第20話 旅は道連れ


 新たな皇帝陛下、ジェラルド様からの呼びかけ。

 それは、給仕からバッジを受け取った者は前に出よというもの。


 俺を含め、両手で足りるほどの人数だ。

 多いのか少ないのかはわからないが、傾向はわかる。


 皆が皆、戦える強さを感じるのだ。


「宝剣を抜き、全力で光らせよ!」


「「「はっ!!」」」


 さすがというべきか、俺以外の面々も素早く剣を抜き放ち、構えた。

 そして、発光の手順をとる。


 俺はその時、むず痒いような何かを感じた。

 視線の先にあるのは、前陛下の鎧。

 その中身のないはずの兜から、視線を感じた気がした。


──見せてみよ、と


 ざわめきが、響く。

 俺自身、驚く光景が広がっていく。


 10人もいない人間たちの手の中で光る宝剣。

 そんな光の中、俺の握る宝剣は一際まぶしかった。

 フェリシアの力を得ているときのような、確かな輝き。


(フェリシアの力、と今考えたか?)


「見事。納めてよい。皆、良い輝きだった。一番は言うまでもないとは思うが……名は?」


 片膝をつき、かしこまる。

 そして告げた家名に、陛下は深々と頷いた。


「報告は聞いている。鉱山に現れたドラゴンボーンを討ち果たしたそうだな。見事。後で話を聞きたい。下がっていいぞ」


「はっ!」


 視線を感じつつ、他と同じように元の場所に戻る。

 どうも落ち着かないが、そういうものだろうか。


 その後は陛下からのお言葉をいただき、解散となった。

 誰かが呼びに来るだろうと思いつつ、ボルクスらの待機しているホールへと移動。


 てっきり、色々と話しかけられるかと思ったが、それよりも前に迎えが来ていた。


「アレクシア様、こちらへ」


「了解した。従者は一緒でも?」


「ご一緒で大丈夫です」


 儀礼用と思わしき装備を身に着けた兵士に案内され、ホールを出た。


 向かう先は、普段なら訪れることのないだろう場所だろう。

 立派な庭を見渡せる通路を歩き、到着したのは1つの部屋。


「中でお待ちです。私はここで失礼いたします」


「了解した。感謝する」


 そのまま立ち去る兵士を見つつ、扉に向き直る。

 豪華、というわけではないが……。


「若、どうなってるんですかね?」


「さあな。だが、入らないわけにはいくまい」


 覚悟を決め、扉を軽くたたく。

 中から、すぐに返事。


(聞き覚えがあるような……)


 その感覚をもっと信じておくべきだったと思う。

 ゆっくりと開いた扉の先にいたのは……フェリシアだった。

 さらにその奥にはテーブルと、座っている男性2人。


 テーブルには、いくつもの木箱が封をされたまま置かれている。


「お待ちしておりました、お兄様。どうぞ中へ」


「あ、ああ……」


 驚きに声の出ないボルクスを連れ立って、部屋の中にいたフェリシアのもとへ。


 彼女の姿は、様変わりしていた。

 立派なドレスに、見事な装飾品。

 普段興味のない俺でも整えられたとわかる髪や顔。


 そして……。


「来たか」


「驚いとるのう……」


 座っていた男性2人もまた、訳が分からない。

 1人は、先ほどであったばかりの陛下。

 そしてもう一人は……アルフ爺さんだ。


「そういう、ことかっ! いえ、失礼いたしました」


「よい。楽にせよ」


「そうじゃそうじゃ。丁寧に話したところで、夢にはならんぞい」


 慌てて膝をつく俺に、からかうような男性2人の声。

 なかなかに、無茶を言う2人である。


「大丈夫ですよ、お兄様。無茶を言うようなら、私が怒りますから」


「それは勘弁してくれ……あー……陛下、そして前陛下、ということで? つまり彼女は……」


「うむ。ワシが生きとる理由は置いておいて、フェリシアは孫娘で間違いない」


 つまり、俺とボルクスは前陛下とその孫娘を引き連れて旅をしていたわけだ。

 なんというか、驚きすぎて言葉も出ない。


「葬儀はな、戦士として満足に戦うことができなくなったと本人が認めた時に行うとしているのだよ」


「なんじゃ、すぐ答えを言ってしまうのか。つまらんのう」


「いえ、納得です。それで陛下、お話とは……」


 武勇伝のように、土産話を直接聞きたいということでいいのだろうか?

 いまだに固まったままのボルクスの脇をつつきつつ、先を促す。


「それもそうだな。まずは座れ。立ったままでは何も話せん」


 そう陛下に言われては座るしかない。

 テーブルの対面になる位置に座ると、なぜかフェリシアは俺の右手側そばに座った。


「話は単純だ。父とフェリシアを連れて、諸国を旅してもらいたい」


 陛下から飛び出したのは、衝撃的な言葉であった。




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