第30話 里帰りは朗報を土産に
かつて、この大陸であったという人と魔、そして神々の介入した争い。
その爪痕は、今も数多く各地に存在している。
人類の住処や砦が遺跡と化した場所。
地の底まで続いていそうな、深い深い谷。
巨人が積み上げたと言わんばかりの、高い高い山。
かつての戦闘痕だという丸い湖なんてのは観光名所にもなっていたりする。
そんな中の1つに、今回解決……したであろう魔の森もある。
「出てくる魔物は、基本的に素材として活用できるような相手ばかりだったはずなんだがな」
「今回の森は、変な相手でしたね。何が違うんでしょう」
森と集落のことはベリエ子爵に丸投げし、そのまま王都へも手紙を託してある。
こう言ってはなんだが、中には元陛下の署名付きとなれば、よっぽど届くだろう。
気になるのは、隣領であるゴルドア子爵からの横やりが今のところないことだ。
(下手につつくと、わかっていて放置していたのかと言われるから……とかだろうか)
幸いというべきか、この国は他と比べて豊かな土地が多い。
だからこそ、無理にあれこれしなくても問題なく発展できるのだ。
俺の実家のような、へき地や未開拓地が近い場所を除き、だ。
「そこで戦った……伝承が正しいなら、英雄たちの誰がといったことが違うんだろうな」
「記録はあいまいじゃからのう……しかし、へき地で冒険する者たちなら、案外詳しいのではないか?」
「それはありますね。若、ご実家に戻ったらご兄弟を呼んでみては? 噂話を仕入れてるかと」
それはいい案だ。
少しばかり弟たちがうらやましいと思う瞬間である。
立場を考えずに、戦い、探索し、酒場で酒盛りをする。
「各地への旅は、似たようなもんじゃよ。ほっほ」
「だといいがな。さて、この山を越えればウチの領土だ」
懐かしいと思ってしまう光景に目を細めつつ、油断なく進む。
人生、何事もあと少しが折り返し、と教わったからな。
さすがに野盗の類はこの辺にはほぼいないとは思うが……うむ。
「先ぶれは……いらんか。表向きにも元陛下とお孫さんを迎えるというのなら別だが」
「私、お兄様にご迷惑をおかけするつもりはありませんよ」
何も問題ないと頷くフェリシア。
アルフ爺さんは、孫にお任せという状態だ。
「わかった。なに、両親は喜んでくれるさ。娘が欲しかったといつも言って……そういう意味ではないぞ?」
「ふふっ、わかってますよ。大丈夫です」
何が大丈夫なのか、気になるところだがつっこむのも危ない気がする。
笑うフェリシアを見ていられず、前を向く。
今日も、馬車の速度はなかなかのものだ。
なんだかんだと、旅を続けられることを、馬に感謝する。
家に戻ったら、十分ねぎらってやらねば。
「この馬も実家で鍛えたのだろう? なかなか国中探してもここまでの馬はおるまい。そういえば、かつての英雄たちが乗る馬も、ただの馬ではないのがおったそうじゃよ」
「ほほう? ああ、いたな。確か天馬などがいたような話があった」
伝承によれば、空を駆け、翼持つ邪神と英雄が空中戦をしたとか。
捕らわれた仲間を空から救出したとか。
心湧きたつ話ではあるけれど、怖さもある。
天馬から落ちたら、一巻の終わりだからだ。
攻撃魔法は使えないが、それ以外のいざというときのための魔法は……覚えておくべきか?
「若、変な顔してますぜ。まるで御母堂と魔法の特訓をした後のような」
「そう……か」
案外、母なら知っているし使えるかもなと考えたのが良くなかったらしい。
気を取り直しつつ、行きも通った山道を眺める。
谷間にあるこの街道なら、思ったより早く向こう側に抜けるはずだ。
「っと、念のために武器を。戦いの気配がする。アルフ爺さんは馬車を頼む」
「んむ? 特には……ああいや、これか。確かに」
街道の先、少し上りになっている個所の向こうで、気配。
近づくと、人の叫び声のようなものも聞こえる。
「ボルクス、あとから続け。フェリシア」
「行けます。いつでも」
彼女を抱えて飛び降り、地面に降ろしてすぐに駆け出す。
馬を急がせても、邪魔になることもあるので生身が一番だ。
そうして駆け出した先にいたのは……魔物と戦う、アレクシアの兵士たちだった。
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