第28話 虚像



俺達はマイカとミズホと約束した集合場所に向かっていた。駅の改札口付近の犯罪防止のポスターが貼ってある場所だ。犯罪防止のポスターなんて俺達への当てつけのように感じる。


俺はタクミとの作戦通り集合場所からは見えない所に身を隠した。あちらからは見えないけれどこちからは見える。警戒されないようにと、タクミと何回も確認をした。頃合いを見て後から合流するつもりだ。


タクミは一人でソワソワとしながらその場に立ってマイカとミズホを待っていた。



「おまたせ」


マイカとミズホはきちんと時間通りに来てくれた。マイカは俯いていて、ミズホは不貞腐れたような表情をしている。変わらずミズホはマイカの腕を組んでいた。


「……来てくれてありがとう。マイちゃん顔色良くないけど大丈夫?」


「……うん」


タクミはマイカの頬に手を伸ばそうとしたが、ミズホがそうはさせまいと手を払いのけていた。タクミはいきなりの出来事に抵抗する暇もなくただ驚いた表情をしていた。


「コウキくんはいないのかしら?」


ミズホは勝ち誇ったように鼻で笑いながら話しかけてくる。


「……まずはその話だよな。コウキは誰かに階段から突き落とされたんだ。だから怪我をしていてここには来られない。酷い怪我だった」


「……コウキくんは大丈夫?」


マイカは動揺する訳でもなくいつも通りに心配しているように見えた。やはり俺を突き落とした自覚がないのだろうか。犯行を認める様子はない。

ミズホは軽蔑するような眼差しをタクミに向けながら話し出した。





「本当の事なのかしら?コウキくん嫌になって逃げ出したのではなくて?」


「本当だよ。コウキが逃げる訳ない」


「逃げたじゃない。あの時も。私に乱暴した上に、私の事を学校に置き去りにして。コウキくんは自分の事しか考えて居なかったのよ。好きだって言っていたのに、本当に酷いわ!その程度だったのよ」


「それは違うだろ。コウキからミズホちゃんと何があったのか話を聞いたけど、そうせざるを得なかったんだと思うよ。それにコウキの居場所を奪ったのはミズホちゃんでしょ?」


「違わないわよ。タクミくんは何も知らないからそう言い切れるのよ」



ミズホは呆れたように笑っていた。タクミは目を細めている。そんなミズホを見ていたら俺はカッとなってつい身体が動いてしまった。



「……っ。俺は逃げてない。馬鹿にするなよ」



俺が近くに居た事が想定外だったのかミズホとマイカは目を丸くしてこちらを見ていた。



「コウキちょっとまだ早い」


「ごめん、つい」



ミズホの顔を見たらやはり具合が悪くなって来てしまう。しかし以前よりは慣れたなのか、この場を何とか乗り切らなければと自分が覚醒状態なのか気力でここに立っている事ができた。アドレナリンがドバドバと溢れ出ている気がする。




「ふん。やっぱり普通に元気じゃない。タクミくんもコウキくんも嘘ばっかりね」


「誰かに階段から突き落とされたのは本当だよ。タクミのお陰で軽傷で済んだんだ。嘘をついたのは悪かった。けど、俺達は犯人がどんな反応をするのか見る為にこの行動をとった。認めるのか、それともしらばっくれるのか」




ミズホはマイカが話さないように遮っているように見えたので、俺はミズホよりもマイカの方を見ながら言った。マイカは困った顔で首を傾げながら、軽く頷いていた。そして口を開いた。




「……コウキくんが無事でよかった。……でもね!認めるか、しらばっくれるかってこっちのセリフなんだけど!!サクラを刺したのはタクミなんでしょ?!……知ってるんだから!!」




マイカはかなり感情的になっていた。小声で話し出したと思ったらいきなり大きな声で怒鳴る。呼吸が乱れていた。そして、俺が突き落とされた事についてはあまり触れて来ない。認めないつもりなのか、自覚がないのか感情が読めない。

ミズホはマイカの背中をさすっていた。



「マイちゃん、知っていたんだね」



タクミは寂しそうに笑っていた。



「……ここは人が多い。騒いだら迷惑にもなるし移動しよう」




駅で騒いでは迷惑になってしまうと思い、駅の裏にある公園へと移動した。移動中、誰も口を開く訳でもなく四人ともずっと無言だった。


公園の中には遊具はもちろんの事、池もあり結構な広さだ。散歩している老夫婦や、ジョギングしている人を見かける程度の人気ひとけはあるが、駅の中よりはずっと静かだ。少しだけ冷たい風が足元に纏わりついてくる。


屋根があって日影になっている場所があった。そこのベンチに俺とタクミは隣同士で腰掛ける。向かいのベンチにはマイカとミズホが変わらず腕を組んで腰掛けていた。


一息つくとマイカが話を始めた。声がやけに響いていた。





「じゃあ、さっきの話の続きだけど……あの事件の日に……私が見た事を話すね」








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