第24話 襲われる村と魔物たち



「ヴィル殿、ある程度ならばワシもいけるぞ」


 言いながら、馬車の中でいつの間にか持ち出した剣を鞘事見せる爺さん。

 退位はした、したが一切戦えなくなったとは言っていないってやつか。


「わかった。ボルクス、爺さんと一緒に周囲の対応を頼む!」


「了解でさあ! 若、御武運を!」


 当然のようについてくるフェリシアを引き連れて、騒がしい村へと突入。

 ボルクスとアルフ爺さんには、村の入り口付近で戦ってもらう。


 村の奥、森から出てくる異形、豚鼻の人型……オークだ。

 まるで泥から出てきたように、全身汚れている。


「村の連中は……いたっ!」


「あの建物に何かあるんでしょうか?」


 逃げ惑う人もいるが、武装した人々が、同じ方向に走っていくのを見つけた。

 すでに森から出てきたオークと、戦っているのが見える。


 フェリシアの言うように、何か建物を守るような……そんな動きだ。


(気になるが、逃げる様子はないな)


「まずは魔物の対処を行う。ある程度片付けたら何かわかるだろう」


「確かに……嫌な感じも、遠くから動いていません」


 彼女が感じるということは、魔力的な何か、が可能性としては濃厚だ。

 また瘴気の泉が出てきていないといいのだがと、思わず考えても仕方がないと思う。


「ではまずは、ふんっ!」


 一番近いオークに駆け寄り、大振りに剣をふるい、切り裂く。

 響き渡る声を上げ、そのオークが倒れ、注目が集まる。


 オークという種は、意外と仲間思いだ。

 そのうえ情報共有、共感に優れている。


 言い換えると、楽な獲物にはみんなで群がるし、嫌なことがあればそれはそれで集団で対処しようとする。


「お、お兄様? いっぱい来ますけど」


「誘ったからな。建物の連中より、こっちを放っておくとマズいぞと」


 物陰から、木々の向こうから、そして集まっていた建物の方向から。

 俺を2倍3倍にしたような体格が、小走りで集まってくる。


「フェリシア、撃つのは俺が攻撃した相手だけだ。でないと、そっちを狙うからな」


「はいっ!」


 屈強な戦士とか弱そうな女性。

 オークが狙うのは……この場合、俺のほうだ。

 奴らも、それからでないと安心していられないとわかっているのだ。


 迫るオークに斬撃を飛ばし、手足を切り裂く。

 時に踏み込み首を飛ばし、腹を横に薙ぎ払って強制的に痩せさせる。

 一気に周囲が、血なまぐさくなるのを感じる。


「浄化っ……うん、成功っ。燃え尽きてっ!」


 俺が助言するまでもなく、彼女は自身に浄化の魔法による結界を施した。

 結果として、悪臭やその類も遮断する結界に覆われたのだ。

 すぐさま、動けなくなったオークに炎の魔法が襲い掛かる。


「食えないのが残念だ。豚鼻なのになあ」


「人型は食べろと言われてもさすがに……」


 不思議と、フェリシアの魔法が直撃したオークはどんどんと炭のように黒くなり、崩れていく。

 獣のように形が残るかと思ったが、全く違う光景には驚きだ。


 ますます、普通に生きている獣たちとは異なるのだと感じさせた。


「まだ来ますね。あ、でも……森以外は減りましたか?」


「ああ、そのようだ。2人も来たぞ」


 見れば、入り口のほうからボルクスと爺さんがやってくるのが見えた。

 恐らくは、あちらに向かうオークがいなくなったからだろう。


 俺は、外に人がいる例の建物を指さし、徐々に移動していく。

 近づくほど、こちらの戦いを注視しているのを感じることができた。


 今のうちにと逃げ出すかと思ったが、意外である。


「あっ? 嫌な感じが小さくなっていきます」


「俺も感じる。これは……なんだろうな」


 何かが原因で、一時的に起きかけたとかそんな感じなのだろうか?

 まばらになったオークたちの襲撃。

 ついには、たった1匹が吠えながら迫り……フェリシアの魔法に焼かれた。


「さてと……フェリシア、あれを頼む」


「任されました!」


 あれというのは、宝剣をより光らせるやつである。

 こちらに建物の中や周辺の視線が集まってるのを利用する。


 わざとらしく宝剣を構え、背中越しにフェリシアの声を聞く。

 詠唱に従い、何かがつながるのを感じ……手の中に重さを感じた。


 まばゆく、美しく光る宝剣。


「おとなしく話を聞かせろ。でなければ、わかるな?」


 この国で、光る剣が何を意味するかを知らない人間はほぼいない。

 俺が次の言葉を告げる前に、武器を捨てる男たち。


 誰が代表かと探し始めて、そういえば頭目は俺が倒したんだったと気が付いたのだった。



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