第四十七話:評価乱高下

「わたしのビルドは赤き鮮烈なる死レッドラッドデッドがすべての基点だし……血の剣のバカみたいな攻撃力があるから単純な攻撃系スキルはもういらない。取るなら通常攻撃や行動を補助するスキルかな……?」


 あの後数日にも渡る稼ぎ作業の末、現在シヅキの保有EXPは10600ほどにまで増加していた。

 少し前に見かけた情報ではEXP一万を超えれば十分にトップクラスということだったが、実際にはシヅキが稼いでいるのと時を同じくして、他プレイヤーもプレイに勤しんでいるのだ。それを加味するなら、今のシヅキはおそらくは準トップ級といったところだろうか。

 だがそれでも稼ぎ作業に入る前、中堅層の下位帯だった頃と比べれば随分な成長度合いといえるだろう。


 宿の自室、ベッドに腰掛けスキル一覧を眺めながらビルド案を練るシヅキ。単純な性能だけを考慮するのなら獲得したEXPをHPに全て割り振ってしまえば良いが、そうした場合本格的に外器オーバーヴェセルだけの一発屋になってしまう。

 欲を言うならば赤き鮮烈なる死レッドラッドデッドを使えない、使わない場合でも最低限戦えるようにはしておきたい。

 稼ぎ作業中の手応えからして、今のシヅキは脅威度100を超えるエネミー相手だと外器オーバーヴェセルを使用しなければまともに戦うことすらできないのだ。


「じゃあ、これと、これ……あっこれ強いな。よし取っちゃえ」


 一覧に表示された沢山のスキル。その中から、シヅキは良さそうなものを選び習得していく。


 今回シヅキが習得したスキルは四つ。召喚スキルの召喚数を増やすパッシブスキル〈二重召喚デュアルサモン〉と〈三重召喚トリプルサモン〉。事前に使用しておくと、HPが半分を切った際に自動で発動し傷を回復できる〈ディレイヒーリング〉。

 ──そして『武器攻撃力が半減する代わりに攻撃判定が三回発生するようになる』パッシブスキル〈内器インナーヴェセル:影なる刃〉。


 等級Ⅰが一つと等級Ⅱが一つ、等級Ⅲが一つに等級Ⅴが一つで、消費EXPは合計1900Pt。

 そして余ったEXPのうち800PtをHPに割り振り、最終的にシヅキのHPは24320Ptとなった。


「いやぁ、いいもんめっけたなぁ。影なる刃……これでざくざくやってるだけでHPがものすごい勢いで回復しそう。『蜥蜴丸』のバステも手早く付与できるし」


 〈内器インナーヴェセル:影なる刃〉の武器攻撃力半減効果は個別で乗算される効果であり、〈血の剣〉の効力も半減してしまうということになる。だが、シヅキの膨大なHPによって血の剣の効力は現在729Ptという凄まじい値になっている。

 たとえ半減したところで、これで断てない装甲などほとんど存在しないだろう。


「あっそうだ、蜥蜴丸! 装備できるようになったんだし、どんな見た目なのかやっと確認できるじゃん!〈外器オーバーヴェセル:赤き鮮烈なる死レッドラッドデッド〉!!」


 以前シヅキが手に入れた片手剣、伝承器アームズロア:妖刀『蜥蜴丸』。装備条件にDEX250Pt以上を要求され、そのときは装備することができなかったのだ。

 アイテム欄から外観だけは確認できたが、蜥蜴丸は刀だ。当然鞘に納められており、肝心の刀身がどのようなものかは判別できていない。


 シヅキは外器オーバーヴェセルを使用し、好奇心を隠せない様子で手早く装備を変更する。今まで短剣が保持されていた背中に、一振りの刀が現れた。

 漆塗りの鞘、黒と紫を主体とした拵え。シヅキは鯉口を切ろうとして、その必要がないことに気付いた。おそらくはゲーム的な簡略化だろう、抜こうと思って柄を握るだけですらりと抵抗なく刃が現れる。

 淡い紫色を帯びた、総黒色の刃。反りの全くない直刀であり、刃紋は無いか、あるいは黒すぎて判別ができないか。一見すると地味で面白味のない刃だ。

 短剣よりは大きいが、片手剣としてはかなり小さい。名前こそ『妖刀』だが、実態は脇差の類なのだろう。


「んふふふふー……いいねぇかっこいいねぇ! これからよろしくね~♪」



    ◇◇◇


「あはははは────」


 石造りの遺跡を疾走するシヅキ。500を超えたAGIによる全力疾走は動作した罠を彼方へと置き去りにし、後には血色の霧と赤い残光しか残らない。

 時折遭遇するエネミーHP補給装置は瞬きの間に光と消え、一般プレイヤーは視認できない謎の存在があげる、不気味な笑い声に恐怖する。


 シヅキが現在探索しているのは『地下遺跡:知識の井戸』の第六層。以前は一度の探索で終わったため気付かなかったが、どうやら一度三層をクリアすれば以降は入り口から第三層までのショートカットが開通するらしい。

 シヅキは三層への入場直後に赤き鮮烈なる死レッドラッドデッドを切り、超高速機動によって地下遺跡を爆走し続け、ここ、第六層までノンストップで進行してきていた。


 その目的は魔族ニェラシェラとの遭遇。地下遺跡にランダムで出現する脅威度200以上を誇る強敵であり、未だにプレイヤーに打倒されたという報告は確認されていない。

 だが、アーネイル達のように、魔族ニェラシェラを倒した上でそれを秘匿しているプレイヤーがいる可能性もある。後発であるシヅキがこれだけの強さを得られたのだ、今のシヅキよりも強い・・・・・・・・・・プレイヤーが存在しないとも限らないだろう。

 討伐一番乗りとまでは言い切れないだろうが、それでも特異なエネミーなのだ。打倒した後に特別な何か・・・・・があることを期待し、シヅキはまず真っ先に魔族ニェラシェラを倒すことを目標に定めた。


 そうこうしている間にシヅキは第六層の大階段まで辿り着き、現れた階層ボスをたったの数秒で光へと変えた。『知識の井戸』の第六層は脅威度110前後であり、階層ボスもそれに準ずる。莫大な力を得た今のシヅキには敵にもならない。


「あはぁー、ちょぉーっと強くなりすぎちゃった? ……あっ、金箱!! なるほど、銀銀金で三階層ごとなんだぁ~。えいっ」


 大階段の前に帰還用と進行用の二つの空間の裂け目が現れ、更にその前には金色の輝き。第三層のときと同じように、金色の宝箱が鎮座していた。

 なお、ここまでの第四層と第五層で出現したのはどちらも銀の宝箱であり、出たのはMPを強化するアクセサリーとVITに特化した腕装備。いずれもシヅキにとっては無用の長物だ。

 連続でハズレを引き鬱憤が溜まっていたシヅキは超高速で金箱へと接近し、そのまま雑に足で蹴り開ける。


□□□□□□□□□□

伝承器アームズロア:魔杖『ふぉーるん』

装備アイテム(武器・杖)(等級:Ⅴ)

片手武器


攻撃命中時、50%の確率で以下の特性がランダムに一つ発動する。

※効果はそれぞれ記載された確率で抽選される

50%:HP5%回復

30%:追加攻撃(武器攻撃力×100%の氷属性ダメージ×3)

10%:追加攻撃(武器攻撃力×300%の闇属性ダメージ)

5%:堕天使の悪戯(『魔力障害:Lv2』を受ける)

5%:堕天使の誘惑(残存MP量の割合が反転する)


『魔力障害』

持続:60秒 最大累積Lv:10 消去不能

詠唱スキルの消費MP量がLv*10%増加する


聖属性

武器攻撃力:140+(INT*1)


装備条件

INT:200~


トレード不能

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 金の宝箱から出たのはまたもや伝承器アームズロアだった。蜥蜴丸と同じように、これも性能の癖が強そうだ。説明文が随分と長い。


 未だシヅキは外器オーバーヴェセルによる幸せな高揚の中にいる。理外の長時間連続使用によって高揚感にもいい加減慣れてきてはいるが、それでも未だ平静には程遠い。


「杖……杖ぇ~? ゴミじゃーん!」


 そんなシヅキが出した結論は『杖だから多分ハズレ』。一応は説明文に目を通そうとするが、こうしている間にも赤き鮮烈なる死レッドラッドデッドによるHP減少は進んでおり、HP残量は現在50%ほどだ。

 ぼやぼやしている余裕はシヅキにはないシヅキは長文を読むのが面倒臭くなった。装備の名前と武器種類だけ確認した後はまともに説明文も読まず、すぐにインベントリを閉じ帰還するための空間の裂け目へと手を掛ける。


「あーあー、どうせなら短剣か蜥蜴丸の対になる片手剣が良かったな~。わたし悲しい!」


 シヅキは入場時の移動地点確認メニューで知ったのだが、どうやら『知識の井戸』は三層刻みでショートカットが解禁される仕様らしく、第三層と同じように、おそらく次からはここ、第六層にも直接入場が可能になったはずだ。

 残念な引きによりなんとなく気勢を削がれたシヅキは、一旦退出して宿の自室で休憩を取ることにした。



    ◇◇◇


「いや……神引きじゃん!!!」


自室へ戻るファストトラベルによって赤き鮮烈なる死レッドラッドデッドが解除され、平静を取り戻したシヅキ。確かハズレだったはずだが、一応性能を確認しておこうと新たに入手した伝承器アームズロアの説明文に目を通し────シヅキの魂の叫びが木霊した。


「杖なら血の剣の対象だから全然使えるし、それに単純計算で25%発動のHP5%回復ってこれだけでもう全然お釣りが……あっでも、赫血のHP補正が無くなるのは結構キツいかな……?」


 赫血の曲剣はHP+1000と+25%のふたつの補正を持つ。現在のシヅキのHPの場合、それは実数値に換算するなら2780Ptの差となり、赤き鮮烈なる死レッドラッドデッドの補正で言えばステータス55Ptに相当する。

 そう考えるとかなりの差と言えるだろう。


「ん~……更にHPを高めて、ステータス55Ptが誤差程度になってきたなら赫血よりこっちの方が強くなる……かな? 今のところは赫血と蜥蜴丸の二刀流の方が強そうだぁ」


 シヅキの評価──断じてゴミではないが今すぐ使えるという訳でもない。

 おそらくはこの杖のメイン効果と思われる堕天使の誘惑────現在MP/最大MPの割合が100/100のときに発動すれば0/100に、20/100のときに発動すれば80/100になる、非常に癖の強いMP補充手段────がシヅキにとっては完全に無意味なのもあり、使いどころは中々難しそうだ。


「……いや、別に無意味ではないか。普段はMP普通に使って、使い切ったら生命転換、で堕天使の誘惑が発動し次第生命転換解除…………。ほぼメリットだけを享受できるけど切り替えがめんどくさいなこれ。やめとこ。…………よし、休憩終わり! 探索再開だ~。九層に着く前には魔族ニェラシェラと出会いたいなぁ」


 魔族ニェラシェラを倒したらその次はスカーレッドへのリベンジマッチが待っている。所詮は通過点に過ぎない以上、こんなところでまごついている暇はない。

 シヅキは勇んで『知識の井戸』の近場のファストトラベル地点へと転移していった。


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Tips

『攻撃命中時効果』

 攻撃時、あるいは攻撃命中時に発動する効果を持つスキルや装備はいくつもあるが、これらは武器による攻撃(通常攻撃)の他にスキルによる攻撃でも判定が発生する。

 複数回攻撃を行うスキルはその回数分だけ判定が発生するためこれらの効果と相性が良く、逆に『魔杖ふぉーるん』や『風裂くヒュードラムデ』などが持つ『追加攻撃』では判定は発生しない。


 シヅキの習得した『影なる刃』は、追加攻撃でありながらもこれらの効果の判定を発生させることが可能な例外的仕様のスキルとなっている。

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