第4話 なんだこの行列は!?
「ギルドはこの道をまっすぐ行ったところよ」
そう案内されて、俺とクラッサは横並びになり、舗装されていない道の上を歩き進めることに。
歩きながら、俺はキョロキョロと街並みを眺めていた。
人間も、俺たちのいた世界と全く変わらない感じだ。着ている衣類が異なるくらいで、中身は俺達と一緒だろうな。
それに、殆どが木造家屋の古びた街並みだな。
だけど、その分、俺のいた世界よりかは文化も、技術も進んでなさそうだ。人々の服装も、かなりボロボロだし、自動車なんてものもない。
「とても、こんな世界でパチンコ屋があるなんて、信じられねえな。世界観と合わなさすぎだろ」
「そんなこと、私に言われても困っちゃうわよ。ここにいる人々が作ったものなんだから……必要だから作った、それだけじゃないの?」
明らかにこの町であの『パーラー東町』は異質だったぞ。周辺がボロ屋敷ばかりだから存在感が半端なかったしな。需要があるから作られたと言われれば、そうなんだとしか答えられねえが、それでいいのかよ。それ以外の文明も頑張って発達させろよ。
存在感と言われれば、俺の格好も上下黒のジャージ姿──俺の寝巻きだ──のままだから、かなり目立っているな。クラッサの白のドレスも相まって結構目を引いてしまっている。
というか、なんでコイツは世界観にマッチした服を着てねえんだよ。こっち側の世界のものだろうが。目立つのが好きなのか?
「ちょっとぉ、あまりキョロキョロしないでよ! お上りさんと間違えられるじゃない!」
「初めて来た世界なんだから仕方ねえだろ! 普通の人間だったらもっと大騒ぎしているところを、俺はよく耐えている方だと思うぞ」
海外留学以上のギャップを肌で感じているんだ。もう少し静かに雰囲気に浸らせてくれって感じだぞ。
まぁ、そんなこんなで小言を突き合いながら数分程歩き進めていると、物凄い行列が目に入った。
「あ、ここね。ギルドの受付は」
クラッサが足を止め、人の行列をを指さしそう言ってくる。
「は? これがギルドの受付……?」
「そう! ここが、『東町』のギルド! 冒険者への入り口よ!」
とは言われても、大量の人が立ち並ぶ行列にしか見えんのだけど。これが冒険者の入り口的な存在なのか?
「なんか、すんげえ人なんだけど……」
列の先がここから見えないぐらい長蛇の列だ。多分この先に、いわゆる『ギルド』というものがあるのかも知れねえが、なんじゃこの長さ。ライブのグッズ売り場かよ。
「あそこが最終尾ね、並ぶわよウルギ」
「なんだこの行列は…… マジで? これ並ぶのかよ……」
「そうよ。冒険者の洗礼ね。ここの行列はもはや名物よ」
「はぁ?」
俺の袖を摘みながら促そうとするクラッサを止めて、一度ゴネてみる。こんなのが『冒険者の洗礼』だなんて苦行すぎるだろ。こんなの名物にすんなや。もっと、しっかりしたものをランドマークにしろよ。東町の見どころ無さすぎるだろ……
しかもなんか、列の進みも遅そうだし、いやだぞこんな行列に並ぶなんて。一体何時間かかると思っているんだよ。その目的がテーマパークのアトラクションじゃなくて、『冒険者の登録』だぞ。何も楽しくねえぞ。
「クラッサ一人で並んでくれよ。こんな行列に並ぶなんて俺はごめんだぞ。委任状書いておくから、俺の分もついでに申請してきてくれ」
俺はその間散策でもしようかな。初めて来た異世界だし。
なんて、俺の意向を伝えると、クラッサは目を広げながら「ええ!?」と声を上げた。
「な、なんで私一人が並ばないといけないのよ! 自分の分は自分で登録しなさいよ!」
「大体、ギルドに行くことになったのも、お前がパチンコで有金を全部溶かしたからだろーが!! それぐらい耐えて並んでくれよ!」
「ひどい! ウルギの人でなし!! 確かに、私が投資に負けたからかも知れないけどそれはあんまりすぎよ!! こんな行列をたった一人で長時間並ばせるなんて、男のすることじゃないわ!」
「たまに様子見に来てやるからいいだろ?」
「たまにって、どうせ受付寸前に『お、そろそろ受付だな。おつかれっす、クラッサ』とか言いながら何食わぬ顔でノコノコやってきて、列に自然に溶け込んで、あたかも『最初から自分も一緒に並んでいました』的な面構えするつもりなんでしょう?」
ちっ、当たってやがるぜ。俺が列で並ぶ戦術を全部抑えていやがるな……
「いやだよお!! こんな長蛇をボッチで並ぶなんて!! 私はその間話す相手もいないのよぉ! お金を溶かしてしまったのは謝るから、一緒に並ぼうよお!!」
「ああ、もう! うるせえな!! 分かった、分かったから騒ぐな!! 並べばいいんだろ! 並べば!! ったく、とんでもない奴だ……」
俺がそういうとクラッサは「並んでくれるの!?」とパァッと顔を明るくした。感情の起伏が激しい奴だな。
「そうとなれば、並びましょ! 大丈夫、一緒におしゃべりしていれば、あっという間よ」
「あぁ、キッツいなぁ……」
強い力でクラッサに引き寄せられ、俺達一向は列の後ろへ並ぶことに……
「相変わらず、恐ろしい行列だな。ファス○パスねぇのかよ」
「こういうのは並ぶのが醍醐味じゃない! 何、ナンセンスなこと言っているのよ」
は ? 俺がナンセンスなのかよ? どうなってるんだ、東町のセンス。こんな行列に並ぶことが醍醐味だなんて他にやることねーのかよ。マジで全然進まねえしさぁ……
「俺もう疲れたんだけど……」
「早くない!? まだ全然よ、何言ってるのよ!」
「言ったじゃねえか、俺は体力が全然無いって。立ち止まることだって体力消費するんだぞ」
「それだったら大丈夫! 疲れたら回復魔法を施してあげるから…… そおれ! ヒール!」
クラッサがそんなことを言うと、俺の身体がスッと軽くなる。え? どうなってるんだ?
「おぉ…… 疲れが感じなくなったぞ。回復魔法……?? 回復魔法なんてあるのか、この世界」
「そうよ。貴方の世界とは違ってこの世界では、『魔法』が使えるの。あのね、魔法にはいくつか、属性があってね──」
「なんか、話が長くなりそうだからそれは説明しなくていいぞ」
俺が遮ると、クラッサは不満気に「むぅ〜」と頬を膨らませた。
いや、退屈だろ、魔法の説明とか…… そんなのここで長々と綴ったって意味ねえだろ。参考書みたいになったら面倒だし。長い説明は不要、そこは省略でいいんだよ。
「つまり、俺は魔法の力で回復したと…… 便利なもんだな」
「そういうことね。だから、疲れたら魔法で回復すればいいのよ」
魔法と言えばファンタジー異世界のお約束だな。けど、回復魔法があるからって痛いのは変わりねえから、戦うとか嫌だぞ。そこはクラッサがやってくれって話だ。
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