最終話 聖なる剣と聖なる乳

「ふにゃあぁぁぁン♡ 私ほんとうにフェインに……はううぅぅう♡」


 ふおおおおおおお!?

 なんじゃこりゃあああああああああ!?

 こんな柔らかいものがこの世に存在していいのかあああ!?

 マシュマロとかそんなもの比べものにならん!

 掌の中で自在に形を変える極上の柔らかさ!

 これはもう……《神乳》だ!


「んんん♡ フェイン好きぃ♡ 愛しています♡ もっと、もっとしてください♡」


「ああっ! してやる! 一度だけじゃ満足できるわけがない! この先もずっと、何度でも! 一生な!」


「はうぅうん♡ 嬉しいです♡ ずっと、ずっとこうしてほしかったんです♡」


「俺もだ! ずっとこうしたかったんだああああ!」


「あああン♡ エッチな女の子でごめんなさい♡ 聖女失格でごめんなさぁぁい♡」


「エッチな女の子を嫌う男などいない! それに俺たちはもう聖騎士でも聖女でもない!」


「はい♡ フェイン♡ 私たちは……」


「ただの男と女だあああああ!」


 身分の壁を越えて、倫理の壁を壊して、ついに俺たちは、互いの思いを打ち明けた。




 そんな俺たちを見て、


 ――なんと、なんと……おぞましい!


 《聖神》は声を震わせていた。


 ――こんなのは……聖女ではない! いらん! もうミルキースなどいらん! 穢らわしい! よくもよくも我の思いを裏切ってくれたな! そなただけは、完全に清く美しい存在だと信じていたのに!


「黙れ潔癖症。これ以上、自分の理想像を押しつけるな。完全に清く美しいものなんて存在しない」


 ――なに?


「人の汚い部分、卑しい部分。それを含めて、丸ごと愛せるのが真実の愛ってもんだろうが。お前はそれができなかったから、そうして独りぼっちになったんだ!」


 そう。

 完全な節制などできるはずがない。

 誰しもが欲望を持っている。

 それは清廉な聖女も例外ではなかった。

 当然だ。

 俺たちは……人間なのだから!


「ゆえに《聖神》! 貴様の支配を今日ここで終わらす! 俺たちは……人として生きていく!」


 光が俺たちを包む。

 手には再び光の剣。

 柄を握る俺の手に、ミルキースが手を重ねる。


「ミルキース……。約束を果たすときだ。一緒にこの世界を平和にしよう」


「はい。あなたと一緒なら、きっと……」


 ふたつの思いが交わるように、光の剣が形を変える。


「覚悟しろ《聖神》! これが俺たちのチカラだ!」


 光の剣は天を貫かんばかりの巨大な剣となった!


  ◆


「……リィム様」


「うん」


「あの剣の形……」


「うん。どう見てもアレだね」


「アレですね」


「先っぽがすごい膨らんでいるね」


「すごいのが噴き出そうですね」


「あれってさ、これから『伝説の剣』って語り継がれるのかな?」


「勝てばそうなるのでしょうね」


「そっかー。なんだか……」


 気の毒だなー。

 と、と化した『伝説の剣(になる予定)』を見て思う影武者とリィムだった。


  ◆


「観念しろ《聖神》! この一撃で決めてやる!」


 剣の先端を《聖神》に向ける。

 切っ先を中心に強大なエネルギーが集まっていく。


 ――やめろ! そんな卑猥な形をしたものを我に向けるな!


「卑猥とはなんだ! これこそ俺たちの愛と絆の形だ!」


 ――最悪だな! もう我慢ならん! 一秒でもこんな穢れた世界にいられるか! 我は天界に帰る!


 光の結晶体はそうして《聖神柱》の中に入っていく。

 地上に埋め込まれていた《聖神柱》が浮かび上がり、徐々に天高く昇っていく。


「おっと、逃がさないよ!」


 だがリィムの結界がその進行を止める。


 ――おのれええええ! リィム貴様ああああ!


「往生際が悪いよ。さんざん多くの者を苦しめてきたんだ。報いを受けるときだよ」


 ――い、いやだあああああ! 死にたくなああああい!


「さあフェイン! ミルキース! 《聖神柱》ごとヤツを破壊するんだ!」


「おう! いくぞミルキース!」


「はい!」


 身を寄せ合い、より強く柄を握り合う俺たち。

 必然的にミルキースのおっぱいがむにゅう~んと密着する。


「おうふ……」


 光の剣はさらに膨張した。


「受けてみろ《聖神》! これが俺たち人間の……欲望のチカラだあああああああ!」


 膨大なエネルギーが一点に集まった先端から、いまこそ必殺の一撃が放たれる!


「……うっ!」


 轟音を立てながら、洪水のような勢いで放たれる破壊光。

 それは見事聖神柱に直撃する。


 ――バカ、な……消える? この我、が……嘘、だ……嘘だあぁああああアァアァァアァァァァァ!!


 その日、人類は聞いた。

 神の断末魔を。


 かくして。

 自己しか愛せず、他者をついぞ愛せなかった憐れな神は死んだ。

 人の時代が、再び幕を上げた瞬間だった。



 ……ふぅ。



  ◆


 それからは激動の日々だった。

 まず、俺は『世界を救った英雄』として人々に祭り上げられていた。


「なんと! 聖都最強のフェイン・エスプレソンは生きていた!」


「兄上えええええええ!」


「魔王を討ち滅ぼしたあと、精神を魔王に乗っ取られていたらしい!」


「兄さああああああん!」


「くっ! そうとは知らず魔王を倒した英雄に刃を向けていたとは!」


「お兄ちゃああああん!」


「だが彼は自力で自我を取り戻した! さすが英雄だ! そして気づいた! 真に倒すべき敵を!」


「お兄たああああああん!」


「まさか、あんな邪神を長年信仰していたとは!」


「兄たまあああああああ!」


「だが邪神は滅んだ! フェイン様は魔王だけでなく、我々を騙していた邪神をも討ち滅ぼしたのだ!」


「あにいいいいいいいい!」


「フェイン様万歳! 救国の英雄万歳!」


「にぃにぃ大好きぃいいぃ!」


 救国の英雄。

 話が独り歩きした結果、そういうことになっていた。

 あとシュカ。肋骨が折れるからいい加減抱きつくのやめて。そして呼び方を統一しろ。


 結果として、確かに俺は世界を救ったかもしれない。

 でも英雄になるつもりはない。

 すでに俺の目的は果たされたのだから。

 名誉とか地位とか、そんなものに興味はちっともなかった。

 だが、そうも言っていられない状況になった。


 というのも、国を治める人材がひとりもいなくなってしまったのだ。

 神官たちは各国の王家の血筋で構成されていた集まりだった。

 だが神官のほとんどが《聖神》に浄化の名のもとに殺されてしまった。

 誰かが主導者となる必要があった。


 その結果……




「俺が新国の王って正気かよ……」


 そういうことになったのだった。


「仕方ありませんよ。皆がフェインを世界を救った英雄だって信じているのですから」


 王妃となったミルキースが苦笑を浮かべてそう言う。


「こうしてイチから始まる国は、まず人望のある人が治めたほうがうまくいくものですよ?」


 ミルキースが言うと説得力があるな。

 こうして王妃になってから、より貫禄と美しさに磨きがかかった気がする。


 聖都で起こった悲劇のことで、しばらくの間、深い罪悪感に囚われていたミルキースだったが……民衆たちは『邪神に憑依された不幸』ということで、ミルキースを責めることは一切しなかった。

 むしろミルキースの身に起きたことを『さぞお辛かったでしょうに……』と自分のこと以上に嘆いたほどだ。

 さすが、もともと民衆に愛されていたミルキースだ。

 禍根が残らなくて何よりだった。

 幸い《聖神》による後遺症もなく、その後は何の問題もなく健康的に過ごしている。


 もちろん、そのご立派なおっぱいも健在だ。




 リィムたちは戦いの後、無事に元の世界に帰っていった。

 理不尽な《聖神》の被害者だった彼女たち。

 その真実を、俺は人類に話すと約束したのだが……


『その必要はないよフェイン。ぼくらのことは人類を脅かした魔王軍として歴史に残すといい。実際、《聖神》を滅ぼすために君たち人間をたくさん傷つけてきたんだからね』


 それはそうだが……しかし彼女たちの名誉のことを考えると複雑な気持ちだった。

 彼女たちがいなければ、《聖神》を倒すことはできなかったというのに。


『気にすることはないよフェイン。ぼくらは、もともとこの世界にいるはずのない存在だったんだから。君たちの世界は元通りになった。これからの時代は、君たちで創っていくんだ』


 そう言ってリィムは最後のチカラを使って、これまでの戦いで傷ついた人々、物、自然を元の状態に戻してくれた。

 失った命は戻らないが……世界は本来の姿を取り戻したのだ。


『バイバイ。ミルキースと幸せにね?』


 そう言ってリィムは、見た目相応の少女のような笑顔を浮かべて去っていった。




 天界の超常のチカラは失われた。

 人類は、またここから歩き出すのだ。

 国が広がり、文明が栄えると、きっとまた人同士の争いが起こるだろう。

 それでも、手にしたこの平和を守りきってみせる。

 最愛の女性、ミルキースがいる限り。


 ……とまあ、そういうわけで、


「んっ♡ もうフェインったら、このあと執務がたくさんあるのにぃ♡」


「だからこそだ。エネルギーを充填しなければ頑張れん」


「もう♡」


 小柄な肢体を膝の上に乗せて、その豊満な膨らみを思う存分に堪能する。


 はぁ~今日もミルキースのおっぱいは最高だ。

 憧れのムチムチおっぱい。

 念願のぷるぷるおっぱい。

 大望のたぷたぷおっぱい。

 朝昼晩、いつでも好きなときに、このおっぱいが揉めるのだ。

 こんな幸せがあっていいのだろうか?


 聖騎士時代では想像もできなかった充実した日々。

 あの日、勇気を出して正解だった。

 やっぱり、人間は《背徳的行為》には抗えない生き物なんだね!

 おっぱい万歳!


「……ねえフェイン。揉むだけでいいのですか?」


「へ?」


「王様になったのですから……跡継ぎは必要ですよね?」


「っ!?」


 そ、それはつまりミルキースさん!


 最近すっかり少女から熟成した美女として成長し始めたミルキースが、なんとも色っぽい艶顔を浮かべながら振り返る。


「私、フェインの赤ちゃん……たくさん欲しいです♡」


「……」


 この後、滅茶苦茶背徳的行為をした。


 ~Fin~


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最強の聖騎士だけど聖女様の乳を揉みたいので魔王軍に寝返ってみた 青ヤギ @turugahiroto

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