勇者として召喚された俺、平凡でこれといったスキルが無いのにも関わらず、無能な女神を引き連れるハメとなりました。分かっていると思うけど、足手纏いは即パーティー追放だからなっ!
一木 川臣
第1話 クソみてぇな女神だな
──ここは、どこだ……?
どうも、皆さんこんにちは。俺は
ただ、平凡と言われてしまえば、とりあえず何事も『ある程度』の成績が残せる万能な輩だと思われるかも知れねえ。だが、それは大きな間違いだ。この辺りの誤解は早急に訂正せねばな。
俺はとにかく運動がぶっちぎりで苦手なんだ。血族がチーズ牛丼食ってそうな連中ばかりか、その遺伝が祟ってしまい、俺も随分とナードな男に育ってしまった。
強いて人と違う点を挙げるとすれば、俺は米国ゲロッグ社が生み出したシリアル食品『コーンフロマイティ』が好きなことぐらいだ。これ以上の特徴はねえぞ、詮索しても無駄だ。そこらの雑草と思ってくれればいい。
さて……そんな俺だが、目を覚ましたら見知らぬ空間に飛ばされていたのだ。信じられねえだろ? 俺も信じられなくて、今も呆気に取られている最中だ。
辺りは真っ白で何も見えやしねえ。どこが上でどこが下かも分からない、広々とした白の空間に俺が
確か、俺は布団の中だったはずだ。健康生活よろしく夜の九時に就寝し、明日の朝に備えようと布団に潜り込んだはずだというのに…… なんで、俺はこんな変なところにいるんだ?
だとしたら夢か? 夢なのか? 夢だと信じたいところだけど……
辺りを見渡しても、白一色だ。白って二百色ぐらいあるらしいけど、そうとも思えないくらいの真っ白な空間。俺には白を見分ける力が無いらしいな。それはさて置いて、ここは一体どこなんだ?
沈黙の間が数秒ほど続いたその時であった。
突然、ファンファーレが鳴り出した。ファンファーレとともに大量の紙吹雪──豪雪かと思うぐらいのとんでもねえ量だぞ。紙吹雪の量間違っているだろ──が俺のあたりをひらひらと舞い散ってゆく。
「パンパカパーン! おめでとうございます!!」
どこからともなく聞こえる女の人の声。一体どこからかと首を回していたら、突然目の前に少女が現れた。
「おめでとうございます、売木さん。貴方は世界を救う勇者に選ばれました!!」
白のシルクで織り込まれたドレス──保護色かよ、目がチカチカする──を身に纏った少女が俺に向かってそう言ってくる。長い黒髪に、胸元に浮き出る双珠がとても目を引く少女だ。どちらかといえば、綺麗な顔立ちと言える。年齢も俺と同い年くらいか……?
そんな白の少女が、俺の顔面に向けてクラッカーを鳴らしてきた。
「おい! 人の顔に向けてクラッカー鳴らすな! 一体何の騒ぎなんだよ!」
火薬の匂いが鼻腔を刺し、俺は思わず咳き込んでしまった。いきなり現れて突然こんなことしてくるなんて、びっくりするだろうが!
そんな俺を他所に、目の前の少女は「いや〜、めでたいめでたい」とご満悦状態だ。全然俺の話を聞いてねえな。
「驚いた? ねえ、売木くん!? 驚いたでしょ!?」
目を輝かせながら、詰め寄る少女に俺は「あ、あぁ……」と押し負けてしまった。
「うぇい! サプライズ成功!!」
「サプライズじゃねえよ! 何なんだよ、この世界といい、クラッカーといい、お前の存在といい。いきなり突然すぎるだろーが! 度がすぎたサプライズは
「まぁまぁまぁ、売木くん。そんなにカッカしないの、これから私が順を追って説明するから」
肩を叩かれ、少女に
「はじめまして、私の名前はクラッサ。とある世界の女神をしている正真正銘の神様よ!」
「はぁ?」
「えへん」と胸を張るクラッサと名乗る少女。やたらとでかい胸が更にされる。
何言ってるんだコイツは。ついに俺もトチ狂った夢を見るようになったのか? 勘弁してくれよ。
「うんうん、わかるよ売木くん。私が女神だなんて信じられないっていう気持ち。だけどね、売木くん、これは紛れもない事実なのよ! 私が女神!! 私こそが真の女神!!!」
「うるせえな! そんなに大声で主張すんな。俺の鼓膜を破る気か」
女神のくせに、なんでこんなに自己主張が激しいんだよ。それに、俺の知っている女神と全然違うぞ。女神っていうのは……こう、お淑やかで、優しくて……それこそ『女神のような微笑み』と表現されるような柔らかな女性が担当するんじゃねえのかよ。少なくとも、こんなうるさくて、図々しそうな口調をする女神なんて聞いたことねえ。
でも、この辺りを変に噛み付いても、また更に騒がれそうなので、俺はスルーを選択することに。
「んで、その
質問を飛ばすと、クラッサは「よくぞ聞いてくれましたっ!」と身を乗り出した。いちいちリアクションがでかい
「ここは白の空間。あっ、『見たそのまんまじゃねーか』って言うのはまだ早いからもう少し黙っててね、今から説明するから」
俺のツッコミを懸念したのか、一つ保険をかけた後、クラッサはゴソゴソと分厚い冊子──辞書くらいの厚さだな──をどこからともなく取り出し、開き始めた。
「えーっと。『白の空間。ある世界とある世界を紡ぐ
「思いっきしマニュアル読み上げてるじゃねーか。チグハグだなぁ」
小言で突くと、クラッサは「なによ!」と口を尖らせて見せた。
「小難しいことばかりでよく分かんなかったかもしれないけど、簡単に言えば、売木くん異世界に飛ばされるってことよ。その為に一時的にここにきている……? みたいな、感じ?」
「はぁ?」
異世界……?? な、なんかこの展開聞いたことあるぞ。ある日、事故かなんかで死んでしまい転生するというあれか!? それに俺の前には女神と名乗る少女…… これはまさかっ!
「ちょ、待て! 異世界に飛ばされる……って俺、死んだのか!?」
「死んでないわよ」
おぉ、まじか…… すっげえビビったじゃねえか。てっきり寝ている間に死んでしまったかと思ったぜ。焦った焦った……
「別に死んでないわ。普通に生きた貴方をここに召喚したの」
「んじゃなんで俺が異世界飛ばされるんだよ!! おかしいじゃねえか、死んでもいない奴を異世界に飛ばすだなんて!」
「仕方ないじゃない! だって死んだ人の転生召喚はとても仲介手数料が高いんだから! 特に、最近は悪徳業者が間に入って、法外な仲介手数料を取ろうとするのよ! 私の財力じゃ生きた人間を呼ぶのが精一杯よ!」
確かに、転移のきっかけが死亡だけじゃないのは分かっているけど、召喚するサイドにも色々都合があったのか…… まぁ、異世界転生は金になりそうだしな。
「にしても、俺を異世界に飛ばすなんてことすんなや。なんでよりにもよって俺なんだよ。生きている奴なら誰でもいいんだろ? 意味が分からねえよ」
「それは……その。貴方が選ばれし者だからよっ! むしろここは喜びなさいよ、神に選ばれたんだから、もっとはしゃぐべきよ!」
なんじゃそら……
「どうせダーツを投げて的中した写真がたまたま俺だった……とかじゃねえの? なんか、出会って間もない中、こんなこと言って申し訳ねえけど、そういうことしそう」
訝しげな視線を飛ばすと、クラッサは「なによなによ!」と顔を赤くして憤った。
「そんな適当なわけないでしょ!! もっとしっかりと選んだわよ! 女神としての誇りをかけた厳正なやり方でね!」
「んじゃ、抽選方法を公開しろや。妥当性があれば、この先の話もちゃんと聞く」
言い切ると、クラッサはマゴつきながら「えっと……」と歯切れ悪く話し始めた。
「売木くん、最近マイナ○バーカードを発行したでしょ?」
「もうダメだろ!!!」
この時点で十分察せたぞ! 嫌な予感しかしねえよ、選別方法で『マイナ○バーカード』なんてワードが出たら。思い浮かぶものが限られるし、どれもこれもロクなもんじゃねえよ。
「まだ何も言ってないじゃない!!」
「言わなくても分かるぞ。どうせ頭に思い浮かんだ数字が、俺のマイナ○バーが合致していたって話なんだろっ!?」
「は? 貴方エスパー?」
「もう俺を帰らせろ!!」
嫌だぞ、こんな適当な理由で異世界なんかに飛ばされたら。選別方法もそれでいいのかよって話だぞ。
「イヤ!! ずぅえええっったい帰らせません!! 別世界から人間を転移させるだけでも、いくらかかっていると思っているのよ!」
自力で俺を転移させたんじゃねえのかよ。仲介業者に任せっきりな女神がいて大丈夫なのかよ。
しかし、この様子だと俺を帰らせる気は微塵も無さそうだな。気持ち云々より、お金の話が出ているあたり断固として俺の意見を拒否しそうだ。
ともあれ、ここの空間から抜け出すのも戻るのも、目の前にいるクラッサ次第っぽいな。
「クソみてぇ女神だな……」
「聞こえてるわよ!!」
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