第8話 長生きしすぎだろ!
「は? 一兆一歳!? は? おい、兆ってあれだぞ、億の千倍に当たる……」
「そう! この前の誕生日で一兆一歳になったの! ちゃんと毎年誕生日祝っているから一年の狂いもないわ!」
再び「えへん」と胸を張るクラッサ。あまりにも予想外な年齢に驚くどころか逆に怒りが込み上げてきたぞ。
「生きすぎだろお前!! どんだけ長生きなんだよ! 一兆一年とかおかしいだろ!!」
下手すりゃ宇宙が創造される前からコイツはいたんじゃねえか? こんだけ長生きしているのにあの体たらくじゃ本当に救いようねえぞ、マジで。一兆一年も生きているんだぞ、それであのザマじゃ話にもなんねえだろ。しかも律儀に毎年誕生日なんか祝っちゃってさぁ……
長生きしているんだから、何か役に立つ知恵の一つや二つ貸してくれよ、まだ近所の高齢者の方が役に立つぞ、全く……
「そりゃ女神だもの。でも、分かったでしょ? 女神の凄さと言うものをっ!」
「いや、その逆だぞ。バカみたいに長いこと生きてよお、長生きだけが取り柄か? いつから年金貰ってるのか知らねーけど、東町の不良債権だろこんな女神」
「ふ、不良債権!? ひ、ひどい!! そこまで言わなくても良いじゃない! た、確かに、東町は六十歳から年金が支給されるから、私は収めた年金よりも受け取った年金の方が多いのは確かだけど、そこまで言わなくても良いじゃない!」
そもそもコイツは年金収めてねーだろ。虚偽申告すんな。受け取るだけ受け取って、東町の町民が可哀想でならねえぜ。
「いや、でも一兆一歳って相当やばいぞ。まだ六千歳とか言ってもこの程度かと予想してたけど、何億倍もケタが違えじゃねーか。何が『お姉さん』だよ、お姉さんの枠で落ち着くわけねーだろ。おばあちゃんでも足りねえよ」
ファンタジーな物語を少しは読んでいたから、千単位規模の年齢ならまだなんとか受け止めることができたけどさぁ……一兆なんて規模、無理に決まってるだろ。俺はコイツをどう扱えって言うんだよ……こんな奴が年齢でマウント取ってくると言うんだから、箸にも棒にもかからねえ存在だぞコイツ……
「ひどいひどい! どうしてそんなこと言うの! ウルギが尋ねたから答えただけなのに!」
「一兆一年も生きてる輩が目の前にいたら文句も言いたくなるぞ。一兆一年も生きた結果がパチンコ中毒者なんだから尚更な。そんだけ長生きしてるんだったら全知全能にもなれただろうに…… 俺は正直『ガックリ』だよ」
肩を
「ガックリだなんて…… そんな…… わ、私が一体何をしたって言うのよ……!?」
「何もしてねえから余計文句を言いたくなるんだろーが……」
これ以上クラッサの相手をするのも疲れるので、俺は再び足元にある草をむしり始めることに。まだ何もしてこない置物の方が役に立つと俺は思うぞ。
「こ、これから活躍するからさぁ! そんなに失望しないでよウルギ」
「もう無理だろ。名誉挽回したけりゃそこにある草全部抜けよ。何度も言うけど、俺さっきからこれしか言ってねえぞ」
俺が答えれば、クラッサはまたも「ゲエエエエエ!」っとカエルのような声で肩を落とした。マジでどこからそんな声が出てくるんだよ。共鳴して他のカエルが寄ってきたら家主に怒られるから止めてくれって感じだ。
にしても草抜きもできないんじゃ、先が思いやられるぜ。誰かコイツを引き取ってくれねえかな。パーティの穀潰しにしかならないと思うのだけど。
「やだやだぁ!! なんで冒険者になったのに『クエスト』じゃなくて近所のおばあちゃんのお手伝いしないといけないのぉ〜!! 絶っっ対オカシイって!! こんなの冒険者じゃないよ!!」
んで駄々こね始めるから余計厄介なんだよな。誰がどう見てもおかしいのはクラッサの存在だろ。一兆一年も生きやがってよぉ…… どーすんだコイツ。
「ああ! もうやかましいな!! 分かった、分かったから! これ終わったらクエスト受けに行くから静かにしろ! 近所迷惑になるだろーが!!」
「本当、本当に!? これ終わったらクエスト受けてくれるの?」
「これが終わったらな。とりあえず俺は腹が減ってるんだ。何か食ってからにしろ! 話はそっからだ! とりあえず仕事で得た金で腹ごしらえしてからじゃねーと、クエスト云々どころじゃねーだろ」
その言葉を聞いたクラッサは「はっ」と我に返ったような表情を浮かべ「た、確かに」と同意してくれた。
「ウルギの言う通り、私もお腹ペコペコ!! だからまずは何か食べてからだよね。それはそうかも、なるほど納得納豆ナスビ」
何が『なるほど納得納豆ナスビ』だ。ギルドで並んでいた時に突然『腹が減った』とか喚き出したの一体誰だと思ってるんだよ。こんなんで納得される女神もどうかと思うけど、もういいや。女神じゃない別の何かって考えた方が気が楽そうだな。
これには流石のクラッサも腑に落ちたようで、伸びをしながら「やるぞやるぞー!」と気合を入れてくれた。
クラッサがようやくしゃがみこみ、草を抜こうとした時、向こうの茂みからカサカサといった怪しい音が聞こえてきた。
「ん? なんだこの音? 蛇でもいるんか?」
「え!? 蛇!? やだやだ、蛇大っ嫌い!!」
反応したクラッサがバッと立ち上がり、縮こまりながら後退りをしはじめた。確かに蛇は怖いけど、そんな大袈裟に驚かなくてもいいんじゃねえか? 刺激しなけりゃ何もやってこねーだろ。
ただ、音の正体が蛇だと決まったわけではねえからな。俺達二人は音のする茂みの方へ視線を合わせ、とりあえず警戒は続けることに。
そしてすぐのこと。
『『キーッ!!』』
「うわっ!」
「ひっ!!」
茂みの中から勢いよく二つの影が飛び出してきやがった!
影が向かった方へ目を移せば、いつの間にか俺達の前に黄緑色のゼリーのような物体が二体いるじゃねーか。大きさはネクストバッターズサークルぐらいで──結構でけえな──ブヨブヨしていて、なんていうか…… コンニャクみたいだな。全然うまそうじゃねえけど。
「なんだコイツら!! まさか──」
「そのまさかよウルギ! あれが東町のモンスター、スライムよ!!」
「も、モンスター!?」
黄緑色をしたゼリー状の生物。あの見た目は間違いなくスライムだ。俺の知っているゲームで登場するスライムとあまり変わらないからすぐに分かったけど。いや、この目で見たのは初めてだぞ。異世界に来たことねえから当たり前か。
「うお、マジかよ。本物のモンスターが出てきたじゃねーか! どーすんだよクラッサ!」
身を引きながらクラッサへと目を合わせると、クラッサは白いドレスを翻しながら、さっと構え始めた。
「どうするって、モンスターが来たらやることなんて一つ!!」
「──戦うわよ、ウルギ!!」
は? ガチで言ってるのかよ!?
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