勇者として召喚された俺、平凡でこれといったスキルが無いのにも関わらず、無能な女神を引き連れるハメとなりました。分かっていると思うけど、足手纏いは即パーティー追放だからなっ!

一木 川臣

第1話 クソみてぇな女神だな

──ここは、どこだ……?


  

 どうも、皆さんこんにちは。俺は売木うるぎという名の男子高校生で、今までこれといって目立つこと成し遂げていない、言わば『平凡』な男だ。何もせず、何も起きずでそろそろ一七年目の人生へ突入しようとしているところである。


 ただ、平凡と言われてしまえば、とりあえず何事も『ある程度』の成績が残せる万能な輩だと思われるかも知れねえ。だが、それは大きな間違いだ。この辺りの誤解は早急に訂正せねばな。


 俺はとにかく運動がぶっちぎりで苦手なんだ。血族がチーズ牛丼食ってそうな連中ばかりか、その遺伝が祟ってしまい、俺も随分とナードな男に育ってしまった。


 強いて人と違う点を挙げるとすれば、俺は米国ゲロッグ社が生み出したシリアル食品『コーンフロマイティ』が好きなことぐらいだ。これ以上の特徴はねえぞ、詮索しても無駄だ。そこらの雑草と思ってくれればいい。


 さて……そんな俺だが、目を覚ましたら見知らぬ空間に飛ばされていたのだ。信じられねえだろ? 俺も信じられなくて、今も呆気に取られている最中だ。


 辺りは真っ白で何も見えやしねえ。どこが上でどこが下かも分からない、広々とした白の空間に俺がたたずんでいるだけだ。


 確か、俺は布団の中だったはずだ。健康生活よろしく夜の九時に就寝し、明日の朝に備えようと布団に潜り込んだはずだというのに…… なんで、俺はこんな変なところにいるんだ?


 だとしたら夢か? 夢なのか? 夢だと信じたいところだけど……



 辺りを見渡しても、白一色だ。白って二百色ぐらいあるらしいけど、そうとも思えないくらいの真っ白な空間。俺には白を見分ける力が無いらしいな。それはさて置いて、ここは一体どこなんだ? 


 沈黙の間が数秒ほど続いたその時であった。


 突然、ファンファーレが鳴り出した。ファンファーレとともに大量の紙吹雪──豪雪かと思うぐらいのとんでもねえ量だぞ。紙吹雪の量間違っているだろ──が俺のあたりをひらひらと舞い散ってゆく。

 

  


「パンパカパーン! おめでとうございます!!」


 どこからともなく聞こえる女の人の声。一体どこからかと首を回していたら、突然目の前に少女が現れた。


「おめでとうございます、売木さん。貴方は世界を救う勇者に選ばれました!!」


 白のシルクで織り込まれたドレス──保護色かよ、目がチカチカする──を身に纏った少女が俺に向かってそう言ってくる。長い黒髪に、胸元に浮き出る双珠がとても目を引く少女だ。どちらかといえば、綺麗な顔立ちと言える。年齢も俺と同い年くらいか……?


 そんな白の少女が、俺の顔面に向けてクラッカーを鳴らしてきた。


「おい! 人の顔に向けてクラッカー鳴らすな! 一体何の騒ぎなんだよ!」


 火薬の匂いが鼻腔を刺し、俺は思わず咳き込んでしまった。いきなり現れて突然こんなことしてくるなんて、びっくりするだろうが! 


 そんな俺を他所に、目の前の少女は「いや〜、めでたいめでたい」とご満悦状態だ。全然俺の話を聞いてねえな。


「驚いた? ねえ、売木くん!? 驚いたでしょ!?」


 目を輝かせながら、詰め寄る少女に俺は「あ、あぁ……」と押し負けてしまった。


「うぇい! サプライズ成功!!」

「サプライズじゃねえよ! 何なんだよ、この世界といい、クラッカーといい、お前の存在といい。いきなり突然すぎるだろーが! 度がすぎたサプライズは顰蹙ヒンシュクを買うだけだぞ。今俺はその状態だ」


「まぁまぁまぁ、売木くん。そんなにカッカしないの、これから私が順を追って説明するから」


 肩を叩かれ、少女になだめられる。なんだか複雑な気持ちになるのだが、この少女がこの空間の鍵を握ってそうなので、ひとまず黙って聞くことにするか。



「はじめまして、私の名前はクラッサ。とある世界の女神をしている正真正銘の神様よ!」

「はぁ?」


「えへん」と胸を張るクラッサと名乗る少女。やたらとでかい胸が更にされる。


 何言ってるんだコイツは。ついに俺もトチ狂った夢を見るようになったのか? 勘弁してくれよ。


「うんうん、わかるよ売木くん。私が女神だなんて信じられないっていう気持ち。だけどね、売木くん、これは紛れもない事実なのよ! 私が女神!! 私こそが真の女神!!!」

「うるせえな! そんなに大声で主張すんな。俺の鼓膜を破る気か」


 女神のくせに、なんでこんなに自己主張が激しいんだよ。それに、俺の知っている女神と全然違うぞ。女神っていうのは……こう、お淑やかで、優しくて……それこそ『女神のような微笑み』と表現されるような柔らかな女性が担当するんじゃねえのかよ。少なくとも、こんなうるさくて、図々しそうな口調をする女神なんて聞いたことねえ。


 でも、この辺りを変に噛み付いても、また更に騒がれそうなので、俺はスルーを選択することに。


「んで、その女神・・とやらがここに現れて…… というか、そもそもここは何処なんだよ?」


 質問を飛ばすと、クラッサは「よくぞ聞いてくれましたっ!」と身を乗り出した。いちいちリアクションがでかいやからだ。俺は女神と認めねえぞ。


「ここは白の空間。あっ、『見たそのまんまじゃねーか』って言うのはまだ早いからもう少し黙っててね、今から説明するから」


 俺のツッコミを懸念したのか、一つ保険をかけた後、クラッサはゴソゴソと分厚い冊子──辞書くらいの厚さだな──をどこからともなく取り出し、開き始めた。


「えーっと。『白の空間。ある世界とある世界を紡ぐはざまであり、世界間を行きする時に跨ぐ必要がある』……らしいわよっ!」

「思いっきしマニュアル読み上げてるじゃねーか。チグハグだなぁ」


 小言で突くと、クラッサは「なによ!」と口を尖らせて見せた。


「小難しいことばかりでよく分かんなかったかもしれないけど、簡単に言えば、売木くん異世界に飛ばされるってことよ。その為に一時的にここにきている……? みたいな、感じ?」

「はぁ?」


 異世界……?? な、なんかこの展開聞いたことあるぞ。ある日、事故かなんかで死んでしまい転生するというあれか!? それに俺の前には女神と名乗る少女…… これはまさかっ!


「ちょ、待て! 異世界に飛ばされる……って俺、死んだのか!?」

「死んでないわよ」


 おぉ、まじか…… すっげえビビったじゃねえか。てっきり寝ている間に死んでしまったかと思ったぜ。焦った焦った……


「別に死んでないわ。普通に生きた貴方をここに召喚したの」


「んじゃなんで俺が異世界飛ばされるんだよ!! おかしいじゃねえか、死んでもいない奴を異世界に飛ばすだなんて!」

「仕方ないじゃない! だって死んだ人の転生召喚はとても仲介手数料が高いんだから! 特に、最近は悪徳業者が間に入って、法外な仲介手数料を取ろうとするのよ! 私の財力じゃ生きた人間を呼ぶのが精一杯よ!」



 確かに、転移のきっかけが死亡だけじゃないのは分かっているけど、召喚するサイドにも色々都合があったのか…… まぁ、異世界転生は金になりそうだしな。


「にしても、俺を異世界に飛ばすなんてことすんなや。なんでよりにもよって俺なんだよ。生きている奴なら誰でもいいんだろ? 意味が分からねえよ」


「それは……その。貴方が選ばれし者だからよっ! むしろここは喜びなさいよ、神に選ばれたんだから、もっとはしゃぐべきよ!」


 なんじゃそら……

 

「どうせダーツを投げて的中した写真がたまたま俺だった……とかじゃねえの? なんか、出会って間もない中、こんなこと言って申し訳ねえけど、そういうことしそう」


 訝しげな視線を飛ばすと、クラッサは「なによなによ!」と顔を赤くして憤った。


「そんな適当なわけないでしょ!! もっとしっかりと選んだわよ! 女神としての誇りをかけた厳正なやり方でね!」

「んじゃ、抽選方法を公開しろや。妥当性があれば、この先の話もちゃんと聞く」


 言い切ると、クラッサはマゴつきながら「えっと……」と歯切れ悪く話し始めた。


「売木くん、最近マイナ○バーカードを発行したでしょ?」

「もうダメだろ!!!」


 この時点で十分察せたぞ! 嫌な予感しかしねえよ、選別方法で『マイナ○バーカード』なんてワードが出たら。思い浮かぶものが限られるし、どれもこれもロクなもんじゃねえよ。


「まだ何も言ってないじゃない!!」

「言わなくても分かるぞ。どうせ頭に思い浮かんだ数字が、俺のマイナ○バーが合致していたって話なんだろっ!?」


「は? 貴方エスパー?」

「もう俺を帰らせろ!!」


 嫌だぞ、こんな適当な理由で異世界なんかに飛ばされたら。選別方法もそれでいいのかよって話だぞ。


「イヤ!! ずぅえええっったい帰らせません!! 別世界から人間を転移させるだけでも、いくらかかっていると思っているのよ!」


 自力で俺を転移させたんじゃねえのかよ。仲介業者に任せっきりな女神がいて大丈夫なのかよ。


 しかし、この様子だと俺を帰らせる気は微塵も無さそうだな。気持ち云々より、お金の話が出ているあたり断固として俺の意見を拒否しそうだ。


 ともあれ、ここの空間から抜け出すのも戻るのも、目の前にいるクラッサ次第っぽいな。


「クソみてぇ女神だな……」

「聞こえてるわよ!!」

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