第三十六話:秘めたる奥の手
「転移先に悪意がありすぎ!! イルミネ、ちょっとだけでいいから時間稼げる!?」
「無理! こいつこの巨体で武人系エネミーよ! きっと血の剣を使った瞬間狙い撃ちされるわ!」
「わたしの素の攻撃力だと多分こいつの装甲抜けないんだけど!!」
後衛を守るため、あるいは敵を打倒するため。二人は階層ボスエネミー『
だが、体高5mを超える巨体とそれに見合った大きさのハルバードを持ち、石造りの身体とは思えない機敏な動作をする
二人は
「めいでんちゃーん! 復帰まだー!? ちょっと十秒だけでいいからヘイト取って欲しいんだけど!!」
返事こそないがシヅキの叫びは聞こえていたのだろう。手甲をがんがんと打ち合わせ、
「さんきゅー! んじゃちょっとだけ頼むよ~! 〈血の剣〉っ……」
「〈プロヴォーグドラム〉! ひえぇ~っ!」
シヅキはめいでんちゃんと入れ替わる形で後退し、血の剣を使用する。その間に別のヘイト獲得スキルを使用しためいでんちゃんは、
「おぉ、ホームラン」
吹き飛ばされためいでんちゃんの方へ聖野生が慌てて駆けていくのを眺め、シヅキは気の抜けた感想を漏らす。
「シヅキー! ヘルプ!! 血の剣使ったんならどうとでもできるでしょ! はやぁく!」
「んじゃあ今から少しの間受け持つから、その間にバフ掛けておきなよ! ほっ!」
言いながら、シヅキは蛇腹剣を用いて
だが、自らの胴体に迫る刃を認識した
「うっそでしょ!? 〈血刃変性〉! ……〈血の刃〉!」
予想外の行動に驚愕していると、ぐん、と武器を強く引かれる感覚。シヅキは慌てて
引っ張っていたものが急に消失し、僅かに
続けてひやむぎたちのいる方向から飛んできた、おそらくシヅキの武器を掴まれたのを見て咄嗟に攻撃を繰り出したのだろう遠距離攻撃も同様に切り払われ霧散してしまった。
「近距離には踏み込めず、中・遠距離は対応される……。うぅん、これわたしだけだとたぶん無理だな。……イルミネー!? どう? いけそうー!?」
「手抜きできる相手じゃない、最初から全力で行くわ! 〈
「攻撃魔法は無理そうだが、バフは任せたまえ!〈スピードアップ・オール〉!」
風と雷を纏った銀の槍を携え、イルミネは超高速で
「援護するよ~!」
今の
想像通り、先ほどとは違って
時折、シヅキに向けてちらりと忌々しそうな視線を向けてはくるが、こちらにまで対処する余裕はないらしい。シヅキは悠々と攻撃を続ける。
イルミネが
すると、必死にイルミネへ対処していた
「やっば……退避ー!」
シヅキは蛇腹剣の牽引移動によって
それに、肝心のイルミネは逃げもせず未だに
「なーにやってんのイルミネ! 範囲攻撃来るよー!!」
「あははは────」
シヅキは慌てて呼び掛けるが、返答の代わりに聞こえてきたのは異様に高揚したイルミネの哄笑。
「あっダメだあれ」
次の瞬間、ボスエリアの過半を莫大な光が覆った。僅かに遅れて聞こえてくる、大音量の爆発音。退避していたシヅキは直接的な被害を受けてはいないが、それでも光と音に頭が揺らぎ、目が眩む。
シヅキが正常な視界を取り戻したとき、視界に広がったのは死屍累々としか言いようがない光景だった。
鈍足で逃げ遅れたらしい、
肝心の最大戦力、
その上、聖野生達よりも強度の強い『麻痺』も受けているらしく、倒れ伏したままぴくりとも動かない。
この場で無傷なのは最早シヅキだけだ。だが、
「う~ん、絶体絶命? これは負け……いや、いや。勝ちを諦めるのだけは許せない。許されない。許してはおけない。……多少油断して負けるのは仕方ないけど、まだ抗えるのに負けを確信して手を抜くのは絶対にダメ」
シヅキは『
だが、全力を出していたかと言うと疑問が生じる。
何故ならば、シヅキには
シヅキが最後にEXPを消費したのは、数日前に血刃変性を習得したときだ。それ以降、つまり『千年樹木の大樹海』の周回や『小鬼と妖精の大洞穴』の探索で得たもの、それにここまでのダンジョンの道筋で得たEXPは丸々残っている。
その量は────1889Pt。なにかひとつ等級Ⅴのスキルを習得してなお余りのあるポイントだ。
そして、シヅキはとある
「……なんだかちょうどかっこよくお披露目ができそうなタイミングだぁ。本音を言えば、他にもいくつか選択肢を見てからにしたかったけど……よし、習得」
シヅキは手早くメニューからスキル欄を開き、目的のスキルを習得した。以前から目を付けていたものであり、効果は既に把握している。ぶっつけ本番となるが、大した問題はないだろう。
「さーて……じゃあ、わたしの真価を見せてあげよう……なんてね。────〈
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Tips
『スキルにおける等級ごとのEXP消費量』
基本的には等級Ⅰが100Ptであり、そこから等級がひとつ上がる度に200,400,800……と倍々になっていく。
等級Ⅴだけは特殊な設定がされており、等級Ⅴのパッシブスキルである
また、HPブーストなど一部の効果が微小なスキルは、本来のEXP消費量より少ないPtで取得できるようになっているものもある。
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