第三話:スキルと素材とインスタンスダンジョンと
「別れたはいいけど、わたしもまだチュートリアル完遂はしてないんだった」
シヅキは、しげしげと視界の端に浮かぶ文字列を眺める。[チュートリアル 8/8]スキルを習得しよう!の表記。
「スキルを取るには経験値が……あー、なるほど。チュートリアル7/8の報酬アイテムがそのままこれに繋がってるってことね。導線しっかりしてるじゃん」
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[初心]スキルチケット300
特殊アイテム(等級:Ⅲ)
効果:スキルを取得する際、EXPを支払う代わりに使用できる。
※取得に必要なEXPが300以下のものに限る
所持数:3
トレード不能
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「ふむ、なに取ろうかな」
スキル欄から取得可能スキル一覧を呼び出す。序盤らしい名称のものが並ぶ中、ひとつ明らかに浮いている名前を発見した。
「〈血の刃〉……ビジュアル性能がやたらと高そうな名前だぁ。なんだろ、こんなのが解禁されるような行動をした覚えは……あぁ、自刃か」
思い当たる節はそれしかない。この名前で初期から解禁されているスキルという事もないだろう。
「これ、前見た個人ブログのオススメスキル一覧には載ってなかったはずだな。割と簡単っていうか、死に戻り目的の自刃とかで普通に満たしそうな条件だし。誰も存在を知らないってことはないと思うんだけど」
条件や名称からしてHPが絡むスキルではないだろうか。多少の期待をもって、シヅキは詳細画面を開いた。
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〈血の刃〉
アクティブスキル(等級:Ⅱ)
CT:0秒 MP消費:0
HPを一定量消費し、血の刃を飛ばす。
ダメージ:武器攻撃力×150%
射程:10m
属性:武器の属性を反映
使用時HP消費:50
使用可能:短剣/片手剣/両手剣/斧
消費EXP:200Pt
解禁条件:一度に100Pt以上の自傷ダメージを受ける(148/100)
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「あ~…………? いや、普通に強いのでは? 威力こそぼちぼちだけど、 連打できて10mも飛ぶ遠隔攻撃って相当便利な気が……? うわHP消費重っ! あぁなるほど、そりゃあ一発で初期HPの1/4も食うなら使いづらいしオススメもされないよ。……よし取っちゃえ」
パネルを操作し、スキルを取得する。スキルチケットを使用しますかの確認にYESの回答。
「割合じゃなく定数消費な時点で、わたしのビルド方針ならそのうちノーコストに等しくなるだろうしね~。まぁHP以外のステータスが死んでる以上威力はゴミだけど。さー試し打ちだ、〈血の刃〉! あづっ!?」
短剣のなぞった軌跡がそのまま形になったような赤黒い刃が、まっすぐに飛んでいく。それと同時に、シヅキの身体に強い痛みが走った。
「……痛みがあるのは聞いてないなー。まぁ痛いのは一瞬だし、来るのが分かっているなら耐えられないほどじゃないけども……。CT0秒だから連打することもあるだろうし、いちいち発声するのも手間だな。動作ショートカットにも登録しとこ」
コンソールから、特定の動作を行うことでもスキルを発動できるよう設定を行う。短剣を握ったまま発動できるよう、「人差し指と親指を立てる」動作に。
「で、残りのチケット2枚は……〈HPブースト・Ⅰ〉と〈駆け足〉かな。無難~」
残るチケットを消費し、HPが10%上昇する〈HPブースト・Ⅰ〉と移動速度が20%上昇する〈駆け足〉を取得した。どちらもパッシブ、常時効果を発動するスキルだ。
「ソロなら足の速さを他人に合わせる必要もないし、移動速度ブーストは効率を考えるならほぼ必須だよね~。AGIブーストでもよかったっちゃよかったけど、効果が限定的な分こっちの方が倍率が良いし。ついでに残りの経験値全部HPに振っとこ。いくつになるかな?」
チュートリアルで入手した、残りの経験値600ポイント。すべてをHPへ割り振る。
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PN:シヅキ
──────────
HP:1150/1150(150)
MP:100/100
STR:5
DEX:10(5)
VIT:8(3)
INT:5
AGI:8(3)
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EXP:5/805
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右手:冒険者の短剣
左手:(冒険者の短剣)
頭:なし
胴体:冒険者の服
手:なし
足:なし
装飾1:初心の指輪
装飾2:なし
装飾3:なし
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武器攻撃力:19 (10+DEX*0.6+AGI*0.4)
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〈HPブースト・Ⅰ〉〈駆け足〉
〈血の刃〉
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「えーっと? 1回割り振るのに経験値10消費で、HPは1回割り振ると数値+10かな? わかりやすくていいね~。……なんかステータスがすぐにインフレしそうだな……? 敵との経験値差で獲得経験値が増減する仕様らしいけど、そこでがっつり補正が掛かるのかな?」
戦力差────強さの差によって獲得経験値が変動する仕様は、昨今のMMOでは比較的一般的なものだ。自身より強い敵に勝てば沢山の経験値が手に入り、弱い敵なら微小、あるいは全く経験値が貰えない。
雑魚を延々と狩り続けるのではなく、格上に挑み勝ち抜くことを推奨しているのだろう。
「とはいえ、これじゃ火力は全く出せなさそう。……あぁでも『HPを何割か消費して消費量に応じたダメージを与える』みたいな、ありがちなやつが多分このゲームにもあるか。早めに見つけないとな~。……もしなかったらウルトラ地雷ビルド爆誕だぁ」
その場合は、割り切ってソロ専業で細々とプレイする他ない。
◇◇◇
「さて、素材集め、素材集めか……。どうせ序盤のフィールドじゃスリルもなにもないだろうし、適当なID探して突撃するのがいいかな」
ID、『インスタンスダンジョン』とは、一時的に個人、あるいはグループごとに個別でエリアが生成されるダンジョンのことだ。突入後に他人と接触することがないため、ソロなら他者を気にせず気ままに探索することができる。
ただ、UGRにおいては、ID内部ではエネミーのリポップが起こらないらしい。素材集めをするなら同じIDを何度かクリアする必要があるだろう。
「ぱっと見渡すだけでもそれっぽい裂け目がいくつか見えるな。これ難易度とかはどうなんだろ、近づけば表示されるかな?」
小鬼と戯れる他のプレイヤーを遠目に眺めつつ、シヅキは手近な空間の裂け目に近づいてゆく。すると。不透明な水色で表現されていた表面が透け、森のような景色が見えるようになった。同時に表示されたインターフェースには、『"獣の森林" 脅威度:8 適正人数:1~4人』の文字。
「ふーん、これ脅威度の基準はなんなんだろ、経験値? ÷10か÷100した値とかかな。まー経験値基準はわたしにはなんの参考にもなんないけども。HP以外初期ステだし」
試しに近くにあった他の裂け目に近づくと、『"植物の草原" 脅威度:3 適正人数:1~4人』の表示。どうやら出現するエネミーの傾向は事前に判別ができるようだ。
「ふむ、これなら"獣の森林"かなぁ。肉欲しい肉。よし突撃!」
シヅキは先ほど確認したほうの裂け目へ飛びこむ。一瞬の暗転の後、薄暗い森林の只中へ移動した。
「おぉ、ちゃんと
どうやら木の密度によって順路が明示されているらしい。木のほとんど生えていない、自動車ですれ違えそうな程度の幅の道を進んでいく。
「これ順路外れたらなにかあるかな。まぁこんな森で迷いたくはないからやんないけど」
その後もぶらぶらと歩いていると、前触れなく、突然藪の中から大きな影が飛び掛かってきた。
「うぉう殺意満点! 狼か! じゃあ肉じゃないじゃん毛皮じゃん!」
シヅキはぎゃーぎゃーと騒ぎながらも、的確に短剣を叩き込んでいく。表示名『フォレストウルフ』も果敢に跳び掛かってくるが、ひらりひらりと躱し続け、すれ違いざまに刃を、距離が離れれば〈血の刃〉を打ち込み、程なく敵のHPゲージが砕け散った。
「ふぅん……、他のゲームより若干動きが良いかな? とはいえこれくらいはわたしの敵じゃあないし、使用時の痛みの感覚も大体掴めたし。次からは血の刃も節約しておこう」
HP回復薬を飲み干し、他に敵がいないか周辺を見回す。すると、風もないのに草木が微かに揺れる音が複数。
「あっ、キミたちホントに頭いいね!?」
タイミングをずらし、連続で飛び掛かってきたフォレストウルフ3体。屈み、伏せたまま横へ跳び、勢いを殺さずくるりと片手で側転し躱しきる。
「節約、したい、けど! 流石に3体相手は面倒かな! 〈血の刃〉づっ!」
最初に飛び掛かってきた相手の顔を狙って赤黒い刃を飛ばすと、既に体勢を整え、再び飛び掛かろうとしていた狼が悲鳴をあげて転げまわる。
「……! なるほどいいAIありがとう助かる! これなら楽だ〈血の刃〉! っもう一発!」
動作ショートカットによる発動を織り交ぜ、残りの2体の顔にも血液の刃を直撃させる。同じように転げまわるさまを確認しつつ、順番に駆け寄り狼たちの喉元に短剣を何度か突き込んだ。砕け散るHPゲージ。
「ふぅ……。いやぁ、よくよく考えればプレイヤーの内臓までシミュレートしてるゲームだし、血で目潰しされたらそりゃmobも嫌がるよね。大手MMOに準ずるくらいの凝りようだなぁ……」
入手した物の一覧を横目で確認しつつ、乱れた息を整える。今度は後続は来ていないようだ。
「うーん……。よし、これなら7,8体くらいまで同時に来てもなんとかなるかな。よーしダッシュだ!」
その後、時には単体で、時には複数同時に襲い来る狼たちをなぎ倒しながら突き進み。
結局シヅキは一つの傷も負うことなく、IDのボスがいると思わしき広場の前まで辿り着いた。
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Tips
『スキルシステム』
UGRのスキルシステムは、基本的なスキル群こそ人力のものだが、それ以外はAI制御によるオートアップデート方式を採用している。珍しい条件を満たしたり、なんらかの功績を成した際、バランスを考慮した"それらしい"スキルが新たに生成、取得可能スキルとして提示される可能性がある。
一度生成されたスキルはDBに登録され、同じ条件を達成したプレイヤーには例外なく提示される。そのため、所謂"固有スキル"のような概念は存在せず、たとえゲーム内においてただ一人しか持っていないような珍しいスキルでも、時間が経ち、新たに条件を満たした者が第二、第三の所有者となって現れることもある。
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