第三十話:初めての5人PT

 屋台通りの片隅にあるテーブルベンチ。現在、そこには三人の少女の姿があった。


「ふぅん……。『地下遺跡:知識の井戸』ね……」


「はい、わたし達のPTが受けたクエストで、そこの奥のほう、第三層にいるボスを倒すように指定されたんですけど、どうにもわたし達だけだと難易度が高くて……」


「わたし『達』ってことは他にもメンバーがいるのよね? 何人?」


 自然に話に入ってきた見知らぬ人間に、めいでんちゃんは目を瞬かせている。

 人数を聞いたということは、空きがあるならイルミネも参加するつもりなのだろう。UGRにおいて1PTは6人が上限なため、めいでんちゃんのメンバーが合計4人以下ならイルミネも参加は可能だ。


「えぇと……?」


「こっちはわたしの友人・・のイルミネ。まぁ……おおむねわたしと同じくらい強いアタッカーだね」


「あぁ、なるほど……そうですね、私を含めて三人PTなので、良ければイルミネさんにも参加していただけると助かります……」


「なるほど、ありがと」


 イルミネは一見気の強そうな見た目と口調をしているため、初めて会う人間を委縮させがちだ。だが、めいでんちゃんは特に怯んだ様子は見せておらず、平然と対応している。

 こちらはこちらで見た目や言動に反して割と図太い神経をしているようだ。


「クエスト、クエストね……。ちょうどわたし達もクエスト巡りをしていたから、そういう意味では都合は良いんだけど。それってどんなクエストなの?」


「えぇと、『栄誉を求めし者:Ⅴ』っていうクエストで……端的に言うなら、報酬として必須級の装飾品が貰えるクエストですね……」


「ふぅん……?」


 シヅキはゲーム開始前後に軽く調べたものを除けば、ゲーム外部での攻略情報収集はあまり行っていない。残念ながら、クエスト名を言われても概要が把握できないのだ。

 ただ、補足情報からしておそらく難しい代わりにいいものが貰えるのだろう、そう漠然とした理解をする。


「あぁ、アレね。シヅキ、これは受ける一択よ」


「イルミネは知ってるの?」


「えぇ、あれは複数のクエストが繋がってる類のものなんだけど……前提の四つのクエストの時点でかなり面倒だから。そこを飛ばしていきなりⅤから行けるなら、これは私達にとってもかなりありがたい提案よ」


「わたしはそのクエスト受けてないんだけど……。手伝ったとして何かこっちに利益なんてあるの?」


 仮にめいでんちゃんがクエストをクリアして報酬を手に入れたからといって、それをそのままこちらに渡してくれる訳ではないだろう。

 そんなことをするなら、そもそもクエストをクリアした意味がなくなってしまう。


「ん? あぁ、シヅキはクエスト全くやってないから仕様を知らないのね……。えぇと、PTを組んでるメンバーの誰かがクエストをクリアした場合、そのクエストのクリア報酬を同じPTメンバーも受け取れるのよ。その代わり、後から同じクエストをクリアしても、もう一度報酬を貰うことはできなくなるんだけれど」


 つまり、めいでんちゃんとPTを組んでクエストクリアを手伝えば、面倒な前提クエストを飛ばして直接『必須級装飾品』とやらを入手できるということだろう。確かにそれはシヅキ達がめいでんちゃんを手伝う理由になり得る。


「あ、あと……そこのボスが、初回討伐時に金箱確定らしいです……」


「よし行こうすぐ行こう今すぐ行こう」


 金箱。宝箱のランクとしては一番上であり、最低でも等級Ⅳ以上、高い確率で等級Ⅴのアイテムが出る素晴らしい報酬だ。

 シヅキには無用の長物が出る可能性もあるが、それでもレアアイテム入手の機会を逃す選択肢はない。


「ちょっと落ち着きなさいな。えぇと、めいでん……ちゃん? その……『知識の井戸』とやらは脅威度いくつなの? 難しいとは聞いたことがあるけど、私は実際の数値までは知らないんだけど」


「あっ、はい……。入場前の表示だと脅威度は50~表記で、第三層になると脅威度は70くらいまで上がるみたいです……」


「70。70か~。それなら大丈夫じゃない? わたしとイルミネの二人で脅威度64に勝てるんだから、そこにプラスして三人も来る以上かなり余裕あるでしょ」


 シヅキ一人では脅威度66をクリアできず、脅威度64はクリアできる。つまりシヅキの強さはおおむね脅威度65辺りに位置しているということになるだろう。そこに同等の強さをもつイルミネが加わり、更に三人のメンバーが増えるなら、戦力的にはかなり余裕があるように思える。


「んん~? 難関扱いをされているダンジョンなのに脅威度70……?」


「エネミー自体は70相応らしいんですけど、ギミックとかトラップが多くて……それが表示以上の難しさの原因になってるらしいです……」


「ま、ギミックって言っても所詮はゲーム的なそれでしょ。そんなキツくもないだろうし、うん、よし、わたし達も手伝わせて貰うよ~、めいでんちゃん!」


「あ、ありがとうございます!」


「はぁ……。ゆったり過ごすはずだったのに……」



    ◇◇◇


 その後、話がまとまったのでめいでんちゃんの他のPTメンバーとの顔合わせを行うことになった。

 ちょうど今もログインしているらしい。それならば挨拶をして、その後はそのままダンジョンの攻略に向かってしまおう、そう三人で話し合った結果だ。


「この二人がわたしのPTメンバーの──」


「ひやむぎと呼んでくれたまえ! ……きみ、凄い格好だね!」


セイント野生やせいだ……。おいむぎ、そんなもん初対面の相手に言うことじゃあないだろ……」


聖野せいや、そうはいっても気になるものは気になるだろう?」


 めいでんちゃんがフレンドチャットによって呼び出したらしく、まもなく二人のプレイヤーが現れた。

 ひやむぎと名乗った方は、がっしりとした筋肉質の巨漢男性アバターだ。短く切り揃えられた髪型がさわやかな印象を醸し出している。

 もう一方の聖野生は、ひやむぎとは対照的な印象を受けるひょろりとした猫背の男性だった。白いローブを身に纏っており、なんとも怪し気な雰囲気だ。

 二人とも、シヅキの露出過多なベリーダンサー風衣装を呆気にとられたように眺めている。だが、どうにもそういう・・・・視線は感じられない。


「これはこっちの……イルミネの趣味が出た服装だね。ところで君たち三人は……姫パ?」


「ちょっ、シヅキ!」


 見るからに性格のバラバラな、女・男・男というPT構成。露出の多い女性(シヅキ)に性的な視線を向けてこない。つまり……そういうことなのだろう。

 シヅキは脳裏に浮かんだ単語を思わず口走ってしまった。だが、言われた三人は、何故か各々口角を緩めてにやりと笑った。


「えぇ、まぁ……そうですね。わたしの信者Aとわたしの信者Bです……」


「あぁ、信者だね!」


「ハっ、誰が信者だ、誰が……」


「……なるほど、仲良しPTかぁ。これはわたし達肩身が狭いな~。あっ、わたしシヅキでーす」


「あぁもう、悪いわね、この子調子に乗りがちなのよ……。三人とも、今日はよろしくお願いするわ。私の事はイルミネって呼んで頂戴。あと、別に趣味ではないわ」


 初対面の4人がそれぞれ名乗り、挨拶を交わす。話題はそのまま誰がどういうことができるのか、つまりPTでの役割分担へと移行する。


「わたしはVIT極なので、壁と……あと1分に1回だけ高威力の攻撃ができます」


「こんな外見だが、私はサポート寄りの魔法使いだね! バフと軽い回復、あとぼちぼちの攻撃! そんな感じだ!」


「僕はヒーラーだ。……まぁ、見た目で分かるだろうけど。MP量も確保してるし、蘇生も覚えてるからある程度の水準には達しているはずだ……たぶん」


「壁、サポ、ヒラ? ……なんだか随分偏った編成だねぇ」


 アタッカーであるシヅキ達としては渡りに船といったところだが、見る限り、この三人は普段からPTを組んでプレイしているように思える。普段は火力役が不足しているのではないだろうか。


「いやぁ……元々の友人で一緒にこれを始めたのはいいんだけど、各々が相談せず好きなようにビルドしたらこうなったんだよね! 慢性的な火力不足PTだよ!」


「一応わたしがVIT依存の攻撃スキルで瞬間的な火力なら出せるので、普段はそれで持久戦をしてますね……」


「なるほどねぇ。あ、わたしはアタッカー。HP特化だけど、多分強いよ!」


 シヅキの発言に、男性陣が無言でめいでんちゃんへと視線を向ける。まるで『なんでこんなやつを連れてきたんだ』と言わんばかりだ。だが、一般プレイヤー層におけるHP特化……"血の剣マン"の評判を鑑みれば妥当な反応だろう。


「ちなみにだけど、脅威度64のIDくらいならソロクリアできるし、アリーナ個人戦の勝率は……確か94%とかだよ。ほらこれ」


 PT内に不和が生まれるのはシヅキの望むところではない。自身の能力を見せびらかすようで若干楽し……いや、苦しいが、円滑なコミュニケーションのためには自らの戦績を明示した方が良いだろう。そう判断し、シヅキは自身の戦闘力を端的に説明、メニューからアリーナの戦績画面を呼び出し三人に掲示した。


「は……? 普通にガチガチのアタッカーじゃないか……。それでHP特化……?」


「勝率94%は凄いな! HP特化というと、バフはどういうのがいいんだ?」


「えぇと、そうだねぇ。わたしとしては──」


 シヅキの戦績に驚いた様子を見せる男性陣。シヅキは鼻高々な様子で、戦法について相談を行っていく。だが、話を聞くに、どうやらシヅキはステータスの関係上ひやむぎの扱うバフの恩恵はほとんど受けられないようだ。

 まぁ、それはそれでいいだろう。シヅキは元々ソロプレイヤーだ。単独でも戦えないことはないのだから。


「まーた調子に乗って……。……私はAGI寄りの槍アタッカーね。強さとしては大体シヅキと同じくらいかしら」


「アタッカー二人か、丁度いい編成だな……。お前にしてはやるじゃん、めいでん」


「いやぁ、わたしなんか、ただの顔が可愛いだけの人間ですから……。この二人に会えたのは完全な偶然なので……」


 タンク、サポーター、ヒーラー、アタッカー、アタッカー。若干前衛に偏っているが、おおむねバランスの良いPTと言えるだろう。

 PTの枠はあと一つ空いているが、シヅキの心当たり、『二人しかいないフレンドのうちの一人』は現在ログインしていないらしく、今から誘うことは難しいだろう。つまり、この五人でダンジョンに挑むことになるのだ。


「賑やかでいいね~。楽しい冒険になりそうだね、イルミネ?」


「どうにも癖の強いPTになったわね……。気苦労が多そう……」


 五人は西へ向かって移動を開始した。目指すは高難易度ダンジョン『地下遺跡:知識の井戸』だ。


──────────

Tips

『地下遺跡』

 フィールド各地に存在する、インスタンスではないダンジョンのこと。

 インスタンスダンジョンとは違い道中に特殊なギミックや罠などが配置されており、その性質上表記上の脅威度より難易度は高くなる傾向がある。

 大階段で区切られた複数の階層を持つのが特徴で、階層を下るほどエネミーの脅威度が上昇していく。その階層数は地下遺跡によって異なるが、概ね3から5層程度のものが多い。

 シヅキ達が向かうことになった『地下遺跡:知識の井戸』は現在七層まで存在が確認されているが、未だに最下層がいくつなのかは判明していない。

──────────

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る