第2話 そうだ、魔王軍に寝返ろう!



 こうして功績を挙げ続ければ、もしかしたら聖女様が俺を特別な目で見てくれるのではないかと内心期待していた。

 だが……それは彼女が聖女である限りありえない。

 彼女の愛は人類すべてに向けられるものだからだ。

 聖女様がその役目を終え、再び普通の女の子に戻れるのは、それこそ魔王軍との戦いが終結したときだけだろう。




 ……でもな~。アイツらいくら倒してもキリがないんだよな~。

 というか親玉の魔王が存在し続けている限り、死んでもいくらでも復活できるとか卑怯じゃね?

 これじゃ終わる戦いも終わらない。


 いや、そもそも敵の本拠地がどこにあるかなんて、とっくの昔にわかっている。

 だから全戦力を投入してさっさと攻め込んでしまえばいいのだ。

 これまで何度も神官たちに魔王城を攻めようと要請してきた。

 だが神官のジジイどもは許さなかった。

 なぜか?

 親愛なる聖騎士を失いたくないから?

 まさか。

 理由はもっと俗っぽいものだ。


 戦いが終われば、聖女様は普通の女の子に戻る。

 

 人類の希望、聖女様を失いたくないがゆえに。

 正確には『聖女』という都合のいいシンボルを。


 いま人類は聖女様を中心にして回っていると言っても過言ではない。

 それは即ち、聖女様の権威を使えば、いくらでも政治を操れるということ。

 もちろん聖女様にそんな黒い意図はない。

 だが彼女に付き従う神官たちまで、愛国精神に満ちているとは限らない。

 というか、ほとんどの連中が聖女様の威を借りて国を好き勝手にしている老害どもだ。

 くそジジイどもめ。

 聖女様が世間知らずなのをいいことに、自分たちばっかり得するような決まり事を作りやがって。


 何が戒律だ。

 何が『聖神の加護を得るためにも節制して生きろ』だ。

 自分たちは影で飲んだくれているくせに。

 聖職者が聞いて呆れる。


 もしも聖女様が真実を知ったら純粋な彼女は大いにショックを受けることだろう。

 政治の道具にされたことよりも、自分がいたせいで神官たちが歪んでしまったことを悔やみ、自分を責めるだろう。

 聖女様には何の罪もない。

 彼女の良心を傷つけないためにも、これまで黙っていたのだが……


 しかし、いい加減に我慢の限界かもしれない。

 終わりの見えない戦いに身を投じるのも。

 人の善意を利用して腹を肥やす神官どもの悪政も。


 そして、聖女様のおっぱいを揉めない日々も!





 あ~あ~。

 なんで俺は聖騎士になんかになっちゃったんだろう……。

 はい、聖女様とお近づきになりたかったからですが何か?

 でも、いくら聖騎士として頑張ったところで、この思いが報われることはないんだよな……。

 これじゃ何のために戦っているのか、わからなくなってくる。


「やめちゃおうかな聖騎士……」


 自室でひとり、そう呟く。

 俺と違って純粋な使命感に燃える他の聖騎士連中が聞いたら、間違いなく激怒するだろう。

 けど俺は真剣に引退を考えている。

 これ以上、聖都という名の腐敗した国に忠義を尽くすのも癪だし。

 届かない思いを抱えたまま聖女様のお傍でムラムラする禁欲生活も辛い。


 しかし親父から引き継いだ領地はとっくに魔王軍に占領されているしなぁ……。

 引退したところで行く当てもない。

 元侯爵家の長男もこれじゃ形無しだ。


「はぁ~。いっそ俺が魔王軍だったら戒律なんて無視して好き勝手にできたのにな……」


 またもや他の聖騎士たちが激怒しそうな失言をこぼす。

 でも本当に、いっそ魔王軍側に付きたいくらいである。

 悪者になれば開き直って欲望のままに生きられるではないか。

 思う存分、聖女様にあーんなことや、こーんなことができたかもしれない。


「……ん? いや待てよ?」


 何気ない自分の発言で気づいてしまう。


 あれ?

 なっちゃえばよくね?

 魔王軍に。


 だってこの国に尽くすメリットとか、聖女様と一緒にいられること以外ほぼ皆無だし。

 節制という名のみすぼらしい食生活。肉や酒はもちろんダメ。

 エロいことは禁止。子作りするときは快感を覚えちゃダメ。

 金銭は「聖神様に捧げるものだ」とか言ってほとんど税収されてしまう。


 いや、改めて考えると本当にうんざりするな。

 ちっとも人間らしい生活できてないじゃん。

 もちろん神官どもは影で酒池肉林の日々で税収した金も奴らが好き放題使っている。

 まさに聖都という名のブラック国家。

 ……あ、うん。まったく守る価値ねーわこんな国。


「よしっ、寝返ろう!」


 魔王軍になってこの国を滅ぼそう!

 そして聖女様の乳を揉もう!


 聖女様への忠誠心はどうしたって?

 ……知るかあああああああああああああああああああああ!

 おっぱいの前では男など皆ケダモノだ!

 というか、このまま終わりのない戦いに生涯を捧げて、政治の道具にされ続ける聖女様が気の毒じゃないか!

 だったらいっそ俺が引導を渡して、彼女を聖女の任から解き放ってやろうじゃないか!

 そして俺の手で女性として生まれたことの喜びを教えてあげようじゃないか(物理)!


 さらばだ聖都!

 さらばだ戦友たちよ! そしてたったひとりの妹よ!

 お前たちが住まう場所を滅ぼすのは心苦しいが……


 クソッタレな国家に所属しちまったことをどうか悔やんでくれ!


 俺はに生きる!

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