第23話 寄り道はフラグ



「旅ともなれば、こういう予想はしていないわけではないのだが……」


「何をごちゃごちゃと、わばっ!?」


 帝国から故郷への旅路。

 行きとは違うルートを通ることで、少しでも情報収集を。


 結果的には、それは良くも悪くもといったところだ。

 帝国から離れ、川から遠いとある土地を通過する際に、野盗どもに襲撃された。


 もっとも、嫌な気配を感じた俺たちは最初の攻撃の前に、臨戦態勢に入っていたのだが。


「お、親分!?」


「で? 次に死にたい奴は?」


 こちらが4人、しかも1人は爺さんというのを見て、油断したらしい。

 何やら言いながら、周囲を取り囲んできた野盗。

 俺はその中で、頭目ぶった言動の相手に躊躇なく斬撃を飛ばした。


 何をしたかはわからなくても、その相手があっさりと死んだことはわかったのだろう。

 斬撃を飛ばした姿勢でそのまま周囲を見渡せば、蜘蛛の子を散らすように逃げていく男たち。

 野盗程度だと、こんなものだろうか?


「見事。一撃だったのう」


「このぐらいはな。魔物となれば、問答はしていられない。フェリシア、大丈夫か」


「頑張り……ます」


 色々と覚悟も決まってそうな彼女だが、だからといって平気というわけでもないのだろう。

 命尽きた光景に、顔色が悪い。


 個人的には、そのほうがいいと思う。

 王族だからと、荒事に慣れ親しんでいるというのも少々、な。


 あとはボルクスが上手く追うことができるか、だ。


「彼は怪我を?」


「昔、な。短期間は問題ないが、行軍ぐらいになると厳しい。とはいえ、ベテランもベテランだ。師匠の1人さ」


 言いながら、切り捨てた男の装備などを確認する。

 思ったよりも、整っている。


(定期的に集落にでも戻ってるのか?)


 少なくとも洞窟だとか、そんな適当なアジトではなさそうだった。

 どこかの寒村が丸ごと実は、とかその辺がありがちだ。


(最近は、不作の話は聞かないが……うーむ?)


 あまり他領の話を探ると、いらぬ誤解を招くことにもつながる。

 そう考えると、俺が知らないだけで問題が起きていたのかもしれない。


「ボルクスさんが戻ってきましたね」


 切り捨てた男に土をかぶせ、後始末をしていると、追跡に出ていたボルクスが戻ってくる。

 半日ぐらいを覚悟していたが、思ったより早い。


「どうだった? 村か?」


「おそらく。ただ……どうも同じ方向に結局逃げてたんで、ひとまず戻ってきた次第で」


「同じ方向に? それは妙じゃのう。逃げるときはあんなに方々に逃げたのに……」


 アルフ爺さんの言うように、頭目らしき男が死んでからは、まさに散り散りだった。

 思った以上にまとまりがあるのか、そこにしかすがるものがないのか。


「どうしますか、お兄様」


「そうだな……自分の領地ではないのだから、本来の領主に任せるのも1つだが……」


 すべてに手が届くわけではないが、届く範囲ぐらいは手を出したい。

 そんな単純な欲は自分にもあるのだ。


 それに、なんだかんだと、王族の前で不義理のようなことをするのもな。


「爺さん、フェリシア、俺の家に行くのが遅くなるが、かまわないか?」


「もちろん。旅は寄り道も大事じゃよ」


「私は……はい。お兄様のお心のままに」


 うっかり陛下とか言いそうになるのを我慢し、2人が望むようにただの祖父と孫娘として扱う。

 それで正解のようで、2人は怒ることなく返事をしてきた。


 普段、王城にいてはできないいい勉強になる……のか?


「では確認と討伐に向かおう。ボルクス、このあたりの話は聞いたことがあったか? 俺は微妙だ」


「自分も似たようなもので……あっ、1つだけ。各地に昔、魔があふれた森があるとか。周囲には大体は不法者が住み着いてるという噂をどこかで聞いたことがありやすぜ」


「ワシも統治時代、経験があるぞ。確かこの地域にもあったはずじゃ」


 最初、この旅のことを考えた時に、ご意見番の老人がいることがとか考えたのは間違ってなかったようだ。

 よく考えるまでもなく、アルフ爺さんは前陛下なのだから、そういう話は当然、知っている。


「なるほどな。よし、その想定で進むぞ」


 馬車に乗り込み、街道から逸れて進む。

 火が落ちるころには、遠くに大きな森や山が見えてきた。


 故郷のそういう場所に一見似ているが、雰囲気がどうも違う。


「どうにも見てるとムズムズするな。フェリシア、もしかしてこれは……」


「はい。おそらくですけど、ドラゴンボーンに感じたのと同じかと。森にまだ、何かがいるんだと思いますよ。あっ、煙が!」


 彼女が指さす先には、木々に隠れるように建物がいくつもあった。

 そんな場所から、黒煙があがりはじめていた。


「何があったにせよ、話はできそうだなっ!」


 馬に鞭を入れ、急いでその場所へと向かうのだった。


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