第三章
第十二話:PvPデビュー
【イベント】『勝者の証を奪い取れ!血と暴力のバレンタイン』開催のお知らせ
[イベント概要]
トールセン王国首都に、新たな施設、闘技場がオープン!
新鮮な娯楽の登場に民衆はお祭り騒ぎ! それにかこつけ、トールセンの菓子職人連盟が『新たに開発した超高級お菓子"チョコレート"を闘技場の勝者に授与する』との声明を発表しました!
並居る強者と競い合い、勝者の証、『チョコレート』を手に入れましょう!
[イベント詳細]
新機能『アリーナモード』の実装を記念したイベントです。
期間中、『アリーナ・個人戦』や『アリーナ・PT戦』に参加・勝利することで消費アイテム『チョコレート』を獲得することができます。
『チョコレート』は使用することでHP及びMPを50%回復することができ、また、一定数集めることで特定のアイテムと交換することも可能です。
(イベント終了後も『チョコレート』は消滅せず、そのままアイテムとして保持することが可能です)
[イベント開催期間]
2091/2/14(水) 05:00:00 ~ 2091/3/15(木) 04:59:59迄
[『チョコレート』交換可能期間]
2091/2/14(水) 05:00:00 ~ 2091/3/22(木) 04:59:59迄
[交換可能アイテムリスト(括弧内は交換可能上限数)]
1個:上級HP回復薬×3 (無制限)
2個:上級MP回復薬×3 (無制限)
5個:小麦粉×20 (無制限)
5個:砂糖×15 (無制限)
10個:スキルチケット400×1 (3回)
……
【アップデート】
2091/2/14(水) 05:00:00から、以下の仕様変更が行われます。
・ファストトラベル対象地点の追加
(主に各フィールドの入口付近が対象として追加されます)
・スキル解禁条件の緩和
・スキル解禁条件の一部を満たした時点で、そのスキルが一覧画面に表示されるよう変更
・弾道計算式の微調整
……
◇◇◇
「……このゲームって、こういうイベントやるタイプのゲームだったんだ」
2月13日。公式から届いたメールには、なんとも言い難い名称のイベント開催告知が記載されていた。
アリーナモード、つまりは対人戦が実装されるのだという。詳細を読むに、アリーナ自体は新たに常設されるコンテンツだが、バレンタインイベントは期間限定。つまり、新規コンテンツの実装と同時に、それを利用した期間限定のイベントを開催するということらしい。
「うぅん、対人戦か。嫌いじゃあないけど、そこまで好きでもないし……まぁ、報酬によっては多少触ろうかな。どれどれ……?」
告知の下部にずらずらと羅列された、交換対象アイテムのリストを眺める。
回復アイテムやお菓子系の食材アイテム、イベント限定の特別な武器など、この手のイベントとしてはありがちなラインナップが並んでいる。
「イベ限装備、見た目がめちゃくちゃいいなぁ。これだけで結構欲しくなるや。でもバレンタインイベントなのにチョコじゃなくて血がモチーフなんだ……。血と暴力のバレンタイン……」
暗い赤色を基調としたイベント限定装備群は、いずれも非常に見た目が良い。これだけを目当てにイベントに臨むプレイヤーもいるのではないだろうか。
肝心の装備性能はゲーム内のチョコレート交換画面から確認ができるらしい。シヅキは告知の残りを流し読みした後、装備の性能を確認するため交換画面を開いた。
□□□□□□□□□□
赫血の短剣・Ⅰ
装備アイテム(武器・短剣)(等級:Ⅰ)
両手武器
HP+100
闇属性
武器攻撃力:10+(DEX*0.6+AGI*0.4)
トレード不能
□□□□□□□□□□
「……めちゃくちゃ性能ショボいな。というか、ほぼほぼ記念品レベルだぁ。初期装備に毛が生えたレベルって、こんなのPvPイベントの報酬に持ってくる? ……あっ、装備するのにステータス要求しないタイプ? イベントアイテム消費で更に性能強化? へぇ……」
イベント装備はすべての武器種ごとにひとつ用意されているが、種別に関わらず効果はほとんど同じなようだ。いずれも僅かにHPを強化する効果を持っている。
また、どうやら一度交換しただけで終わりではなく、更に追加でイベントアイテムを使い、上位の等級に強化していくタイプのものらしい。
「……なんかわたしに都合が良すぎてちょっと怖くなってくるな……。いや、そりゃあ血がモチーフならそういう性能になるのはわかるんだけど……。高度AIくん、もしかしてわたしのこと監視してない?」
戯言を呟きつつも、シヅキはリスト下部に書かれた補足を確認する。そこには一番上、等級Ⅴとなったバージョンの性能も載っていた。
□□□□□□□□□□
赫血の短剣・Ⅴ
装備アイテム(武器・短剣)(等級:Ⅴ)
両手武器
HP+1000,HP+25%
攻撃命中時、20%の確率で自身のHPを1%回復する
闇属性
武器攻撃力:30+(DEX*0.6+AGI*0.4)
トレード不能
□□□□□□□□□□
「うわっこんなに強くなるのか! ……めちゃくちゃ欲しいな、これは流石にイベント全力だぁ」
◇◇◇
翌日。告知通りバレンタインイベントが開始され、早速シヅキはPvPに挑戦することにした。メニューから『アリーナ:個人戦』を選択し、マッチング待機状態になる。
「さて、最初はどんな相手とマッチングするかな」
しばらく待つと、マッチング成立の知らせが表示された。シヅキの視界に映る景色が切り替わる。
どうやら円形の闘技場のような場所に転移したらしい。観客席には、頭上にプレイヤーらしき名前が表示されたダミーアバターの姿がぽつぽつと見える。頭上には『試合開始まで残り30秒』の表示。
(観戦機能もあるんだ……。仕様的にランダム観戦とかかな?)
「おや、初期装備。新規さんかな? 僕
突然響き渡った声に、シヅキが驚いて声のした方に目を向ける。
対面、少し離れたところに片手剣と盾を携えた男性が立っていた。どうやら、対戦相手とは開始前に会話ができるらしい。
「あぁ、はい。シヅキです、対戦よろしくお願いします」
(こういうのって普通会話不能になってるもんじゃないの? そりゃあ会話できた方がより戦略的にはなるんだろうけど……。かなり荒れそうなシステムに思えるけど、アングラゲーだから多少荒れるくらいで丁度良いってことなのかな)
困惑しつつも、挨拶を返すシヅキ。別に対戦相手だからといって恨みがあるわけでもなく、そうである以上礼儀をもって応えるべきだろう。シヅキは丁寧な口調を心がける。
「きみ初心者? それなら相当能力差がありそうだし、良ければスキル縛りで戦うけど」
「……あぁ、大丈夫ですよ。他の人の戦い方……ビルドも確認したいので。普通に戦っていただいて結構です」
相手の男性からの問いかけ。シヅキはいまだに初期からの装備のままであり、一見初心者に見えるのだろう。問い自体にはあえて答えず、無難な返答を返す。
相手が手心を加えることを期待した、軽い盤外戦術。だが、システム的に会話が可能になっている以上この程度はやって当然だろう。
「あ、そう? わかった、なら全力で行かせてもらおう」
「えぇ、よろしくお願いします」
開始までのカウントが0になり、響き渡るブザー音。
「さて、じゃあ行──」
「〈血の剣〉うぅん……」
「えっ」
試合開始と同時にスキルを使用し、崩れ落ちるシヅキ。すぐに立ち上がるが、その姿を見て対戦相手は目を丸くしている。
「なにそのスキル。……めちゃくちゃカッコ良くない? 真っ赤な刃の片手剣二刀流って!」
「ふふ、いいでしょう、これ。やってることはただの攻撃力強化なんですけど」
実は密かに気に入っていた血の剣の見た目を褒められ、シヅキは口を滑らせる。相手は敵なのだから、本来手札は明かすべきではない。
「へぇ、どれくらいのバフ?」
「……いやぁ、それは流石に言えません……よっ!」
さらりと追加の情報を引き出そうとしてくる対戦相手。これ以上言葉を交わしても、更なる墓穴を掘る予感しかしない。シヅキは、話を打ち切るためにいきなり相手に斬りかかった。
「うぉっ! くそ……不意打ち、かよっ!」
相手の武装は片手剣と盾。血の剣によって攻撃圏を伸長した以上、シヅキとのリーチの差は埋まっており、なによりこちらには刃が二つある。どちらが優位かは一目瞭然だ。
しかし、どうにもこちらの刃は相手に簡単に受け止められてしまう。一方、連撃の隙間を縫い時折飛んでくる相手の反撃は、シヅキの全力をもってしても受け流すのが精いっぱいだ。
(あっ、STR! そりゃ片手剣なら割り振ってるよね!)
シヅキのステータスは、HP以外のすべてが初期値のままだ。当然、ステータスの上昇に基づく身体能力上昇の恩恵も受けられていない。
一方、片手剣の攻撃力計算に用いるのはSTRとDEXであり、一般的なプレイヤーなら攻撃力に関わるステータスは重点的に伸ばしているはずだ。おそらく、膂力には絶望的なまでの差があるだろう。
「なんだ、AGI型かぁ!? 全然力が籠ってない、ぞっ! 〈シールドバッシュ〉!」
相手も彼我の膂力の違いに気付いたのだろう。こちらの攻撃を強引に弾き、シヅキの攻勢を妨害しにかかる。
正面立っての斬り合いは不利だと判断し、シヅキは弾かれた勢いに身を任せ、距離を取りながら血の刃を飛ばす。だが、ぎりぎりで盾を滑り込ませて防がれた。
おそらくはAGIの恩恵だろう。初見の攻撃への対応が早く、適切だ。
「ステータスの恩恵はここまで大きいのかぁ……。仕方ない、この戦法は極力やりたくはなかったんだけど……」
「おっ何、なんか切り札でも出すの?」
シヅキは答えず、無言のまま再度相手に突貫する。先ほどと同じように弾かれ体勢の崩れたシヅキに、相手から斬撃が返され──
シヅキは刃を避けず、袈裟懸けの斬撃が直撃する。刃が体に食い込み、血飛沫が飛ぶ。
「が、あぁっ……!」
普通なら試合を決するほどの明確な致命傷に、目を見開き驚愕する対戦相手。隙が生じるのを予測していたシヅキは、攻撃を受けるのと同時、右手を翻し、赤い刃を相手の首へ向け振るっていた。
刃が首の半ばまで食い込み、相手のHPゲージが砕け散る。
[WINNER:シヅキ!!]
機械音声が円形闘技場に響き渡り、この戦いの勝者を宣言する。
「う……ぐ、ごほっ…………せっ、〈セルフっ……ヒー、リング〉……。はぁ、はぁー……死ぬかと思った…………。これだから嫌だったんだよ。そりゃ、これなら相手に隙ができるけどさ……。これじゃ、わたしの身が持たないよ……」
なんとか傷を癒し、シヅキは独り悪態をついた。
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Tips
『即死攻撃』
UGRにおいて、心臓、脳、首などの致命的な部位への攻撃は、事実上の即死攻撃として機能する。
しかし、その実態は高速・極大のスリップダメージであり、膨大なHPがあれば傷を受けても僅かな時間は死なずに耐えられる可能性がある。
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お待たせしました、第三章です。
(何事もなければ)毎日19時に1話ずつ、順次投稿される予定です。
※二章の話数表記が間違っていたので修正しました
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