第十四話:反省と改善策

「まさか負けるとは……。なんだかんだ勝てるもんだと思ってたんだけどなぁ。負け、かぁー…………」


 シヅキは枕を抱き込み、顔をうずめる。密かに自身の能力に自信を持っていたシヅキにとって、無意識的に下に見ていたらきらきに敗北したことは自分で思っていた以上にショックだったようだ。


「ふぅー…………。よし、切り替えた! 次に勝つため、ちゃんとなぜ負けたのかの分析をしよう。敗因は……まぁ、会話で隙が生まれちゃったことだけど。それ以前に、わたしの持つ手札の乏しさにも問題があるよね。絡め手……よりは、まずは防御手段かな。両手が武器で埋まってるから盾は持てないし、相手の攻撃への対応手段が躱すか流すかしかないのはどう考えても拙いよねぇ」


 現状、シヅキが持つ手札は『血の刃』と『血の剣』、それに『セルフヒーリング』だけだ。これだけでは、らきらきと戦うより前にやっていた、自ら致命傷を負って相手の隙を引き出す戦法くらいしかできることはないだろう。

 現状の改善のため、シヅキはスキル欄を眺める。すると、以前とは様子が違い、グレーアウトした見慣れないスキルがいくつも表示されていた。


「うん? ……あぁ、そういえばイベント開始時のアプデで、解禁条件を全部満たしてなくても表示だけはされるようになったんだっけ? いいなぁこれ、解禁条件が分かるから指標になるし」


 灰色の羅列の中に、〈血刃変性〉〈命脈斬〉などといった、気になる名前がいくつかある。だが、シヅキが真っ先に目を付けたのは〈マナシールド〉という魔法系のスキルだ。


「『MPを指定量消費して消費量に応じた強度の障壁を生成』……。MP無限のわたしにピッタリじゃん! これ取ろっと。条件……魔法使用回数か。〈セルフヒーリング〉いち……に……さん……発動。〈セルフキュア〉……」


 シヅキはマナシールドの解禁条件『魔法系スキルを累計20回使用する』を満たすために無意味な回復を行いつつ、今までイベントで稼いだチョコレートで『スキルチケット400』を交換した。


「……よし解禁! げっ、等級Ⅱ……400チケットを突っ込むのはちょっともったいないなぁ……。まぁいいや、取得!」


□□□□□□□□□□

〈マナシールド〉

アクティブスキル(等級:Ⅱ)

CT:30秒 持続:180秒 MP消費:可変


任意の量のMPを消費し、魔力の壁を召喚する。

壁は召喚者に追従し、敵の攻撃を察知すると自動的に召喚者を防御する。


召喚物:魔力の壁

HP:消費MP*1.0

VIT:消費MP*0.1

召喚者の攻撃は魔力の壁をすり抜ける。


召喚スキル

召喚物は固有のステータスを持ち、それぞれに設定された行動を取る。

この召喚物は同時に2体まで召喚可能。


詠唱スキル

発動するまでに3秒の発動待機時間を要する。

待機時間中に攻撃を受けると使用が中断されることがある。


消費EXP:200Pt

解禁条件1:魔法系スキルを1つ以上習得する(3/1)

解禁条件2:魔法系スキルを累計20回使用する(20/20)

□□□□□□□□□□


「……ふむ? 〈マナシールド:強度100〉…………おぉ、こんな感じなのかぁ。薄い青色の板……これらっきーちゃんの使ってたスキルに似てるな? まぁあれもマナなんちゃらって名前だったし、同じ系統のスキルってことかな~」


 シヅキがスキルを使用すると、半透明な長方形の板が現れた。シヅキが十分に身を隠せるだけの大きさを持った盾が、ふよふよとシヅキの近くに浮いている。


「わたしのHPだと……消費MP倍増が掛かるし、強度1000くらいが限界かな? ……それでもHP1000にVIT100っていう、そのへんのタンクプレイヤーに準ずるくらいには堅い壁ができるわけか。相性最高だぁ」


 新しいスキルを習得したついでに、他に気になる名前のスキルの詳細も確認していく。シヅキが特に惹かれているのは〈血刃変性〉というスキルだ。名前からして血の剣か血の刃に関係があるのではないだろうか。


「なになに……? ……血の剣の形状変更? 等級Ⅳ!? うぅん……? 使い道はありそうだけど、どれくらいまでの変形が許容されるのか、線引きが分からないとなんとも言えないやつだなぁ。盾とかにできるなら武器の破壊不能性と合わせて相当強いけど、そうじゃないなら等級の割にはって感じ。まぁ、気長に解禁を目指していこうかな~」


 〈血刃変性〉の解禁条件は、『〈血の剣〉を100回以上使用する』というものらしい。現状、シヅキが血の剣を使用した回数は三十回程度。今すぐ満たせるほどではないが、普通にプレイしていればそのうち満たせる程度の回数なように思える。習得するための経験値も不足している以上、急いで使用回数を稼ぐことでもないだろう。


「……ふむ。こんなとこかな? よーし、チョコレート集め再開!」


 新たなスキルを手にしたシヅキはうきうきとしながらアリーナモードのマッチングを申請し、間もなく宿の一室から姿を消した。



   ◇◇◇


「いや……めちゃくちゃ強いな! VITが100もあると生半可な攻撃は大体弾いちゃうんだなぁ……」


 マナシールドを実戦に投入した結果、シヅキは既に十の連勝を重ねていた。盾を前面に押し出し攻め立てるだけで、ほとんどの相手は対応しきれずに敗北している。

 火力に特化したビルドと思わしきプレイヤーなど、盾を突破してきた相手も存在はしたが、彼らも盾を破壊した直後の隙を突かれ、結局はシヅキに土を付けられていた。破壊するのに全力の攻撃を必要とする盾は、壁としてだけではなく囮としても十全に働いている。


「この戦法、強すぎてかえって腕が鈍りそう。……負けたくはないけれど、そろそろいい感じに強い人と当たらないかな……? お、マッチング」



   ◇◇◇


 円形闘技場。隔離されたその空間に、がんがんと金属同士がぶつかり合う大きな音が響いていた。


「ほらっ! めいでんちゃんさぁ! 手も足も出てないんだからさ! そろそろリタイヤしてくんないかなぁ!?」


「いっ……嫌ですっ……! まだ負けてません……!」


 足元に向かって血の剣を振り下ろし続けるシヅキ。その下には、大型の手甲と足甲を身に着けた小柄な少女『めいでんちゃん』がうつ伏せで転がっている。シヅキによって背中を踏まれ、完全に押さえ込まれじたばたともがいていた。


「あぁくそっ、VIT極ってここまで固いのか……! そりゃみんなマナシールドで詰む訳だよ……! 削る手段がない!」


 先ほどからシヅキはめいでんちゃんの首筋に向かって血の剣を叩きつけ続けているが、生身であるはずの身体からは金属音が鳴り、衝突の度に火花が散る。

 少女のHPゲージには一切の変動がない。


「ど、どうしようもない……! アリーナモードって判定勝ちとかないの!?」


「そんなものないですっ、だから早く……リタイアしてください!」


「最悪! 最悪のルールハックだよ! 最早意図的な遅延行為でしょこれ! あーくそ、ならこうだ! 口開けろオラッ!」


 涙目になりながらも気丈に振る舞っているが、その実かなり最低な発言をするめいでんちゃん。シヅキは彼女を蹴り転がし仰向けにさせ、開いていた口に血の剣を全力で突っ込んだ。


「むぐぅ!?」


「〈血の刃〉! ……よし若干でも通った!! 〈血の刃〉〈血の刃〉〈血の刃〉────」


「もごごーっ!」



    ◇◇◇


「くそ……変態ビルドめ、酷い目に遭った……。あぁ、でもマナシールドもやがてはあれくらい固くなるのか……それはちょっと楽しみだな。よし、次だ次! もっとまともな相手来て!」


 シヅキはヤケクソ気味にマッチング申請をする。PvPを始めてからそれなりに時間が経過し、現実時間では夜に差し掛かる時間帯だろうか。ゲームをプレイしている人数が増えてきたのか、すぐにマッチングが成立し、ふたたび闘技場へ転移していった。



    ◇◇◇


 シヅキと相対するは灰髪の少女。ポニーテールを揺らし、こちらをねめつけている。


「……。まさか、アンタと当たるとはね。シヅキ」


「おぉっ、イルミネか~。良かった、すごくまともだ。本当に。ありがとうイルミネ、愛してるよ~」


「……は!? いきなり何!?」


──────────

Tips

『召喚スキル』

 一部の特殊なスキルに設定される特性のうちのひとつ。この特性を持つスキルは、個別のステータスを有するなんらかの物体を呼び出す性質をもつ。

 召喚された対象は、効果時間が過ぎるか召喚物自体がもつHPが尽きることで消滅する。スキルによって同時に召喚可能な数は異なり、また、同時召喚数や召喚対象自体を強化するスキルも存在している。

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