第9話 三雲さんと廊下を歩く
お昼休み、僕は三雲さんと並んで廊下を歩く。
陰キャの僕が、彼女のような陽キャと一緒にいたら、おのずと注目を集めてしまうので、別々がよかったが……。
「おい、見てみろよ。あの三雲さんが妙な奴と一緒だぞ」
「なんであんな冴えない男が、彼女と歩いているんだ?」
「それより、あいつ誰だよ!」
予想通り酷いヤジに、僕は辟易してしまう。
でも、一緒に噂されている三雲さんは全く気にした様子もなく、むしろ嬉しそうにしていた。
これから彼女が慕う僕の姉に会いに行くのだからわからなくもないが、こんな僕と一緒でいいのだろうか。
そんなことが気になり見入っていると、不意に彼女が振り向いた。
「なに? 私をジッと見て」
「あ、いや……。僕と一緒でよかったのかなって思って」
「ふ~ん、どうして?」
「いや、僕ってあんま良く思われてないだろうし、三雲さんは人気者でしょう。一緒に並んでいると不釣り合いっていうか、もっと離れていた方がいいんじゃないかと思って」
僕がそんな陰キャな部分を吐き出すと、三雲さんは不機嫌そうな顔をする。
「ねえ、佐山くん。どうしてそんなに自分のことを卑下するの? あなたは
「あ、うん……」
その激しい剣幕に、僕はより一層萎縮する。
彼女の言いたいことはわかるけど、僕と姉は違うんだ。弟だからって、自信を持てるわけではない。
姉は学園でもカースト上位、それに比べて僕は底辺だ。
自信を持つなんて無理。
そう思っていたけど、彼女は僕を認めてくれているんだ。
少しだけど救われた気がした。
そんな彼女に感謝しつつ、僕は黙って隣を歩く。
コミュ障の僕に自分から話しかけるようなスキルは無く、ちょっとだけ気まずい思いをしていると、唐突に彼女が口を開いた。
「それより、さっきのアレって、何だったの?」
「えっと、アレって言うと?」
何となくわかっているが、敢えてそう尋ねてみた。
できたら誤魔化したいと思っているけど、たぶん無理だろう。
「アレよアレ。柔らかかったってやつ」
「……」
やっぱ、忘れてなかったか。
「どうしたの、黙って? ふ~ん……ってことは、やっぱりアレってエッチなことなのよね」
それはもう、ド直球。まるであの現場を見ていたかのような発言だ。
僕も動揺を隠せず、なんとか言い訳を考える。
思い出せるのは、朝寄った駅前のコンビニだ。
「ち、違うよ。あれは今朝食べた、パン。そう、朝寄ったコンビニのパンが凄く柔らかくて、美味しかったんだ」
僕もまさか彼女の口からそんな言葉が飛び出すなんて思っていなくて、苦しい言い訳をしてしまったが、その後の彼女の言葉はさらに衝撃だった。
「へえ~、そんなに美味しいなら、私も食べてみたいわね。どう、今日一緒に帰らない?」
「えっ……」
いったい何を言い出すんだ、この人。
怪しむどころか、僕の話を信じて一緒に帰る?
確かに帰りは同じ方角だけど……クラスどころか、スクールカーストでも上位にいる彼女と一緒にって、この距離だけでも厳しいのに。
というか、無理。
それに、パンの話はデタラメだから、一緒に帰ったらバレるし。
僕がどう断ろうかと悩んでいると、彼女は不意に僕の腕を取り……。
「あら、私とのデートは嫌なの?」
そう言って、腕を絡めてくる。
「ちょっと、何して……」
僕はその行動に困惑。
彼女とはほとんど話したことも無いのに、いきなりデートだなんて言われても……。
それに、さっきから腕に当たるフワっとした柔らかい感触で、ドキドキが止まらない。
なんですか。
この人も距離感バクってるんですか。
と、僕がわかりやすく動揺していると……。
「なによ。ハッキリ言いなさいよ」
って、その上目遣いはズルい。
僕は三雲さんの可愛さにやられ、更に激しく動揺。
けど、文芸部の部室は、もう目の前だ。
「あら、もう着いちゃったのね」
「えっ?」
「いえ、なんでもないわ。入りましょう」
「うん……」
なんだか少し気になる言い方だったけど、僕は解放された安心感からか、あまり考えず黙って彼女の後について文芸部の部室へ入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます