勇者として召喚された俺、平凡でこれといったスキルが無いのにも関わらず、無能な女神を引き連れるハメとなりました。分かっていると思うけど、足手纏いは即パーティー追放だからなっ!
第2話 飛ばすんだったら1話目で異世界へ飛ばせよ。俺は嫌だけど。
第2話 飛ばすんだったら1話目で異世界へ飛ばせよ。俺は嫌だけど。
「んで、じゃあ俺はその異世界に行って何をすればいいんだ? もう二話目だぞ、とっとと異世界に飛ばさねえと読者が飽きて別の作品へ逃げちまうぞ」
「分かってるわよ! ってか、それは売木くんのせいでしょ!? 元々私の予定では一話目で売木くんを異世界へ飛ばす予定だったの! それなのに、いちいち売木くんが抵抗してくるから長くなっちゃったんでしょう!?」
俺のせいかよ。俺は異世界なんかには行きたくねえけど、何もない白の空間にずっといるのも流石に居心地が悪くなってきた。なんなら、何かしらがある異世界の方がまだいいのかもしれない。
「売木くんには世界を救って欲しいの! 私が
「無理だろ。なんでよりにもよって勇者ものをさせようとするんだよ。俺は運動が苦手なんだ、やらせるならスローライフものかグルメものにしてくれ」
「なんでそんなことを言うのよ。女神が直々に選んだのよ! これ以上光栄なことはないはずよ」
女神が託した勇者と言えばとても聞こえが良いが、こんな女神じゃなあ…… 推薦された勇者も士気が上がらねえだろ。
それに、世界を救う勇者がやってきたと言われて出てきたのが俺じゃ、異世界の住民全員ガックリだろ。『なんでこんな奴を召喚したんだ!』って逆恨みされそう。それを言ったらまたうるさくなるから口にはしねえけど。
「私の管轄する世界に突如、魔王が現れたの。だから、売木くんはそれをやっつけて欲しいのよ」
「ますます無理だろ。現世界の俺を知ってそれを言ってるのか? 俺なんかに体力なんかねぇし、どこぞの主人公みたいに根性もねえぞ。加えて『前世が無職だった』みたいなハングリー精神も兼ね備えてねえからきついだろ。今からでも遅くねえから、再抽選しろよ。お得意のマイナ○バーカードで」
「召喚にはお金がかかるって言っているでしょう! 私にはお金がないからもう無理よ! 貴方が最初で最後の勇者なの。売木くんが、世界最後の希望なの!」
とんでもなく薄い希望だな。そよ風で消し飛びそうな程のうっすい望みだぞ、そんなの。
俺が来たところで何もできねえし、何も変わらねえだろ。そんな世界、さっさと終わらせた方が身のためだと思うがな。
「だからお願い! 一生のお願い!! とりあえず、一回やってみよ? やってみてダメだったら私も諦める!」
女神が懇願するなんて皮肉な話だな。しかも、若干手法を変えているのが嫌らしい。
「マジかよ…… 知らねえぞ、ガチで。秒で破滅しても恨むなよ」
「絶対そんなことしないわ! 神に誓って売木くんを恨まない!」
本当にこいつが神なのか……いや、まだ信じてねえけど、この言動は神としてしちゃいけねえだろ。俺の選択肢が皮肉るしか残ってねえじゃねえか。
だけど、これ以上ゴネたところで、俺が異世界に行くという結果も変わりそうにないし、とりあえず形だけでも行けばクラッサも満足するだろう。その後は知らねえけど。
それに、俺はまだ死んでいないから、世界が滅亡すれば彼女も諦めて元の世界に戻してくれるんじゃねえか?
「──分かった。とりあえず、そっちに行けばいいんだろ?」
俺がそう答えるとクラッサはガッツポーズを作り「よっしゃあ!」と叫んだ。おめでたい奴だな、俺にどんな希望を抱いているんだよ。色々終わってるだろ。
だけど、当の管轄女神は途端にキリッとした表情へと移り変わった。
「よし、そうとなれば早速私の世界に行くわよ!」
悠長な奴だな。自分の世界が滅ぼされようとしているのに、よくもまあこんな顔つきになれるもんだ。全く無関係な俺が逆に異世界の住人のことを気に掛けてしまうほど心配なやつだ。
俺の心配事をよそに、クラッサは「そのま・え・に」と人差し指を立てて左右へ揺らした。
「異世界転移の前の恒例としてあれをやらなきゃね。いわゆる『女神からのプレゼント』」
「『女神からのプレゼント』?」
復唱しながら首を傾げると、クラッサが得意気に「そう!」と胸に手を当てた。
「異世界に行くにあたって、一つだけ……
酔っているのか、クラッサはワルツのような踊りをしながら俺に向かって熱弁を始めた。側から見たら、そこそこ危ない奴だぞ。
「一つだけ、売木くんが望むものなら何でもあげるわ。これこそが『女神からのプレゼント』。異世界もののお約束ね。時として勇者は、異世界に持ち込んだ『プレゼント』を武器にして、最後まで戦うのよ。例えば、一見、何の変哲もない鍋の蓋ですら、『女神のプレゼント』となれば最後の最後で伏線と化するのよ」
「小説の読み過ぎだろ」
俺の言葉をガン無視して、クラッサは「と言うことで」と無理矢理話を進めた。イライラするけど、異世界に行ってしまえばこんな奴とはおさらばだ。少しだけ我慢しよう。
「売木くんには何か『持っていきたいもの』を一つ選んで──」
「コーンフロマイティ」
即答すると、クラッサは「は?」と言い残し、その場で踊りを停止した。
「えっ、なんて?」
「米国ゲロッグ社が誇る至宝のシリアル食品、『コーンフロマイティ』をくれ」
無人島で持っていくものは何かと聞かれたら、俺は『コーンフロマイティ』と言い切る人間だ。今回のケースもそれと似たようなものだろ。それ程、俺はあのシリアルをこよなく愛しているんだ、とっととくれよ。
「ちょ、ちょっと待って売木くん、答えを出すのが早くない? 一個しか持っていけないんだよ!? これから売木くんの命綱になるかもしれないものなんだよ。普通だったら、もう……すっごい頭を抱えるものだと思うのだけど。それがシリアル食品って……」
「いいじゃねえか、シリアル食品。一個くれるって言ったんだろ? 現実的に可能な奴なんだし、女神なら早くよこせよ」
俺の言葉を耳にした女神は「えー!!」と声を上げ、固まってしまった。
「信じられない。最後の希望をシリアル食品に託すなんて、あり得ないんですけど」
「世界の希望を俺に託す方がもっとあり得ねえぞ」
あり得ないなんて、この女神から一番言われたくねえ言葉だな。
クラッサは唸り声を上げながら頭に手を当て「マジかぁ……」と小さく溢し、その後俺へと目を向けた。
「いやさぁ、こう言うのってお決まりってあるじゃん? 分かるでしょ? ほら、異世界に持っていくものといえばさあ……ほら、ほらぁ」
妙に身体をくねらせ、色気のある声でそう言ってくる。自己主張したいのか、クラッサは胸元に指先を
「ねぇ、『女神からのプレゼント』といえば、たった一つしかないでしょう、売木くん」
──多分、こいつ、俺についてくる気だぞ。
あれだろ、異世界に持っていくものとして、自分を指名させるシチュエーションに憧れてこんな色仕掛けをしてくるんだろう。自分も異世界に行きたいから。
自分が管轄している世界なはずなのに、なんでこんなに行きたがっているんだよ。意味が分からねぇ、何が目的か知らねえけど、こんな輩が一緒についてくるだなんて、流石にごめんだぞ。
「いやだぞ、なんでお前を指名しないといけねえんだよ!」
「は、はあ!? まだ私そんなこと言ってませんけどぉ!?」
「じゃあ、とっととフロマイティくれよ! もったいぶらずにさあ!」
「一緒に行きたいです、すみません。売木様、私も連れて行ってくださいお願いします」
「ハァ!? お前は女神なんだからそこらで大人しく俺を見守るだけで十分だろ」
「行きたいよお!! 私だって、異世界に行きたいよお! だって、ずっと見守るだけなんて暇じゃん!」
「もうお前来るな! 俺一人で向かわせろ!!」
「いやだあ! 連れてってよぉ。頼むからさぁ! 置いてかないで!」
なんでぐずり始めるんだよ、そんなに異世界に行きたいのかよ。
「お前ハナからプレゼントなんて用意してないだろ!? っていうか、できないんだろ? 金無くて!」
「そこまで察してるなら、なんでそんなヒドいこと言うのよぉ、連れてってよお、足引っ張らないからさぁ」
足引っ張るビジョンしか見えないのだけど、マジかよ…… こいつまで付いてくるのかよ。なんかポンコツそうだし、図々しいし、可愛いのは認めるけど……
「あーもう、分かったから離れろ! 鼻水がつくだろーが」
「ぐすん、連れて行ってくれるの?」
「連れてくから落ち着け。全く、それなら最初から『女神のプレゼント』とか訳わかんねえこと言い始めるんじゃねえよ、準備できねえくせによ」
「滅相ございません。けれど、これは売木くんにとっても悪くない話でしょ? 私は向こうの世界のことよく知っているから、案内役になれるはずだわ」
「それに、女神がお供だなんて、これほど心強いことはないわ。だって女神の加護があるもの」
「よくもそんなことをいけしゃあしゃあと言えるな」
もはや自虐としか思えない発言だな。
俺のツッコミが聞こえたのか知らないが、クラッサは顔を赤くしながら「こほん」と咳払いを一つし、顔を前に向けた。
そして、クラッサは俺へと肩を寄せて、人差し指を前に突き出し、高らかに声を上げた。
「さぁ、これから一緒に旅に出るわよ売木くん……改め、勇者ウルギ! 私と一緒に世界を救うわよ!」
「名前全然変わってねえじゃねえか」
「気にしない気にしない。頑張るぞー エイエイオー!」
クラッサが拳を天に突き出すと同時に、俺たちは白い光に包まれた。
⭐︎
「とうちゃーく」
白い光が消えた途端、俺たちは原っぱの上に立っていた。
「ここは……?」
遠くには古い木造屋が立ち並ぶ街に、大きな風車と、とても長閑な景色が目に映った。ここがどうやら異世界のようだな。
俺の言葉が耳まで届いたのか、クラッサは「そう!」と俺から離れて原っぱを走り、振り向いて手を広げた。
「そう、ここが私の管轄する世界」
静かな風がクラッサの黒髪を靡かせる。
「──『東町』よ!」
「……随分とありきたりな名前だな」
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