第31話 いつかの日常



「馬車が複数、たぶん商売のためにきた商人たちだ。護衛か、上手く見つけたのか」


「なら、早く助けないとですね。お兄様、そのまま!」


 抱きかかえられたまま、器用に魔力を練り上げるフェリシア。

 なじみのある感覚に、どの魔法を使うかを感じ取った。


「ぶつけるなら後方にだ。後ろに魔法使いか弓使いがいることが多い」


「わかりましたっ! 降り注げっ!」


 アレクシア兵と戦っている魔物は、二本足で立っている。

 毛むくじゃらで、コボルトよりは大柄な狼の顔。

 粗末ながら武具を身に着けた、油断できない相手だ。


 獣人とは違う、戦うしかない相手、ウェアウルフ。

 その集団に、フェリシアから炎の矢が無数に放たれる。


 兵士たちにあたらないようにという狙いも込められたそれは十分なけん制となったはずだ。


「ここは引き受ける!」


「冒険者か!って若!?」


 俺の顔を見て、すぐにそうと分かったらしい声。

 しかし、今はそれどころではない。

 返事の代わりにフェリシアを降ろし、宝剣を構えて気迫の声をあげた。


「お任せしますっ!」


「応ともっ!」


 実家で訓練をしていた時と同じ。

 すぐに陣形を変えていく兵士たちをちらりと見つつ、魔物たちに向き合う。


「これだけの数、どこから……」


「さあてな。だが、強さを感じるぐらいの実力はあるみたいだな」


 乱入者である俺たちに、勢いで襲い掛かってこないウェアウルフとその取り巻きたち。

 四つ足のオオカミや、街道沿いの森からはコボルトも出てきた。


 ただし、こちらとは距離をとってじりじりといったところ。


「後方に何かいるのか? あるいは……まあいい。後ろは任せた!」


「はいっ!」


 視界に、ボルクスたちが馬車で突入してくるのを感じつつ、俺はウェアウルフたちへと突っ込む。

 走りながら、剣に切れ味強化の魔法をかけ、足を止めていた一体に剣をふるう。


「まず1つ!」


 キンっと甲高い音を立て、粗末な相手の武器ごと両断。

 まだいる敵に向けて蹴り飛ばせば、明らかに動揺した雰囲気。


 こいつらは、あまり人を襲いなれていないようだった。

 普段は森の中にいるであろう相手が、なぜここまで出てきたのか。


(最近のあれこれを考えると、偶然ではないのだろうな)


 さらに踏み込み、次の相手に。

 その間もフェリシアによる魔法攻撃が周囲を散発的に飛び交う。

 相手は炎と音に、混乱し始めているようだ。


「この調子ならどこかに……いたっ!」


 集団の後方、隠れた場所に一回り大きな個体。

 この集団の、頭目だ。


 牙も大きく、毛皮もどこか風格を感じる。


 こちらを見る目にも、十分な殺気だ。


「フェリシア! 周りに浄化の結界を!」


「ちょっとしか効きませんよ!? ひるませるだけですからねっ!」


 相手は不死者でもなく、瘴気に侵された魔物でもない。

 だからこそ、浄化の力による結界は、なんだか嫌だなあという感じでしかないだろう。

 今は、それで十分だ。


「おおおおおおっ!!」


 不可視の力が広がることで、結界となったのを感じ、駆け出す。

 頭目以外のウェアウルフやコボルト、オオカミたちが動けない中を一気に接近。


 こちらに向かって吼える頭目にこちらも咆哮で返し、宝剣を上段から一気に振り下ろす。


「受け止めるかっ! だが!」


 意外と力強い抵抗に、一瞬驚くも、それだけだ。

 相手の力任せな反撃に、技術で回避し今度は防がれることなく一撃を叩き込む。


「お前らの頭目は倒したぞ! 逃げるなら逃げろ!」


 言葉は通じずとも、雰囲気が伝わるはず。

 力尽きた頭目の亡骸を左手で支えながら、周囲に叫ぶ。

 効果はてきめん。


 すぐにウェアウルフたちは悲しそうな声を上げて、撤退していった。


 後に残されたのは倒された魔物と、息の上がった人間たち。


「若、助かりました」


「大けがはないか。商人の護衛か?」


 改めて兵士たちを見渡すと、やはり見覚えのある顔ばかり。

 そのうちの1人に事情を聞くことにした。


「ええ、結果的に。最近街道沿いに不審な影がと聞いて、各隊で見回っているところで。戦力を分散していましたからね、結構ギリギリでしたよ」


 ボルクスたちと合流し、商人たちの様子も確認。

 報告を受けながらという形で、一緒に集落へと向かうのだった。


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