第21話 明日までに
「行きましょう、マイカちゃん!パパとママが待っているわ」
「うん」
ミズホは早くこの場を去りたいのか、マイカを
マイカはミズホに言われるがまま、伏し目がちで俺達と目を合わせずフラフラとした足取りで引っ張られて行った。
「待って!マイカ!」
このままじゃいけないと俺は咄嗟に呼び止めた。
「何かしら?」
鬱陶しいと言う表情でミズホだけが振り返る。
「マイカ……どうしても行くのか」
「……うん」
マイカは背を向けたまま、小さな声でそう答えた。どうすればいい?どうすればマイカを引き止められる?俺は頭をフル回転させて脳内に散らばっている言葉を必死で整理した。
「明日。明日少しだけ時間を貰えないか?また今日と同じように、夕方くらいにここで四人で待ち合わせよう。……ダメ?」
「……ミズホちゃん……いい?」
「うーん。わかったわ。何だか私が悪者みたいで嫌な感じだもの。コウキくんとまた会えたのも何かの縁かもしれないものね」
「悪者みたいにってこの状況どう見ても……」って口から出そうになった感情を俺は飲み込んだ。こんな縁は結びたくない。
マイカは行ってしまった。背中が遠くなるまで、ずっと二人の事を見ていた。最後に見えたのは楽しそうに笑い合うマイカとミズホの横顔だった。マイカはどんな思いでミズホについて行ったのだろう。純粋に仲が良い訳がない。ミズホの事だから、どうしても裏があるのではないかと疑ってしまう。とても
「……コウキ、ごめん。オレ、ミズホちゃんの事全然何もわかってなかった。こんな事になるなんて思わなかった。悪い言い方かもしれないけど、ミズホちゃんはなんか普通じゃないよね?」
タクミは上手く
「いや、俺も咄嗟にこの判断しか出来なかった。ミズホの家にまで押しかけたりしたら、大変な事になるだろうし。ミズホの両親は俺の顔を見たら今度こそ通報してしまうかもしれない。本当にそんな事になったら取り返しがつかなくなるだろうし、どうすればいいかわからなくて……」
俺は頭が混乱して拙い説明しか出来なかった。
「……ありがとう。コウキがいてくれて良かった」
タクミは力が抜けたように寂しそうに笑っていた。
「明日までに何とかしなくちゃだね。でもコウキのバイトの面接は?時間ある?」
「面接は水曜日だから。今日は日曜だし、まだ時間はある。何とかしよう」
本当はもう一つ気になっていた工場のバイトの面接も申し込もうと思っていた。しかし今の自分にとって何が大切かと考えた時それどころではなかった。仕事はまた探せばいいかななんて甘く考えていた。
俺達はお互いにため息をついて落ち着いた後、仕切り直す為に近くのベンチへ腰掛けた。ベンチはひんやりして冷たかった。タクミも同じように感じたのか一回座った後、ビクッと立ち上がりまた座り直していた。どちらからともなく話しを始める。
「話を整理すると、マイちゃんはミズホちゃんとならサクラの事件が解決できる、または解決までいかなくても精神的に安定できると思ったからついて行ったって事だよね?」
「そういう事だよな。ミズホとなら心強いとか言ってたし。でも俺はミズホにサクラの事件について何かが出来るとは思っていない。マイカは前にこう言ってたんだ。私は犯人を知っていて、その犯人に狙われているって。だから逃げてるって」
「……そんな事ってある?」
「俺は今のミズホとマイカを見てこう思った。ミズホが犯人だからマイカを脅しているのかもって。マイカが『私を信じて』って言っているように聞こえたし」
「オレにも聞こえた。でも何でミズホちゃんが犯人だと思ったの?」
「証拠がある訳ではないけれどミズホは平気で俺を
「でもそれじゃ、マイちゃんが犯人を知っていたっていう辻褄が合わないよ?旅館でミズホちゃんと初めて知り合ったって言ってたじゃん?マイちゃんが逆に何か嘘をついている可能性ある?オレは……サクラの学校外の交友関係は知らない」
「そっか。そうだよなー。そこが辻褄が合わないか。でも本当ミズホは何なんだよ。女の友情って数時間やそこらで急激に深まるものなの?!絶対おかしいよな?ミズホは名探偵で全部お見通しとかある?だからマイカに協力しとか?でもミズホは絶対に何かを知っているって事だよな?あー、何かいろいろ思い出したらイライラしてきた」
「わかる、わかる。オレも、マイちゃんが一緒に居たいのがオレじゃなくて何でミズホちゃんなんだよって正直イライラしてた。……でも確かにミズホちゃんとサクラの関係性が分かれば何かが変わるかもしれないね」
情報不足で中々導き出せない答えに俺達は焦り、苛立ち始めていた。
「……学校内でサクラと仲が良かった子とか知らない?その子伝いで何か聞けないかな……ミズホとサクラの関係性ついて手掛かりが掴めるかも」
「サクラと仲が良かった子か……タニガワ。マイちゃんとタニガワはあまり仲良くは無さそうだったけれど、サクラとタニガワは割と仲良いみたいで結構話してるのは見かけたかも?」
「タニガワか」
「うん。タニガワ。クセ、強いよね、あの子」
タクミはよっぽどタニガワが苦手なのか口調がロボットのようになっている。
「でもそうなると今頼れるのってタニガワだけだよな?」
「……うん。でもどうしようか。でもオレはタニガワの連絡先知らないよ?明日学校に行って聞く?でも時間勿体無いよな。早く何とかしないとだし」
「俺……タニガワの連絡先持ってるかも」
俺はあの時タニガワに渡されたメモの事を思い出した。リュックサックやらズボンのポケットやらを漁り、あの時渡された小さなメモ用紙を必死で探す。まさか必要になる時が来るなんて思わなかった。あの時は身震いしたけど、今はタニガワに感謝せざるを得ない状況だ。でもやっぱり不服だ。素直になりたくない。リュックサックの奥底にクシャクシャになってしまったメモ用紙を見つけた。メモを見つけた時、嬉しいようなでもタニガワのあの時の顔が浮かんで来て少しだけ苦くなるような複雑な気持ちだった。イメージとは違う丸くて可愛らしい文字で電話番号が書かれていた。
俺はタニガワに渋々電話をした。
その間にタクミは今夜の宿泊先を探してくれていた。
俺が電話で名乗ると、暗かったタニガワの声は一気に明るくなり俺が用件を言う前に、俺達の居場所を早口で聞かれた。そして待っていましたと言わんばかりのスピードで俺達の元へ駆けつけてくれた。ベンチで長話は迷惑になるかもしれないと、俺達は近くのファミレスに移動した。案の定、混んで居なかったので良かったと思った。タクミと俺はカラオケで軽食を済ませていたのでそこまでお腹が空いておらず、ドリンクバーとポテトを頼んだ。タニガワは「あたしだけガッツリ食べたら恥ずかしい」と言ってパフェを頼んでいた。これでも妥協して選んだらしい。
「もー、なになにっ?!二人してあたしの話をしてたの?!」
タニガワは態度こそ素気ないが、表情がどこか嬉しそうに見える。
「いやー……。ちょっとサクラの事で、聞きたい事があって」
「あー、その事ね。そう言えばマイカちゃんいないけど、どこ行ったの?まさかバックれた?やっぱりあたしの連絡先コウキくんに渡しておいてよかったでしょ?!」
タニガワは今から冒険でも始まるかの様に目が輝いていた。俺はそんなに今の状況が楽しいのかと疑問に思っていた。タクミはタニガワが来てからずっと苦笑いをしていた。
俺達はこれまでの大まかな説明をタニガワにした。
「ふーん。そのミズホって子面倒臭そうだねー。あたしは仲良くなれなそう」
タニガワも人の事言えないけどねと心の中で呟く。
「ミズホとサクラに何か接点ってある?何か知ってる?」
「サクラの学校外の交友関係はあたしもちょっとわからないけど……。あ、そう言えば!親戚で仲がいい子がいるって話は聞いた事あるかな。幼い頃から姉妹みたいに育って今もすごく仲良しなんだって言ってたかも。その親戚の子の名前は聞いた事ないけど、それがもしかしてその『ミズホ』だったりする?あたしはそれくらいしかわからないかなー」
「可能性はゼロじゃないよな。だったらいきなり心強いとか言い出したのもわからなくはない」
「ってか、普通にマイカちゃんが犯人でそのミズホに
「それはない!」
タクミがタニガワの発言が許せなかったのか両手をついて立ち上がって言った。
「冗談よー。タクミくん、可哀想ね。そんないきなり現れた女にマイカちゃんの事簡単に奪われてー」
可哀想とか言いながらもやはりどこか嬉しそうに話している。タクミは無言で足を組んで、睨むように横を見ていた。端正な顔立ちだけにちょっとでも怒っていると迫力が増す。そんな事を思いながら見ていた。でもタクミが女子にこんな態度を取るのを初めてみた。よっぽど頭に来たのだろう。
「マイカちゃんもある意味いい君よ!自分ばっかりモテようとするから!!あたしが好きになる人は皆マイカちゃんの事好きになるんだもん」
「「……」」
「ちょっと!男子二人!!そこ笑う所でしょ?」
俺とタクミは真顔でお互いの顔を見る。
「もう!!とりあえず!あとは明日、ちゃんとマイカちゃんが来てくれるかでしょ?でも犯人が見つからない限り、マイカちゃんは戻ってこないと思うけどなー」
「……事件があった日の事を教えてほしい。二人とも思い出したくないとは思うけど……言える範囲でいいから」
「緊急事態だもんね」
「タクミとタニガワの二人から話を聞く事ができれば違った視点から事件の状況が見えてくるかもしれない。何かがわかるかもしれない」
「コウキくんはなんで、そんなに一生懸命なの?!」
「それは……」
「マイカちゃんの事好きなんでしょ?」
「あ、いや……」
「はっきりしなよー!」
「そ、そういうのじゃないから。マイカにはいろいろ助けてもらったし、今更放っておけないって思って。ミズホが関係しているなら尚更」
「ふーん」
タニガワは自分から聞いて置いて興味の無さそうな返事をしていた。タクミの顔は見る事が出来なかった。
「ま、いいけど?それじゃあ、あの日の話をしましょうか?」
タニガワは相変わらず楽しそうにニヤリと笑っていた。
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