第四十九話:人類の敵対種『魔族』(前編)
「〈ディレイヒーリング〉…………。〈血の剣〉……あん?」
黒い刃の直刀と赤い刃の曲剣、対照的な得物を両手に携え、シヅキは〈血の剣〉を使用する。
シヅキの周囲に漂う血色の霧が渦巻き、二つの刃に同じ形の赤い刀身を生成した。だが、右手に携えた赤い刃は直剣と曲剣が重なったような歪な形状をしており、これでは蛇腹剣として振るうことはできそうにない。
「あぁ、そっかぁ~。赫血の曲剣は刀身がおっきぃから蛇腹剣にし辛いんだぁ! 〈血刃変性〉!」
今までシヅキが用いていた血の剣の形状は『赫血の短剣』での使用を前提としたものであり、短剣と同じように刀身が短く反りもない『蜥蜴丸』ならまだしも、刀身が長く湾曲した『赫血の曲剣』では上手く利用ができない。
そうである以上は蛇腹剣に拘るべきではない。シヅキは血の刀身を作り直し、左手には蛇腹剣を、右手には肉厚の曲刀を構え、先ほどからシヅキの動きをつまらなさそうに眺めている
『……ふん。足掻く準備はできたか? 今際の際に言い訳をされてもつまらん、お前のちっぽけな全力を真正面から打ち滅ぼしてくれよう』
「あはー! 傲慢もここまでくるといっそ清々しいねぇ! そのたかいたかーい鼻っ面、へし折ってあげる! 〈血の鎖〉!!」
シヅキがスキルを唱えると、10mもの長さを持った三本の血色の鎖が交差し
血の鎖の出現は瞬間的なものだ。どれだけ動体視力が高かろうと、発動を許した時点で避けることは叶わない。
『むっ……小癪な!』
自らの首を捕らえる鎖。
いくら
シヅキは相手に対する警戒を強め────しかし、結局のところ
その頸を断とうと右手の曲剣を振るい────
『舐めるな!!』
「……はっ?」
UGRの武器は例外なく破壊不能属性持ちだったはずだ、それが何故、どうやって──予想だにしていなかった展開に、シヅキはびくりと硬直した。
その隙を見逃さず
穿たれた脇腹を中心として、シヅキの体表に
「ぐっ……!〈セルフヒーリング〉!」
たまらずシヅキは跳び退き、すぐさま自己回復を行う。
シヅキは痛みを堪え身構えるが────
『全ての守りを無為と化し、僅かな傷をも致命の一撃とする。これぞ我が権能よ。小娘、格の違いを思い知ったか?』
「
幸い破壊されたのは刀身の中ほどから先の部分だけで、武器の柄は手の内に収まったままだ。インターフェースを確認した限り、〈血の剣〉の効力もまだ残っている。
シヅキは破壊されぼろぼろになった血の剣を作り直そうとスキルを使用し、意図した通りに刃が再生成された。ほっと息を吐く。
血の剣を用いるシヅキだからこそなんとかなったが、これがもし普通のプレイヤーだったのなら
流石に破壊状態はリスポーン時にリセットされるとは思うが、それにしてもなんと強力で悪辣な能力か。シヅキの眉間に皺が寄る。
『むっ……武器を作り出す力か。面倒な…………』
対する
矮小な人間ではあるが、おそらく能力の相性だけを見れば自身が不利だ。それに先ほどの動き、少なくともその速度は己が全力に比類するほどのものだった。警戒に値する。
互いが互いを警戒した結果生じる、一時的な膠着状態。速度ではシヅキが勝り、耐久性では
シヅキは一撃で確実に
先に動いた方が負ける。それを察し、二人はじりじりと睨み合う。だが、この対面は
それがある以上は自ら動くしかなく、そうであるならば、せめて不意の一撃をもって対応される前に畳み掛けたい。
そのための手札は────
「〈血の刃〉!」
『なっ!?』
ぱちりと
〈血の刃〉と
この
だが、そうだと分かっているならばいくらでも対処のしようはある。シヅキは
どれだけ強大な力であろうとも、それを行使するための腕は二つしかないのだ。鎖で対処を強要し、それと同時に血の刃を利用した三点同時攻撃で
そして、血の剣の攻撃力なら致命的な部位へ一撃さえ加えられればそれでもう終わりなのだ。
シヅキは勝利を確信し────胴体に衝撃。
「がっ!?」
意識の外からの打撃をモロに受け、腰の骨が砕け、内臓が破裂する。シヅキはくの字に折れ曲がり、為す術もなく吹き飛ばされた。
だが、ごろごろと転がりながらもシヅキは回復エフェクトに包まれ、跳ね上がるように飛び起きる。
血の剣や刃、鎖の使用で多量のHPを消費していたところに追加で攻撃を受けた結果、HPが50%を割り偶然〈ディレイヒーリング〉が発動したのだ。
正体不明の攻撃にすわ新手かと慌てて顔を上げたシヅキの目に映ったのは、右半身に大きな裂傷を負い、傷口から青い血を垂れ流す
だが、よく見れば
幸い触れた物を破壊する効果は付与されていないようだが、それでもあれに対処するにはこちらも一手割かねばならなくなる。非常に面倒だ。
『おのれ……おのれおのれぇ! ニンゲンが……この我に傷を付けるだと!? ふざけるな! 至高の存在たる
シヅキが自らの身体の具合を確かめていると、突如として
あれではまるで、自身の評価よりも種族そのものへの評価の方を重要視しているような────
「いやぁ、今考えることじゃないか……。いい加減手札も出尽くしただろうし、あとは縊り殺してやるだけだね!」
僅かな疑念は、それを上回る高揚感と殺意に押し流される。結局のところ
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Tips
『
肉体の強度こそ非常に高いが、それこそ首を断ち斬ってしまえば一撃で倒すことも理論上は不可能ではないのだ。
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