第四話:慢心
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狼の毛皮
素材アイテム(等級:Ⅰ)
灰色の毛皮。若干の対刃性をもつ。
所持数:16
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「うわぁ……見事に毛皮しか手に入ってないなぁ。まぁ犬肉……狼肉?渡されても困るけども。敵のバリエーションの乏しさはIDゆえかゲームの規模感ゆえか……できれば前者が理由であって欲しいけど」
軽く柔軟をし、ボスエリアらしき広場へと踏み込む。途端に背後で轟音。どうやら太い樹木が倒れ、折り重なり脱出を封じる壁となったようだ。周囲で連続して鳴り響く、樹木が倒れる音。なにかが木をなぎ倒しながら広場の周囲の森を駆け巡っているらしい。
「狼の親玉、『フォレストウルフアルファ』みたいなのだったら悲しいな~。徒労は嫌だからなんかいいの来い!」
シヅキの願いが通じたのか、ちらりと見えた森の中を駆け巡る影はずんぐりと丸く、到底狼には見えないものだった。
「ふむ。序盤の獣雑魚の定番というと……イノシシあたりかな?」
『ブギイイィィ!!!』
「あっ返答ありがとう。……それはそれとしてきみだいぶデカいな……?」
影が森の中から飛び出し、その姿を白日の下に晒す。巨大な牙の生えた、ワンボックスカーほどの大きさの猪、『ヒュージボア』だ。あきらかに興奮しており、眼前の小さな敵に飛び掛からんと土を蹴り締め、力を溜めている。
「猪って、なんか狼より弱そうじゃない? ま、油断して負けるのもバカらしい、しっかり戦ってさっさと倒しちゃいましょ」
爆発的な加速力で突撃してくる相手を、軽いサイドステップの後逆方向に跳ぶことで躱し、木に衝突し止まった猪の尻に血の刃を叩き込む。しかし、表示されているHPゲージにはほとんど変化がない。
「いや……本物の猪でももうちょっと理性的では? 速さとタフさの代償かな……。これ避けるより削る方がよっぽど面倒くさいな」
怒り狂い、突撃を繰り返すヒュージボア。シヅキは突撃直前のステップで敵の向かう方向を誘導し、回避の後隙を減らし臀部への攻撃時間を稼ぐ。
「〈血の刃〉だとHPが全然間に合わないな。これあんまり疲れないから楽なんだけど。自然回復待ちだと時間が掛かりすぎるし、仕方ない、直接斬り付けるか……」
繰り返される突撃、それを広場の端近くで回避することで相手を直接斬り付けられる距離に留まり、刃を滑らせ攻撃を行う。すると、振り返ったヒュージボアは牙を振り回し周囲を攻撃し始めた。
慌てて距離を取り、突進行動の誘発を試みる。すると狙い通り、敵は再び突進の予備動作を取り始めた。
「近距離なら牙、遠距離なら突進の単純なルーチンか~。きみさては狼よりだいぶアホだね? あるいはボスだからこそ行動がパターンっぽいのかな? ま、序盤のボスだし仕方ないか」
避ける、斬る、離れる。同じ行動を繰り返すこと、暫く。懸念していたHP減少によるパターン変化なども見られず、あと少しでHPを削り切れそうな頃合い。
繰り返される単純な反復作業に、シヅキは欠伸を噛み殺しながらも突進を躱そうとして────足に強い衝撃。
「がっ!? ぐ、づぅっ……!?」
激痛。姿勢が崩れ、受け身をとり損ねて地面に倒れ込む。見れば、右足に大きな切創。
背後からは土を蹴り締める、突進の予備動作音。敵のHPがほとんど残っていない状況で起きる、初めての行動変化。
「や、ばっ……!」
今までのパターンではありえない連続突進。両手を地面に突き、跳び込むようにしてかろうじて躱す。折れた足に激痛。そして、脇腹にも鋭い痛み。突進の動作が変わり、猪は狂ったように首を振り回しながら走るようになっていた。足と脇腹は、それによって振るわれた長い牙が当たり負傷したようだ。
視線の先、敵が即座に振り返り、予備動作を始めたのが見えた。三連続の突進。
「あークソ、悪辣……! づっ……あぁあ゙あ゙ァ!!!」
シヅキは上体を片手で支え、左手のみで連続して短剣を振るい、血の刃を飛ばす。顔に攻撃を受け、僅かに身じろぎする猪。しかし止まらない、突進が来る。
「この程度では……!
巨体が迫る。シヅキは脇腹を裂かれていて、上体には力が入らない。最早回避は不可能だろう。だからこそ、敵がこちらへ至るより前に、先んじてHPを削り切ろうと試みる。
血の刃を叩き込み続けるが、命の危機に加速する知覚の中、HPゲージ、たった少しの残量はまるで無限のよう。
「お前は……わたしの死じゃ、ない!!」
恐怖を堪え吠え立てるも、シヅキの身体を牙が突き抜け────
なんの痛痒もなく通り抜けて、光となって消え失せた。
…………間一髪、倒すことができたようだ。
「あ゙~…………。油断しすぎたか……いったいなー…………」
シヅキは短い草の生えた地面にごろりと寝転がり、回復薬を口へ運んだ。
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ボアミート
素材アイテム(等級:Ⅰ)
猪の肉。煮込み料理に最適。
所持数:12
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「苦労した甲斐はあった……かなぁ。うぅん、軽く食べる分には12個もあれば十分だとは思うけど……。今後も使うかもしれないし、もう何度か倒しておこうかな。よし……周回だ! もう油断しないからなー……」
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Tips
『アイテム種別』
UGRにおいて、アイテムは「装備」「消費」「素材」「クエスト」「特殊」の5つのカテゴリと、Ⅰ~Ⅴの5段階の等級(レアリティ)で区分されている。
等級の数字が高いほど珍しいアイテムであり、最高等級のⅤは一律でトレード不能に設定されている。
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