第4話 聖女の秘密
◆
神殿にひとりになったミルキースは再び祈りを行う。
聖都の主戦力が出陣したいま、聖都に張った結界をより強める必要がある。
聖騎士たちを信じて送り出した後に聖女ができることは、チカラなき市民たちを守ることだ。
ミルキースは己の使命に殉じようと精神を研ぎ澄ましていたが……
「フェイン……」
どうしても、ひとりの青年に思いを馳せてしまう。
聖女の慈愛は万人に向けられるべきもの。
特定の誰かを特別扱いするなど、本来ならあってはならない。
そうわかっていても、ミルキースは少女としての感情を抑えることができずにいた。
ミルキースは己を恥じる。
自分は聖女失格だ。
この有事になってもなお、幼き頃からの思いをついぞ絶てずにいるのだから。
フェインはきっと覚えていないだろう。
聖女となる前……まだ辺境の教会の孤児だった頃。
まだ人同士が争っていた時代。
異国の騎士に教会を攻め込まれたとき、少年の騎士に命を救ってもらった。
それが国境を守る武官の一族、エスプレソン家の長男であることは世間知らずのミルキースでも知っていた。
自分とあまり歳も変わらない少年が、大の大人相手にも怯まず剣を揮い、無双する勇姿は少女を虜にした。
以来、ミルキースにとってフェイン・エスプレソンはずっと思慕の対象だった。
だが相手は侯爵家の長男。
ただの孤児である自分がお近づきになれるわけがない……はずだった。聖女として覚醒するまでは。
聖都で憧れの少年と再会したとき、ミルキースは運命を感じずにはいられなかった。
だが悲しいかな。
身分の差という壁は、ここでも立ちはだかった。
聖女と聖騎士である以上、自分たちがそれ以上の関係になることはない。
だからこそ、少女はときどき夢想してしまう。
何のわだかまりもない、もしもの関係を。
「んっ……」
このままでは祈りに集中できない。
そういうとき、ミルキースはひとつの発散法を行う。
それさえすれば不思議と邪念は晴れ、聖女としての意識に切り替えることができた。
その方法とは……
「あぅ、あっ……」
聖衣を突き破らんばかりに育ったふたつの巨峰。
ミルキースはおもむろに、それを鷲掴んだ。
甘い快感が総身に走り抜ける。
「はぅ……あぁん……」
いつの頃から始めてしまい、夢中になってしまっているこの行為。
俗世に疎いミルキースは、それがどういう名の行為なのかは知らない。
だが、ひどく罰当たりな行為だということは本能的にわかっていた。
それでもミルキースは止めることができない。
これまでの人生で最も至福の瞬間とさえ思える快感の波に抗うことができない。
「ああ、なんてはしたないことを……お許しを……ああ、どうかお許しを」
許しを請いつつも、ミルキースは過剰に育った膨らみを小さな手で揉みしだき続ける。
「ああっ……フェイン……」
握りしめるその手が、かの聖騎士のものだと思えば思うほど、譫言のように甘い声色が漏れる。
敬虔な彼は決してこんなことはしない。
だがもしも……フェインが強引にでもこんな真似をしようものなら、自分は決して拒めないだろう。
いや、むしろ喜んで……
「んっ……あぁああああぁあっ!」
神殿に甘い嬌声が響き渡った。
「ハァ……ハァ……」
事を済ませたミルキースは艶っぽい息を吐きながら祈りの姿勢を取る。
ここからは聖女として祈りに集中しなければならない。
ならないのだが……今日に限って、なかなか余熱が引いてくれない。
それはやはり、こうしているいまもフェインが危険な目に遭っていると考えてしまうからだろう。
「ああ、フェイン、どうか……」
無事でいて……と彼の生死を案じつつ、ミルキースは再び邪念を発散すべく己の膨らみに手を伸ばした。
「~~っ♡」
神殿に似つかわしくない甘い嬌声が再び響き渡る。
このおっぱいで聖女は無理でしょ。
ある意味で、フェインのその見立ては間違っていないのだった。
◆
一方その頃。
無事、魔王城に辿り着いたフェインは門番の前で足止めをくらっていた。
「だからさ~何度も言ってるじゃん。俺は聖都を裏切ってきたんだって。頼むから魔王様に会わせておくれよ~」
「信用できるか馬鹿者! だいたい裏切った理由が『聖女の乳を揉みたいから』だと!? ふざけているのか!? そんなバカみたいな理由で国を裏切るやつがどこにいるんだ!」
「ああああぁん!? てめぇ俺の悲願をバカにするのか!? 上等だぁ! こうなったら力ずくで魔王の部屋に行ってやろうじゃないか! 道を空けろオラァ!」
「ぎゃああああ! こいつ滅茶苦茶だああ!」
「門番がやられたぞ! 者ども出会え出会え!」
「かかってこいやぁあ! 聖女っぱいを揉むまで俺は死なねえ! 聖女様(のおっぱい)万歳!」
かくして。
衝動に従っていれば悲願の成就は間近だったにも関わらず、すれ違いにすれ違った結果、ただ事態をややこしくしただけのフェイン・エスプレソン。
そんな男の頭の中には、やはり聖女の乳を揉むことしかないのだった。
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