第4話 夢の中の好きな人




「好きです。付き合ってください」




俺は腰を直角に曲げて、頭を下げた。勢いよく頭を下げたせいで、髪型が一気に崩れる。


告白の相手の名前はミズホ。


大人しくて、清楚でクラスでは教室の端っこの方で本を読んでいるタイプの子だ。ツヤツヤの黒髪をハーフアップにしていて、眼鏡をかけている。そんな所がまた良い。


高校二年に上がり、今のクラスになった四月から一目惚れだっただろうか、いつの間にか好きになっていた。気がつけば頭の中は毎日ミズホの事でいっぱいだった。


もちろん告白は放課後、体育館の裏で。古いって?でも意外と未だに告白の成功率が高いのが、体育館の裏らしい。



「あの、私のどこを好きになってくれたの?」


不安げなか細い声が、俺の頭上からきこえてくる。


「どこって」


「だって知っているよね?同じクラスだもの。私いじめられているのよ。この告白も何かの罰ゲームなんでしょう?」


「違うよ。俺は本気で!女子同士の関係は良く分からないけれど、男子の俺から見てもミズホが上手くいってない事は知ってる。だから俺はミズホの力になりたい。ミズホの事が好きだから」




「……じゃあ、私の事がどのくらい好きか証明してよ」



ミズホはしばらく考えてからそう答えた。眼鏡の奥の瞳は真っ直ぐに俺を見ていた。


俺はミズホにゆっくりと近づいた。このパターンは知っている。この前テレビでやっていた恋愛ドラマで見た。ドラマ通りならこの場合はキスか、ハグが正解だ。


ミズホもやはり女の子だ。案外ロマンチストなのだなと俺は阿呆な事を考えていた。


キスは俺の中でバンジージャンプ並みにレベルが高いからハグをしようと考えた。ハグでも充分緊張するが。


俺は両腕を伸ばし、ミズホに優しく触れようとする。


「いきなり何?!やめて!!」


全力で両腕を振り払われた。俺は間違えてしまったようだ。嫌われてしまったかと胸がチクッと痛んだ。



「違う、そうじゃない。私が求めているのはそう言うのじゃなくて。……変わってよ」


「え?うん……?」


そう言ってミズホは俺の両手を優しく握ってくる。ミズホの手は柔らかく、温かかった。

変わって?私にやらせてって事?ハグじゃなかったらやっぱりここは……。心の準備は全然なっていないけど、俺は照れながらギュッと目を瞑った。


ミズホはゆっくりと俺の手を握りながら上に上げていく。どこまで上げるんだ?そして自分の首元に持っていった。

今触れているのは制服の襟?俺はハッと目を開ける。そしてミズホは自分の手を離した。



「きゃー!!助けて!!」


「え?」


「「どうした?」」



何が起こったのかわからなかった。体育館で部活動をしていた、生徒達が一斉に集まってくる。


「コウキくんが!!私に乱暴しようとするの!!」


誰かが呼んできた男の先生二人に、状況が読み込めず無抵抗な俺は簡単に押さえつけられてしまった。


女子達はミズホを囲むように群がっている。そしてミズホは何故か泣いていて、周りの女子達に心配されていた。



俺を見る皆の視線が鋭い。


俺は告白の答えも貰えていない上に、悪者にされたような感じがして意味がわからなかった。

まずい状況なのは明確だ。



俺は押さえつけられながら職員室に、ミズホは大事をとって保健室に連れて行かれるようだ。



すれ違いざまにミズホの顔が視界に入った。そして小さな声で宝物を見つけた子どものように嬉しそうな声で確かに俺に向けてこう言った。



「……偽善者」





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