第7話 やっちゃった――生方珠洲視点――

 やっちゃった、やっちゃった。

 どうしよう。優くん、絶対に変な子だと思ったよね。


 私は急いで学校から帰ると、自分のベッドに飛び込み、布団を被って悶えていた。




 というのも、今日は授業の後、担任の先生から呼ばれていたので、図書委員の仕事は交代してもらい、下校時刻近くになって図書室に行ったんだけど。


 優くんが可愛い。


 普段素っ気ない態度をとっているくせに、時々顔を上げて辺りを見まわし、溜息をついているっぽい。

 たぶん、私のいないことが、気になっているのね。


 優くん、可愛すぎ。


 流石にカウンターを覗き見るようなことはしないけど、絶対にそうよね。


 もしかして私のこと……って、まだ早いか。


 でも……ああ、もう我慢できないわ。今すぐ飛び出していきたい。けど、まだ人目もあるし……。


 すう、はあ、すう、はあ……深呼吸して、落ち着かなきゃ。


 ふう……よしっ。



 私がこっそり書棚の通りに隠れて優くんを見ていると、下校時刻に近いこともあって、人がいなくなった。


 チャンスだわ。

 いい、わたし。普通に話すのよ、普通に。


 そう自分に言い聞かせ、ゆっくりと彼の背後に近づいた。

 もう他に人はいないんだから、自然に話しかけて少しでも長く会話を続けましょう。


 なんて思っていたけど……。


「ゆうくん」


 あ……、気が付いたら後ろから抱きついていました。

 

 優くんが可愛すぎるからいけないのです。でも、どうしましょう。


「何してるんですか」


「なんか優くんが寂しそうにしてたから」


 嘘は言っていません。


「いえ、そうではなくてですね。そのう、背中に……いけないものが、当たっているので」


「ああ~、優くんのエッチ。そんなこと考えてたの?」


 うふふ、焦った優くんもかわいい。

 もっと悪戯しちゃおうかしら。えい、えい。


「いえいえ、そうではなくてですね。いや、グイグイ押し付けないでくださいって」


「いいじゃない、減るもんじゃないし。優くんも嬉しいでしょう?」


「そりゃあ、もちろん……じゃなくてですね」


 そうよね、顔が真っ赤だもん。



 こうして私は満足して帰路についたのだけど、どう考えても痴女よね。

 そのことに気づいてからが、さあ大変。


 私、どうかしてたわ。


 もう優くんが可愛すぎるのがいけないのよ。

 明日からどんな顔して会ったらいいの。


 はあ……。

 でも、意識してもらえないと始まらないし、少しくらいならいいよね。


 雑誌にもやり過ぎると引かれてしまうけど、適度なスキンシップは必要って書いてあったし、きっと大丈夫。


 うん、明日は自然な感じで頑張ろう。 

 優くん、来てくれるといいな。



 もう途中からは願望になり始めている気がするけど、やってしまったものは仕方がないとして、明日に望みをつなげることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る