第四十八話:赤青邂逅
『地下遺跡:知識の井戸』第七層。青味掛かった石材で構成されていた第六層までとは打って変わり、ここからは赤色の強めな石材で層全体が構築されているらしい。"煉瓦"と言って真っ先に想像されるような、明るい茶褐色のものだ。
暗い色合いだったここまでの道中と違い全体的に明るいその風合いは、視覚に依存するヒトの距離感覚を狂わせる。普段であればそこまでの問題は生じないが、シヅキは
もし目測を誤り速度が乗ったまま壁に衝突すれば、如何にVITが高くとも重篤なダメージは避けられないだろう。
「あー……めんどくさいけどしばらく
シヅキは肩を落としつつ、赤煉瓦の迷宮をぽてぽてと歩んでいった。
◇◇◇
「〈血の鎖〉」
シヅキがぱちりと指を鳴らしつつ、スキルの発動宣言を行う。〈
六本纏めて設置された鎖のうち三本ほどはゴーレムの足に引き裂かれ消滅したが、その分足の勢いは減じ、残った半数に蹴躓いたゴーレムが勢いよく転倒した。
「〈血の鎖〉〈血の鎖〉〈血の剣〉……」
発動宣言と動作ショートカット発動を重ね、十二本もの鎖が転倒したゴーレムの背を抑える形で生じる。一つ一つの
シヅキはぎしぎしと鎖を軋ませながらもなんとか立ち上がろうとしているゴーレムへ無造作に近寄り、鎖の隙間を縫ってその頭部に血の剣を突きこんだ。
ゴーレム系エネミーは総じて
総金属製のゴーレムに、まるで抵抗なく突き刺さる血色の剣。それに追従して不可視の刃がゴーレムの頭に更なる穴を開ける。〈
致命的な部位を三度穿たれたゴーレムは、たった一撃で動作を停止、光となって消えていった。
脅威度120のエネミーを一方的に封殺して見せたシヅキは、その成果に反して浮かない顔を浮かべた。
「うぅん、血の鎖はすっごくいいスキルだけど……これでも対多数になるとかなり厳しいよね…………」
〈血の鎖〉はVITを持たず、HPは
長さを増すことでHPを高めることもできるが、
現状シヅキはなんとか脱力に耐えられる長さである1mを複数同時に運用することで凌いでいるが、先ほどの戦闘でもそうだったように、複数束ねてなお強度としては不安が残る。
況や妨害対象が多い対多数では使用する傍から破壊され、妨害で手一杯になってしまうことだろう。
「
これは効率ではなく気分の問題だ。そうである以上、妥協することはできない。
「んー……現時点でもかなり強力だし、極論、わたしの本領である
〈血の鎖〉は凄まじい汎用性を有しており、いくらでも応用が利く。
対多数を同時に相手取るのこそ難しくとも、これを上手く使えば足場や壁として利用しての逃走なり分断からの各個撃破なり、やりようはいくらでもあるだろう。
つまり、これを解消するのに必要な手段はスキルや装備、ステータスではなくシヅキ自身の思考力なのだ。
血の鎖による空中歩行で罠を避けつつ、思考に意識を割いていたシヅキ。曲がり角を曲がりふと通路の先を見ると、そこにはぽつりと浮かぶ青い人影。全体的に赤い遺跡の中、それは非常に異質に見えた。
「…………見つけたぁ!」
それを認識した瞬間、シヅキは生成する血の鎖の間隔を広げ大足に近づいていく。向こうも接近するシヅキに気付いたのだろう、ぐるりと首を巡らせ此方を見た。────その額には、真っ黒な二本の角。
『…………まさか脆弱な人間が、自ら我に接触してくるとはな。我を
「うわ、喋った! はえ~、分かりやすく特別なエネミーって感じだぁ」
青い髪、赤い瞳。黒い角と尾、肌を持った人型の存在。間違いない。この男こそがシヅキの探し求めていた
シヅキが目の前に降り立ったのをつまらなさそうに眺めた後、男は不遜な態度で喋り出した。
鳴き声をあげるエネミーは数あれど、会話ができるエネミーなどシヅキは今まで見たことがない。これだけでも、
「わたしシヅキ! あなたを殺しに来たんだけど……大人しく殺されてみる気はない?」
この手の傲慢な輩には煽りが覿面に利く。シヅキは経験からそう判断し、露骨な挑発を行う。しかし、
この男は明らかに自身を
……そう、シヅキは自らの能力に絶対の自信を持っている。────つまり、非常に傲慢な性格で、煽りが覿面に利く。
自ら投げたブーメランが刺さったシヅキ。苛立ちを隠すように、
その様子を見た
とはいえ、人間風情に激昂するのも上位の存在として格好が付かない。こちらも表情こそなんとか平静を取り繕っているが、その額には青筋が浮かんでいる。
シヅキの経験則は間違いではなく、こちらはこちらで確かに煽りには弱かった。
この女の余裕綽々な面をずたずたの血濡れにしてやる。
『お前達人間の数少ない取り柄である、個体数の利すら活かさないとは。随分舐められたものだな……人間風情が、
言語を操り、スキルを使用するエネミー。なるほど確かに別格ではあるのだろう。だが、
シヅキは不敵な笑みを浮かべ、傲慢不遜に言い放つ。
「敵うかどうか、ね。ふふ──オマエの首に手が届くと思ったから、こうしてわたしはここにいるんだよ。〈
青い瘴気を纏う
──────────
Tips
『
これらは例外なく『
設定上は『世界の法則を書き換える力』であり、それが反映されているのか、自己バフの一種であるにも拘わらず如何なるスキルをもってしても基本的に発動後の無効化はおろか、効果の軽減すら不可能。
唯一
──────────
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます