第11話 入部届の提出
お昼休みも終わり、僕は午後の授業を受けていた。
教科は苦手な数学。
この学園は授業レベルも高く、僕は入試もギリギリだったため、ついて行けるか心配だったのだけど……お昼休みのこともあり、全く集中できていなかった。
「入部届か。面倒くさいな」
これが正直な僕の気持ちである。
先程は追い詰められた気がして了承してしまったが、今は逃げだしたい気分だ。
でも、家に帰れば姉がいるわけで、僕に逃げ場はない。
『最低でも週に一回は部室へ来て、進捗状況を報告すること』
入部に際し、部長からそう約束させられては、気が重くなる一方だ。
文芸部には女子しかいないのに、その中に混ざって僕がいるなんて、どんなカオスだよ。
人によってはパラダイスなんて思うかもしれないけど、コミュ障の僕には地獄以外にない。
そんな妄想で落ち込む中、数学の授業も終わり、運命の時がきた。
「佐山くん、入部届を提出しに職員室へいくんでしょ。私も一緒に行くわ」
ホームルームも終わり、すぐに僕の所へやってきた三雲さん。
彼女は姉からの指令を受けていて、僕を逃さないつもりなのだ。
でも、クラスカースト上位の彼女と一緒になんて、周りの視線が痛い。
「おい、なんでアイツが三雲さんと」
「あの二人、そんなに仲良かったかな」
なんて声も聞こえてくるし、彼女も僕と一緒じゃない方がいいんじゃないか。
そう思っていたけど……。
「ああっ、優ちゃん逃げようとしてるでしょ。絶対に逃がさないんだからね」
と、僕の腕をギュッと掴む。
その距離感といったら、まるで恋人同士のようで、ちょっと気まずい。
「うッ……」
今の一瞬で、周りの空気がピリリと張り詰めた。
温度も少し下がったような気がするし……まじで、ヤバイ。
「ちょっ、ちょっと、逃げないから、少し離れて」
「ほんと? ほんとに逃げない?」
えっ、何このかわいい生き物……じゃなくて。
「うん、大丈夫だから」
「わかった」
三雲さんは、ようやく納得してくれて腕を放してくれたけど、今度は手を握り。
「じゃあ、行こ」
と、僕の手を引いて歩きだした。
はあ……今日は僕、生きて帰れるのだろうか。
僕と三雲さんが一年生の教室のある廊下を、手をつないで歩く。
それが、どれだけヤッカミの視線を受けることか。
陽キャな彼女は慣れているらしく気にならないみたいだけど、僕は生きた心地がしなかった。
「くそっ、なんであんな奴が」
「うそだろ、マジか」
「殺す」
いや、ほんとにヤベエって。
その後も彼女に連れられて職員室へ向かうと、二年生の旗瀬川さんと遭遇。
「おっ、優……君もこれから職員室か。奇遇だな」
いや、何が奇遇かわからないんだけど。
それと、彼女、何気に僕を名前で呼ぼうとしているよね。
姉の真似かもしれないけど、まだ会ったばかりの人にそう呼ばれても…………って、あれ?
一瞬なんか頭に浮かんだけど、気のせいか。
以前にもこんなことがあったような……。
でもまあ、三雲さんといい、旗瀬川さんといい、姉の影響が大きすぎる。
そりゃ尊敬する気持ちはわかるけど、だからって僕に取り入ったところで何も変わらないと思うんだよね。
姉はとても過保護だけど、厳しい時は厳しいし。
やっぱ、この学校を選んだこと、失敗だったのかな。
そう思う僕であるが、何度も言うように、もはや手遅れ。
それから一時間ほど過ぎて、ようやく僕は解放された。
「はあ……、図書室へ行くの遅くなっちゃった」
あまりに色々なことが有り過ぎて、僕は昨日のことなどすっかり忘れ、図書室へ向かうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます