れてくれるなんてって、すっごく驚いたわ。
サクラの事件の犯人を早く捕まえたくて、何か知っているかもしれないマイカちゃんをここで逃す訳には行かなくて、私は思い切って話しかけたわ。話を聞いていて確信した。この子がサクラの言ってたマイカちゃんだって。プリクラに映っていたマイカちゃんだって。間違いではなかったわ。サクラは私を導いてくれたのよ。
何か事件の手がかりが掴めるかもって思ったの。それからマイカちゃんと仲良くなる為に必死で話かけたわ。怪しまれないようにサクラとの関係は始めは伏せていたわ。
そして大浴場を出てタクミくんとコウキくんに出会った。コウキくんがいたのは予想外だったけど、それが逆によかったのよ。コウキくんが具合が悪いって部屋に戻ろうとした時タクミくんは左手で肩を掴んでいた。
そう、左手で。
サクラが刺されたのは右側の腹部。犯人は左利きの可能性が高かったのよ。その後マイカちゃんと会話をしながらタクミくんの様子を観察していた。左利きだと確信したわ。犯人かもしれないって思った。その頃、コウキくんはのたれ死んでいたのでしょう?笑っちゃうわ。
でも証拠が全然足りなかった。だからマイカちゃんに二人で事件を解決できないかしらと声を掛けたのよ。マイカちゃんがどう出るかは一か八かだったけれどね。マイカちゃんが協力してくれて嬉しかった。話を聞いて絶対にタクミくんが犯人だと思った。昨日の夜、どうやったらタクミくんが認めるかマイカちゃんと二人でいっぱい考えたわ!」
俺は何も言えずにただ二人を見ていた。ただミズホが俺を馬鹿にして下に見ていると言う事は確かだ。
「タクミは私の事が好きなんでしょう?でも重いの。私の為に悪い事はもうして欲しくない。
タクミ……私はそういうの辛いよ。私の為にもう頑張らなくていいよ。幼い頃からずっとそうだった。小学生の時、私がうさぎに噛まれて次の日うさぎの具合が悪くなったのもタクミがやったんでしょ?私に意地悪してきた子が次の日から急に優しくなったのも裏でタクミが怒ってくれたからなんでしょ?
きっとサクラが私の事何か言っていたからタクミが刺したんでしょ?もっと早く言うべきだった。私がタクミを縛っていたんだ」
マイカは今にも泣き出しそうだ。タクミから聞く話とマイカから聞く話ではやはり多少の食い違いはある。マイカが今言っていた事もまた事実だと言うのならば、誰の肩を持てばいいのかわからない。
「刺したのはオレだよ。でも……マイちゃん、ミズホちゃんそれは違うよ。よく聞いてほしい。本当は……サクラは自分を刺そうとしていたんだ」
「え?」
「マイちゃんが事件の日に目撃した人物はオレであっているし、ミズホちゃんが言う事も粗方合っている。オレが左利きだってよく気がついたね」
「やっぱり認めるのね!」
「うん。でもオレが今から話す事が本当に本当の裏も表もない真実。……マイちゃんを傷つけてしまうかもしれない。でも聞いてほしい。これはどうしても伝えるべき事だと思ったし、サクラの想いを大切にしたいから」
「……わかった」
「サクラは人間関係ですごく悩んでいた。マイちゃんの事も、もちろん大切に思っていた。すごく好きだったんだよ。でもいっぱい悩んでいた。苦しんでいた。小さな事が積み重なって限界だったんだ。結果として良くない方向に進んでしまったんだ……」
皆が混乱していた。何故サクラ自身が犠牲になる必要があったのか。自分を傷つける必要があったのか。
俺にはサクラがどんな人だったのかまだよくわからない。
「タクミ、どういう事なの?……サクラは何がしたかったの……」
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