空に音

 長いこと友人に貸していたCDが返ってきた。

「遅えよ。バーカ」

 新品だったはずのそれは黒く汚れて、ケースもバキバキに割れている。こんなもの、今さら返されたってどうしようもないじゃないか。

「せめて自分で返しに来いよな」

 一週間で戻ってくるはずだったCD。十年返ってこなかったCD。

「新しいの買っちまったっつーの」

 怒ったように言ってはみるが、実は返ってこないだろうと思ってのことじゃなかった。待ち望んだ音楽を前に彼があまりにも目を輝かせるものだから、返ってこなくてもいいかなぁ、なんて。

「だからさ、これ、お前にやるよ」

 そんなにあるんだ、俺との思い出だって一つくらい持って逝けるだろう。

「棺にCD、だっけ? お前らしいや」

 だけど、花よりずっと似合っていると思った。

「大事にしてくれよ」

 きっとまだ、そっちでなら聴けるからさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

掌編集 翡翠 @Hisui__

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画