第十三話:思わぬ遭遇
[WINNER:シヅキ!!]
[WINNER:シヅキ!!]
[WINNER:シヅキ!!]
…………
「いや……死ぬ!!」
アリーナから戻った先、いつもの宿の一室でシヅキは絶叫した。
連勝を重ねてこそいるが、いくつかの試合では自身が致命傷を負い、相手に隙を生じさせることによりなんとか勝利を拾っていた。いくらシヅキがゲーム慣れしているとはいっても基礎的な身体能力の差は如何ともし難く、今のところ正面切っての戦いで最初から優位を取れた試合はあまりない。
「……結局のところ、わたしの持つ絡め手が血の刃くらいしかないのが悪いと思うんだよね。正面きっての戦いで互角のレベルだと、そこから優位を取れる手段がまったくない訳だし。はぁ……」
溜息をひとつつき、シヅキは再びアリーナへと挑んでいった。
◇◇◇
「おぉー、今回は観戦が多いっスね~。これランダムなのかな、それとも連勝数が影響してる?」
「……うん?」
転移先、最早見慣れた円形闘技場。そこで聞こえてきた声に、シヅキは思わず対戦相手を見る。
そこには、見覚えのある橙色の髪をした少女が立っていた。
「おや、らっきーちゃん。ランダムマッチングで当たるとは奇遇だねぇ」
「は? うわっ、マジっスか……シヅキサンかぁ~…………」
「……その反応は流石にちょっと傷付くなぁ」
シヅキには、らきらきに嫌われるようなことをした記憶はない。むしろ、好かれるようなことをした覚えならあるのだが。
「いや……騙されてあんなことされて、苦手意識持たない方がおかしいと思うんスけど?」
「あぁ、実はあれって、システム上両者の同意がないと絶対にできないようになってるらしいよ」
「…………」
上辺だけの敵意を向けてくるらきらきに残酷な真実を告げると、みるみるうちにらきらきの顔が赤く染まっていく。なんというか、とても戯画的な見た目だ。非常に可愛らしいが、このゲームはいったいどこに力を入れているのか。
「うぅう……うぅー! うるっさいっスねぇ! あのときは! そう! アタシはころっと騙されてたから!! それでゲーム側が勘違いして実行できちゃったんスよ!!」
「……ふふふ、そういうことにしておこっか」
「んぎぎぎぎ……余裕ぶった顔がムカツク……! よーしもういいっス、せっかくPvPの相手としてマッチングしたんでスし、アタシの手で直接ぎったんぎったんにしてやるっスよ……!」
「対戦、よろしくね~」
楽しい楽しい会話を切り上げ、シヅキはゆらりと構えを取る。一方のらきらきは杖の石突を斜め前に突き出し、槍のように構えている。およそ魔法使いらしからぬ姿勢だ。
試合開始までのカウントは残り僅か。
「様になってるねぇ。でも、そう使うならなんで槍にしなかったの?」
「……こっちの方が独創的でカッコ良くないっスか?」
「なるほど、一理あるね」
ふと湧いた疑問を解消したところで、ついに試合開始のブザーが鳴り響く。
「〈血の剣〉っ……」
「〈マナブレイド:強度600〉!」
「よっと。……へぇ、なかなかカッコいいスキルだぁ」
らきらきの持つ杖、その半ばから石突の先までを覆うように、半透明の青い刃が生じている。穂先の長い槍、あるいは両刃直刀の長巻といった風情だ。
「うぅん、悔しいけど、シヅキサンのそれもかなりイカしてるじゃあないっスか……!」
対するシヅキが構えるのは、淀んだ赤色の刃をもつ二振りの剣。
この対比は非常に見栄えがするだろう、観戦者はさぞ盛り上がっているのではないか。シヅキの思考に雑念が混じる。そこへ不意を打って飛んでくる、らきらきの攻撃。
「〈パラライズサンダー〉、〈詠唱破棄〉!」
「ぐぅっ!?」
らきらきの杖槍から放たれた超高速の雷撃がシヅキに襲い掛かる。最初のスキル名が聞こえた時点でシヅキは大きく身を引いていたが、それでも躱しきれなかった雷が左腕を掠める。
腕に感じる強い痺れ。剣を取り落としこそしなかったが、しばらくはまともに振るえないだろう。
「そらそらそらーっ! 防御手段ナシでPvPはいくらなんでも舐めすぎっスよー!! 〈二重詠唱〉! 〈アイシーバレット〉、〈フレイムシャワー〉! そんでもって〈詠唱破棄〉!」
「クソ、思ったよりずっと……対人慣れっしてる、なぁ……!」
杖槍と魔法を併用したらきらきの猛攻を、右手と足捌きだけで凌ぐシヅキ。幸い、らきらきのSTRはシヅキとそう変わりがないようだ。正面から受け止めるのは流石に難しいが、受け流すだけなら片手だけでもどうにかなっている。
痺れた左腕の感覚が戻るまでは攻めに転じることは難しいように思えたが、〈生命転換〉の効果でMPが事実上無限に等しいシヅキとは違い、らきらきは明らかに立ち回りの中でMPを大量に消費している。ただ耐えているだけでも自然と趨勢はシヅキの方に向いてくるだろう。
「……嫌にしぶといっス、ねっ! 〈ライトニングボルト〉、〈詠唱破棄〉!」
「それが取り柄だからね! 〈血の刃〉!」
槍での攻撃の合間を縫うように飛んできた雷の槍。血の刃をぶつけることで相殺し、らきらきに向けて痺れの取れた左腕の剣を振るう。しかし、上体を逸らすことで躱され、更にはその勢いのままに上段蹴りを繰り出してきた。
ダメージこそ大したことはないが、肩を蹴られたことでシヅキの上体が後ろに流れ、体勢が崩れる。そこへ振り下ろされる杖槍。シヅキは蹴られた勢いに逆らわず後転することで、紙一重で回避した。
「ふ、ふ。わたしは別に、長期戦でも構わないんだよ……。らっきーちゃんの戦法、あきらかに長期戦向きじゃないでしょ」
「……けーっ、人間性能全振り勢はこれだから……。魔法も絡めた近接の猛攻っスよ? 普通凌げないはずなんスよ! というか凌がれる想定をしてない!! 速攻で片を付けるつもりだったのに!」
「うぅん? わたしじゃなくても、AGI振りしてる人なら凌げそうなもんだけどね」
「ここまでにAGI極っぽい人も含めて二十連抜きをしてきてるんスよアタシは!! これでもかなり強いはずなんスよ!? 自尊心を返して!」
二十連勝とは凄まじい。自身ですらまだ十連勝にも届いていないというのに。ぎゃんぎゃんと騒ぐらきらきに、シヅキは素直に感心する。
「いや、わたしの感覚でもらっきーちゃんは相当強い方だと思うよ? でもまぁ、相性が悪かったね~。わたしは持久戦特化型だから」
「HP特化、タフなだけの豆腐に持久戦もクソもないでしょーが! VIT振ってないなら一発モロに食らった時点でどんだけHPあってもそれで終わりじゃないっスか!」
「た、タフなだけの豆腐……?」
あまりにも酷い表現に、シヅキは愕然とする。確かにシヅキは死に辛いだけで堅くも粘り強くもないが、その言い様はあんまりではないだろうか。
「隙ありィー! ふんっ!」
「ぎゃっ!? ず、ズル……」
「問答無用! 〈マナインジェクション:強度1700〉!! でりゃあぁ!」
シヅキが見せた隙に、らきらきは今まで使っていなかった動作ショートカットを用い、予兆なしに高速で魔法を叩き込む。おそらくは先ほど左腕に受けた雷撃だろう。直撃し、全身が痺れまともに動けなくなったシヅキに降りかかる、輝きを増した杖槍の一撃。
袈裟懸けに身体を両断され、シヅキの膨大なHPが回復する間も無く一瞬で底を突いた。
[WINNER:らきらき!!]
「わっ、やった、ホントにシヅキサンに逆襲できたっス! わーい!!」
◇◇◇
「えっ……らっきーちゃん、強くない?」
宿の部屋。リスポーン後、シヅキはベッドの上に横たわったまま茫然と呟いた。
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Tips
『詠唱スキル』
一部の特殊なスキルに設定される特性のうちのひとつ。この特性を持つスキルは、使用から発動までにスキルごとに指定された秒数の待機時間が発生する。
待機時間中に攻撃を受けるとスキルの使用が強制中断されることがあるため、敵の攻撃を受ける可能性のある状況でそれらのスキルを使用するときは注意が必要である。
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