第27話 誘い出し



「まさかご自身で来られるとは……」


「なあに、こういう時に腰が軽くなければな。息子たちに経験を積ませるいい機会だ」


 幸いにも追加の事件は発生せず、ボルクスは無事にベリエ子爵へと連絡に成功。

 関係者を引き連れて戻って来た、来たのだが。


 狩りに遠乗りでもしにきたように、護衛を引き連れつつもやってきたのはベリエ子爵当人。

 こちらとしては確かに、話が早くて助かるのだが。


 前陛下、アルフ爺さんに気が付くも、頭を下げるのみ。

 こういうところの読み具合は、さすがといったところか。


「下手に刺激してもと思っていてね。長らくこのあたりは触れずにいたが、なるほど。ゴルドア子爵もうまいやり方をする」


「悪い顔をしてるように見えますよ、ええ」


 きれいごとだけでは世の中は回らない。

 けれど、きれいごとがなければ世の中は暗いままだ。


「ふふ、多少はな。前陛下のお気持ちも考えると……安全な領土が増えるのが望ましく、危険性がはっきりすのも大事。となると、とれる選択肢は多くはない」


「寝た子を起こすかは悩ましいところなのですがね。フェリシア、どうか」


「今のところは静か……いえ、うかがってるという感じですね、お兄様」


 フェリシアがお兄様と俺を呼んだあたりで、ベリエ子爵が反応したような気がしたが、気のせいだろう、たぶん。

 すぐに指折り、何か考えだしている。


「視察に訪ねた際に、問題を発見し、迎撃陣地を構築した。そうするのが手っ取り早いと思うが、目撃者がおらんからなあ。お嬢さん方では別の問題になるだろうし、さて」


 現在のところ、静かなのが悩ましいところ。

 どうにかして、魔物たちを引っ張り出せればいいのだが。


(待てよ? どこかで似たような話を聞いた気がする……どこだ?)


 最近の噂とかではない。

 ずいぶん慣れ親しんだというか、演劇のような何か。


「そうか、英雄の1人。遠見の戦士、フォーミアスの逸話だ」


「悪神との戦いの折、派手に引き付けてお互いに戦場を知らしめた方じゃな」


「でもどうやって……あっ!」


 目を見開くフェリシアに、頷く。

 目立つも目立つ、そのためにあるような行為。


 俺の宝剣を、彼女と一緒にまばゆく輝かせるのだ。

 そもそも、宝剣(実際には槍や弓、防具なんかも含む)が光るのは、敵味方の区別というのもあったらしいからな。


「ベリエ子爵、見届けをお願いしたく」


「もちろん。ただ、大丈夫かね? 魔の者がどれだけの強さか……」


「油断するつもりはありません。とはいえ、そこまでの相手ならとっくに出てきてるとは思うのですよね」


 人はこれを楽観、油断と呼ぶのだとは思う。

 それはそれとして、この自分の感覚も正しいとも思うのだ。


 集落部分はベリエ子爵と護衛に任せ、俺たちは一度集落部分より離れた場所に陣取る。

 何も言わずに準備してついてきてくれるボルクスに感謝である。


 そのことを口にしてみると……。


「なあに、若の無茶振りには慣れてまさあ。その方が上手くいくことがほとんどですしね」


 とのこと。それではまるで俺がいわゆる脳筋のようではないか。

 アルフ爺さんや、フェリシアまで納得した表情なのがなんともである。


 少々納得いかない気持ちは抱えつつ、外へ。

 見通しも良く、森が良く見える場所だ。


「さて、始めるか。倣うは戦士フォーミアスの逸話が1つ。光はここにあり!」


 宝剣を抜き放ち、仰々しく前に構える。

 攻撃魔法には使えない自身の魔力を意識し、宝剣につなぐ。

 淡く光りだす宝剣。


 それだけでは、足りない。


「フェリシア、頼む」


「はい! 祈り、果たされた盟約。その誓いを高らかに唱えよ!」


 いつぞやとは違う文言。

 前は、目覚めよといったものだった。

 しかし、すでに目覚め、今ここにあるそれ。


 何度目かの高揚感とあふれる光を感じながら、宝剣を高々と掲げ、光らせる。

 その光は距離があるはずの森、その木々を照らし上げ……。


「来おったぞ!」


「鳥ですかい!? いや、あれは!」


 森がざわめき、中央付近から黒い塊がいくつも飛び出してきた。

 まるで、まぶしい陽光を遮りたいと言わんばかり。


「狙い通り、我慢できずに出てきたか!」


 塊は草原にびちゃりと落ちてきたかと思うと、寄り添い1つになっていく。

 徐々に形作られたそれは、いつしか一体の魔物と化した。


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