第21話 ここでネタバラシ


「諸国を……何か反乱の兆しでも?」


「そうではない。もしそれも見つかれば報告は欲しいが……フェリシア」


「はい。お父様」


 しがない騎士上がりの男爵家、アレクシア。

 表向きには、そんな跡取りにできることは限られている。


 この状況で諸国をとなれば、視察とも言えないような情報収集ぐらいだろう。

 となると、嫌な話だが反乱や独立の噂でも出てるのかと思ったが、違うようだ。


 隣に座るフェリシアが、両手を俺に向けるようにして目を閉じた。

 すぐに感じる魔力の高まり。

 柔らかな光が、広がる。


「何も言わず、受け入れてください」


「無茶を言う……むっ?」


 光が俺に触れたとたん、何かの映像が浮かんでくる。

 無数の出来事、白黒の景色。

 時に叫び、時に泣く……そんな色々な光景。


 共通しているのは、光の剣。

 魔物に、悪意に、光の剣を携えた男が立ち向かっている。

 そして、そのそばには娘。


「ヴィルよ。この国の始まりが、英雄たちというのは知っておろう。心臓を神にささげ、光剣を操る力を得た男と、目をささげ、万象の力を扱う女、その二人がこの国の始まりと言われている」


「子供心に、おとぎ話の類と思っておりましたが……真実ということですね」


 前陛下……アルフ様の真剣なまなざしに、こちらもまじめに返す。

 状況的に、王家の血脈には両方の力が受け継がれている、と。

 そしてフェリシアはその力の一端として、予知のようなものが出来たということか。


「娘、フェリシアの上には数人いるが、皆フェリシアのように鮮明ではないが似たようなことを言っている」


「そういうことであれば……旅ともなれば、野宿も当たり前のようにありますが、よろしいでしょうか?」


 すでに済ませていることであるが、敢えて口にしていく。

 言質を取るためというより、親として子供を手放すようなことになるがいいか?と問うのだ。


「かまわん。むしろ、娘の望みでもある」


「フェリシア……様?」


「呼び捨てでかまいませんよ、お兄様。どうせ旅路では身分は隠すのですから」


 微笑み、そんなことを行ってくる彼女の姿は、王族だということを十分感じさせる。

 真横でそんな姿を見せられては、こちらも応えねばなるまい。


「ワシにもかしこまらず、爺さんと呼んで構わんぞ」


「努力いたしますが、この場ではご勘弁を……」


 いくら当人がいいと言っても、さすがにな。

 現に、ボルクスはいつもの態度は吹き飛び、借りてきた猫のようにおとなしい。

 当然と言えば当然である。


(俺だって、同じ立場だったらそうなるさ……うむ)


「さて、ヴィル。臣下としてだけでなく、この国の戦士として、悪意を切り裂く光の刃となってほしい。頼めるな?」


「はっ!」


 俺の返事に、陛下も前陛下も満足そうにうなずいた。

 そして、陛下の前にずっとあった木箱を手に取り、封を解いた。


 中から出てきたのは、腕輪?


「これを貸し与える。かつての英雄、開祖が装備していたと伝えられる逸品だ」


「ありがたく。必ず、お返しします」


 フェリシアが片手をふるうと、ふわりと木箱が浮き、俺の前まで滑ってくる。

 こんな魔法の使い方もあるとは、奥が深いものだ。


 視線に促され、右腕に装着する。

 少し緩いかと思ったとたん、きゅっと勝手に腕輪が縮んだ。


「お兄様。それを身に着けて大丈夫ということは、そういうことです。最初の英雄は英雄だったのではなく、英雄に成ったのです」


「なるほどな。自分を下げるなということか」


 意味するところを感じると、心の奥底からふつふつと湧き立つ何かを感じる。

 腕輪を身に着けると、その込められた重みを感じた気がした。


「具体的な行き先などは相談して決めるように。では、下がってよい」


「はっ!」


 頭を下げ、席を立つ俺。

 ボルクスも遅れず動けたあたり、かなりすごいことだ。


 緊張で動けないとか言っても、誰も責めないだろう空間だったからな。


 問題は……。


「フェリシア、さすがにそのままついてくるのは問題だと思うが」


「あ、そうですね。準備もありますし……お爺様は上着を脱げばわかりませんよね」


「そうじゃのう、ただの爺じゃ」


 表から出るのは目立つということで、アルフ様、いや……アルフ爺さんの案内を受け、進む。


「若、自分はついていっていいんですかねえ?」


「ボルクス以外には頼みたくないさ。よろしく頼む」


 今更ながらに事態がしみ込んできたのか、あたふたした様子のボルクス。

 その気持ちもわかるぞと思いつつ、逃がさないように声掛けだ。


 そうしてしばらくして、4人の不思議な旅路が始まるのだった。




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