第3話 ヴィオラ、初めてのヒトの城
「本当ですか?」
「あぁ、本当だ」
「本当ですか?」
「あぁ、本当だ」
「本当…「あぁ、本当だ」
魔王と話しているのは魔団長アビルカビル。
今回魔王から降りた命は、ヒトの街にあるという武具屋にヴィオレンテを連れて調査に向かってほしいとのことだった。
サーモンが行った以前の調査で様々なことが報告された。
ヒトが作った道具を扱う店が多数あること、ヴィオレンテに友人ができたことなどなど。
魔族の国アイズランドからしても、ヒト族の武具を解析できたらより戦略の幅が広がる。
といった理由で魔族の軍隊トップである魔団長に命が降りたのだ。
「アタシ、ヒト嫌いなの知ってます?」
「知っている」
「魔王さま、どうせ姫様のためでしょ?」
「そんなことない」
「ヒト族と交流を持つなんて。前までだったらありえないですよ…」
「時代の流れ、流行というものがあってだな。適応力はとっても大事なものなのであってな」
魔王はうんうんと頷き、彼女はため息をついている。
しかし、彼女もヒト族の武具には少し興味がある。
魔王の命を受け入れてヴィオラの部屋へ向かう。
「姫様ー、いきますよー」
「いく?! ヒトぞくのとこ?! やった!」
「はーい、ワタシにつかまってくださいねー」
早急に部屋から出てきたヴィオラ。
ヴィオラを抱きしめると、窓から身を乗り出す。
大きな翼を羽ばたかせて空高く舞い上がった。
彼女は鬼とグリフォンのハーフ。
単体で移動するなら鬼馬車は必要ない。
「わー! たかいたかい!! みて! もうおしろがあんなとこ!」
「ねー、すごいですねー、わたし」
快活なはしゃぎ声を抱え、さらに上空へと飛翔する。
「姫様、ヒト族と話したことあるんすか?」
「あるよ!」
「へー、言葉って通じるんすねー」
「ことばって?」
「んーほら、こうやってお話をするために必要なものですよ」
「へー!」
大きな翼をバサバサと羽ばたかせている。
物凄いスピードで飛んでいく。
————————数十分後
街はもうすぐだ。
「はーい、姫様。そろそろツノと尻尾隠してくださーい」
「うん!」
雲の絨毯に向かって下降し始めた2人。
雲を通り抜け切った時にはどちらもヒト族に変身しきっていた。
——————5分間の下降の後
「さー、着きましたよー」
街中央にあるお城上端に到着した
「ねー! アビルカビル! ここからじゃパンのとこいけないー!」
「あー、いつもの癖で」
彼女を抱えて中庭へと降りる。
降りるや否や中庭につながった通路から兵士が駆けつける。
「おい!! だれだ貴様! どこから入った!!」
「あ??」
アビルカビルと兵士との間に火花が散る。
するともう一方の通路から2人目の兵士が走ってやってくる。
「あー!! あなたが! 王国お抱えの魔法士様でいらっしゃいますか!」
「そ、そうだったのですか?! まったく! 早くそうおっしゃってくださいよ! ご無礼お許しください!」
「あ?」
先ほどとは打って変わり、アビルカビルを丁重にもてなす2人。
通路へと促される。
「いやー! 魔法士様に会えるなんて、私感激でございます!」
「お綺麗なのにお子様もいらっしゃるなんて驚きでございます!」
「ちがうー!わたしね、魔o「ありがとうございまーす」
ヴィオラは口を押さえられてもごもごしている。
そして彼女が耳打ちしてくる。
「しー! ダメですよ姫様、魔族と分かれば攻撃されます。そうなるとここにいる全員殺さなくてはいけません」
「それだめ!」
しばらく通路を歩くと煌びやかなドアの前に案内された。
「市長様ー! 王国より、魔法士様が参られましたー!」
「おー、そうかそうか、ご案内して差し上げろ!」
ーーガチャ
ドアを開けるとさらに煌びやかに装飾された部屋に通される。
中には直立して並んだヒト族のメス5体、その中央に座っている太ったヒト族のオス1体がいた。
「はー! お初にお目にかかります魔法士様! こんなお綺麗な方だとは思いませんでした! 市長のクーポ、緊張しています!」
クーポはアビルカビルたちを椅子に座るよう案内する。
「おい! お前たち、あれもってこい!」
クーポは周りのメスたちに何かを命令する。
それに反応したメスたちは次々にヒト族の道具や食べ物を持ってくる。
「魔法士様、こちら、つまらないものですが」
「ほう」
目の前に並べられたのは見たことのない武具や食べ物の数々。
「わあ! これたべていい?!」
ヴィオラは興味津々だ。
アビルカビルはクーポに顔を向けると、是非是非と促してきた。
一目散にパンらしき食べ物に手を伸ばすヴィオラ。
「んまー!!! みて! なかにおにく!!」
「そちらはね、この街特産の肉パンでございます」
「おい、これ。何の肉つかってる?」
「牛でございます」
アビルカビルは中身の肉が家畜だとわかり殺意をおさめる。
「そうか、ではこれはなんだ?」
「こちらはこの街近辺で取れる鉱石、ミラジオを使って作られた鏡剣でございます」
「ほう、どう使う」
「いい機会です。この剣に向かって魔法を放ってください」
アビルカビルは試しに小さな火炎魔法を放った。
その炎は鏡剣に当たると跳ね返り、肉パンを食べていたヴィオラの元へと飛んでいく。
ーーバフッ!
「あちい!!」
大きな口を開けたヴィオラにホールインワンした。
心配しながらも大爆笑するアビルカビル。
心配しているクーポ。
「もうやだ!!」
「ごめんなさいって姫様」
その言葉にクーポは顔を顰める。
「姫様? どういう意味ですか?」
「あ、あー。この子、そう呼ばないと機嫌悪くなるんですよ」
「左様ですか! 姫様ー! 泣かないでくださーい!」
クーポの鋭さにアビルカビルは汗を一筋垂らした。
ヴィオラをあやしながら「ところで」と、話を持ち直す。
「つまり、この鏡剣ってやつは…まさか魔法を跳ね返すのか?」
「はい、左様でございます。やっとの思いで完成させることができました」
彼女は舐めていたヒト族の技術力に驚いた。
空いた口が塞がらない。
必死に咳払いで感情を取り戻す。
「そうか、これはもちかえってもいいんだな?」
「もちろんです!」
テーブルの食べ物はもうほとんどないので、アビルカビルは鏡剣だけを腰にマウントさせる。
すぐさまこれを魔王に渡すため席を立とうとするアビルカビル。
「おや魔法士様、まだ本題が終わってないですぞ! ハッハッハ!」
「お、おうそうだな忘れていた」
「さて、早速ですが。昨今の我が街と魔族との戦い。そろそろ終止符を打つべきだと思いましてね」
「ほう?」
「そちらからの増援をお願いしたいのですよ」
ヒトと魔族との衝突。以前から争っていたヒト族はこの街だったのか、と彼女は初めて知る。
「ねーねー、アビルー、ぞーえんってなに?」
「助けてほしいということです」
彼女はヴィオラの問いかけで我を取り戻す。
「そして、我々であの忌々しい魔族を滅ぼしましょう!」
明らかな殺意が噴き出る。
「だめー!!!」
「「?!」」
ヴィオラの声がお城に響き渡る。
「ま、魔法士さんの御息女は、何をおっしゃってるんですかな?」
「だめ! ヒトとまぞくはなかよしになるの!!」
「な、何を言い出すんですか姫様!」
アビルカビルとクーポは目を点にしている。
「お、恐ろしいことを言い出しますな…」
「ほんと、恐ろしいですよ姫様…」
アビルカビルとクーポの思想は違うものの、思考は一致していた。
「と、とりあえず。お返事お待ちしております」
「あ、あぁ、一度持ち帰るとしよう」
そう言い終えて部屋を後にする。
「あ、そうそう魔法士さん。次からは正門に来ていただけると嬉しいです」
「あぁ、そうする」
そう言いながら中庭から飛翔するアビルカビルたち。
雲を通り抜けると浮遊魔法から羽での浮遊に切り替える。
その瞬間を後方から来ていたヒト族4人に見られてしまった。
「魔物だ!! 魔物がいるぞ!!」
「あいつ! 街の方から上がってきたぞ!!」
「攻撃!! 攻撃準備!」
「おまえたち、あいつを絶対にとらえろ」
「うて!!」
「「「大砕氷!!」」」
舐め切って悠長に飛んでいたアビルカビルとヴィオラ。
ーーチッ
精錬された鋭い氷魔法はアビルカビルの頬を掠める。
「あのヒト族、危ないな」
迎撃したい、しかし彼女はヴィオラを抱いている。
「姫様、落ちないでくださいね。ちょっと飛ばします」
「うん」
ヴィオラは彼女をギュッとキツく抱きしめる。
「一速」
ーービュン
「ニ速」
ーービュン!
「三速」
ーービュン!!
瞬く間にスピードアップした2人は攻撃魔法を超えた速度で移動している。
「な、何なんだあいつら!!」
「俺たちの魔法が届かない?!」
「おいおまえら、なにやってる。追え!! このバード様の期待を裏切るなよ」
「「「は!!」」」
———————数時間後、魔王城にて
「パパただいま!! 今日ねアビルカビルがすごかったんだよ!!」
————————————————
ちょうさけっか
「ことば」
おはなしにひつよう。
ヒトもおなじ。
「にくパン」
おいしい。
パンよりもしょっぱい。
めいさん?
「ぞーえん」
おたすけ。
「クーポ」
えらそうなヒトぞくのオス。
メスたくさんいた。
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