第22話 旅の狙い



 城を出、馬車に乗り込んで向かう先は帝都内のよくある宿屋。

 貴族の関係者も利用する、高い方の部類だ。


「さて、まずは先日の遺跡の話を改めて聞きたい」


「そうじゃろうな。かつての英雄たちが使った修練場であり、伝言板でもある」


 文献で伝わるのみだが、とアルフ爺さんが続ける。

 確かに、遺跡というには……整いすぎていた。

 素直すぎるともいう。


「ああいった場所が大陸の各所にあるそうです。見つけられれば、ですけれど」


「いくつか確保できりゃあ、暮らすには困りませんな」


「それだけ、昔は触媒を多用する脅威が多かったということなのだろうな」


 4人のいる部屋は、広いが窓は小さいものがいくつもという造り。

 内緒話をする客も多いのか、調度品もしっかりしたもので、盗み聞きも難しそうだ。


(値段的には、あまり何日も泊まるような宿ではない、な)


 普段ぜいたくはしない主義なので、どうもこのあたりの値段も気にしてしまう自分がいた。

 使うべき時はがつんと使うのだが、なかなか難しいものだ。


「私のように力を持った人間が、あの宝珠から異常を読み取ることで、その対処に各地を回っていたと聞いています」


「なるほどな……よし、ではまずどこに向かえばいい?」


 名前は……大丈夫だろう。

 実際、フェリシアやアルフという名前は結構いる。

 城で見たような服装でなければ、早々バレないと思う。


 俺自身も、別に堂々と名乗らなければ領主本人以外は知る人はいない。


 あとは爺さんたち2人の言動的には、傭兵まがいの仕事をしながら旅する2人と従者、ご意見番の祖父といったところか。

 傭兵団のような集まりには、1人か2人はそういう年寄りがいるとか聞くしな。


「はい。まずはお兄様のご実家に」


「ウチに? ウチが疑われ……いや、そうじゃない。未開拓地か」


「若、そいつは厄介な話ですぜ」


 ボルクスの声が険しくなるのも無理はない。

 親父の若い頃から、苦労して開拓しつづけた土地。

 それでもなお、まだまだ未開拓の土地が周囲に広がっているのだ。


 しかし、これは実はおかしな話なのだ。

 かつての人類は、今の帝都より広い地域を版図としていたらしいのだから。

 それは、この国が興る前、神から英雄たちが力を借りる前の話だ。


「未知の遺跡か、強力な異形が待つのか。2人の前でいうのはアレだが、まだ人間同士の問題のほうがやりやすい気はするな」


「ワシもそう思う。だがのう、誰かがやらねばという問題じゃ」


 頷き、さっそく明日から報告がてら里帰りといこう。

 フェリシアを引き連れてだと、何やら誤解されそうな予感だが、うむ。


 そうなると、問題と言えないような問題が1つ。


「今後、宿をとる場合の部屋は今日のように1つでいいのか? アルフ爺さんとフェリシアで1組も可能だが」


「なんじゃ、ワシと彼、ボルクスでも構わんぞ」


「っ!? お爺様!」


 他人である男と同じより、家族とのほうがと思ったが、爺さんの考えは違うようだった。

 考えてみれば、ある意味納得である。

 この国では、女系の継承は行われないと決まっているのだ。


 つまり、フェリシアがどこに嫁ごうと、表向きの権限はないということだ。

 よくよく考えると、男系が暗殺なり事故なりでよくも途絶えなかったものだ。


「そいつは自分も賛成ですね。とはいえ、防犯の面では一緒の方がいい。そうでしょう、若」


「ああ、その通りだ。地方に行けば、宿もまともにあるとも限らない。水浴びや湯あみの時には配慮する。遠慮なく言ってくれ」


「うっ、そう……ですよね。わかりました」


 ほかにも細かい問題はあるとは思うが、一番の問題はこれで片付いた。

 そして、これから長い旅をするとなればすることは1つ!


「よし、では酒場に行こう。爺さん、明日は遅く出るぞ」


「望むところじゃ。いい店を知っとる。昔からお忍びで通ってる場所じゃよ」


「そいつは楽しみだ。ほら、嬢ちゃんも」


「私もですか? は、はい!」


 前陛下の葬儀(実際には引退が正しいのだが)の件は帝都、国全体へと知らされた。

 結果、国中が静かに……ということはなく、悲しみを吹き飛ばすように騒がしくなるだろう。

 何せ、陛下直々に添えているのだ。


 敗北で死んだのではない、笑って送り出してほしい、と。


 どこか不思議な熱が、徐々に地方へと広がっていくのを感じる夜だった。

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