第6話 不意打ち

 その日以降、毎日のように絡んでくるようになった生方さん。


 最初の頃はまだ帰るときに、カウンター越しで話をする程度だったのだけど……。


「ねえ、優くん。今日は何を読んでいるの?」


「ねえ、優くん。この本、お薦めだよ」


 と、最近では僕の座る席まで来るようになった。


 おまけに先日なんかは、いつの間にか読書中の僕の隣に座り「ねえ、私にも見せてよ」と言って、覗き込んでくる。


「顔ちかっ。それと肩に触れる感触が……」


「うふっ」


 僕は思わずドキッとしてしまい、それからは全く集中できず「もう少し離れてください」といっても、「いいじゃない」とお構いなしだ。


 チラリと彼女を見れば、どうしてもあの大きな胸が目に入るわけで、気になって仕方がない。


 こんな日が続けば、もうここには来にくくなるのに。


 チッ。


 えっ……。


「あら、優くんどうかしたの?」


「いえ、なんでも……」


 今確かに舌打ちが聞こえた気がしたんだけど、ここには生方さんしかいないし、彼女ではないから、他に……。

 まあ、僕に対してってわけでもないだろうし、気にしても無駄か。


 僕はあまり深く考えず、その日は帰った。




 それからも生方さんに絡まれる日々が続き、いい加減めんどくさくなり始めた、ある日。

 僕が図書室へ入ると、カウンターに生方さんはいなかった。


 そりゃあ、彼女だってずっと仕事をしているわけではないから、休みの日もあるだろうし。

 むしろ、今までが毎日居すぎたのだ。


 けど、これで今日は気持ちよく本が読める。

 そう思い、読書を始めたが、なかなか内容が頭に入ってこない。


 この図書室には僕の好きなラノベが置いてあり、有名な映画の日本語和訳された原作も数多く存在する。

 オタクな僕が、自分のお金を使わずに好きなラノベが読めるのだから、入りびたってしまうのも仕方のないことだろう。


 けれど、いつもならすぐに没頭してしまい、気が付いたら下校のチャイムが鳴っていたりするのに、今日は全く集中できていなかった。


 思えば僕が通うようになって、彼女はずっと受付にいた。


 それが不自然であったことに今更ながら気づいたのだ。

 彼女がいないことで、どこか寂しいと思う自分がいる。


 もしかして、僕……。


 いやいや、そんなはずはない。

 ただ、ちょっと感傷的になっているだけ。


 だいたい僕は陰キャでオタク、コミュ障でボッチ。

 一人には慣れているし、たまたま彼女がいないからって、なんだというんだ。


 でも……、話せる相手がいないと、やっぱ寂しく思うのかな。



 そんな感傷に浸っていると、いきなり背後からものすごい圧力を感じた。


「ゆうくん」


 はひっ……うっ、柔らか……じゃなくて。


「何してるんですか」


「なんか優くんが寂しそうにしてたから」


「いえ、そうではなくてですね。そのう、背中に……いけないものが、当たっているから」


「ああ~、優くんのエッチ。そんなこと考えてたの?」


「いえいえ、そうではなくてですね。いや、グイグイ押し付けないでくださいって」


「いいじゃない、減るもんじゃないし。優くんも嬉しいでしょう?」


「そりゃあ、もちろん……じゃなくてですね」


 ここは図書室。幸いにも、もう下校時刻であり、他に生徒はいなかったから良かったものを……何考えているのかね、この人は。

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