第18話 集う思惑



 陛下が亡くなられて、その葬儀関連のために貴族が集まる。


 そのことは、帝都では大っぴらには知らされていないようだった。

 それでも、あちこちから普段みない装飾の馬車であるとかがやってくるのだ。

 察しの良い者であれば、何かあったとすぐ感じたことだろう。


「今のところは、田舎男爵と侮られることもなし、か。言ってはなんだが、意外だな」


「ですねえ。もう少しこう、あからさまかと勝手に思ってやしたが」


 ほかの馬車に倣い、堂々と大通りを進む。

 半数以上は複数台の馬車、護衛も相応にといった様子。

 中には、自分たちのように見るからに小規模とわかる一団もいる。


 問題は、運ばれてきた献上対象の品々だ。


「若、さっき見えた中身……新品の武具でしたよね」


「おそらく。一体どういうことだ?」


 物を確かめることはできないが、自分たちの積んできたものとは毛色が違う。

 腕のいい鍛冶職人を、幾人も招致しているといった特徴があるのならば別。

 しかし、大体どこの領地でも似たようなことはしてるはずだ。


 だというのに、武具が積まれていることがわかる馬車がいくつもある。

 中には、帝都内であれば安全だろうと幌を外し、見せびらかすような者までいた。

 全体でいうと少数だが……少々、物々しい。


「俺の知らない何かが……いや、さすがにわかっていれば親父も伝えているはずだ」


 俺のことを鍛えるために、色々と試すことのある父親。

 だとしても、さすがに人生に一度しかないような機会に、だまし討ちのようなことはすまい。


 となると、父親ですら知らない何かがということに……わからんな。


「ウチの準備した物がだめってことはないでしょうし、このまま行きますか」


「ああ、そうしよう。あれが王城、その正門か」


 馬車がいくつも集まる様子に、いよいよという気持ちが高まってきた。

 順番待ちの間に、ふと思ったことがある。


(領地は様々、当然いついつまでにとは言われていない……なのに、なぜこうも一度に?)


 俺たちより遅い者もいるだろうが、早く到着した者も当然いたはずだ。

 なのに、見る限りではみんな、今ようやく王城に入れるといった雰囲気である。


 そう、まるでようやく受け入れ態勢が整ったかのような……。


「次の方、名乗りと宝剣の発光を行っていただきたい」


「ヴィル・アレクシア、男爵である父の代理としてやってきた。宝剣は……この通りだ」


「ありがとうございます。確認が取れました。アレクシア様ですね。向かって右側の道を。案内の者がおりますので」


 数瞬、門番が止まった気がしたが気のせいだっただろうか?

 何事もなかったかのように案内を受け、馬車を進ませる。

 さすがの王城というべきか、敷地は広く、ずらりと馬車を並べたとしてもまだ余裕がある。


 向かって右側ということでそちらに進むと、見るからに良いとわかる鎧姿の兵士たち。

 通りかかるたびに頭を下げていくが、それ以上の動きはない。

 並ぶ馬車も、特に爵位の差で並び替えということもないようだ。


(立場の差で押し通すと、すぐに問題になるのがこの国の強み、か?)


 爵位の違いで、何か約束事を反故にするといったことは固く禁じられていたりする。

 兵士たちの対応でも、それらが影響しているのだろうか。


「こちらへどうぞ。そこでお荷物を降ろしていただき、目録を作りますので」


「了解した。自分たちでやったほうがいいのだろうか?」


「こちらでも可能ですが、そうしていただけると。その……何かあった際に、どちらのせいともめたくありませんので」


 こちらが話しやすいと踏んだか、兵士の本音が垣間見えた。

 確かに、貴族連中の中にはそういうタイプもいるだろうな。

 そういった場合、立場の差ではなく、お互いの約束事がどうだったかで問題になる。


 幸い、1人では持てない重量の荷物は少ない。

 案内された倉庫に、次々と荷物を降ろし、記録担当に中身を告げる。


「これは……見事な金糸入りの水晶ですね。良い触媒になりそうです」


「有事となれば、重要な物資になるだろう。管理はしっかりと頼む」


 多少カマをかけてみたが、相手は特に知らないようで、反応は普通だった。

 となると、複数が武具を献上品に選んだのは偶然か?


 疑問が増えるのを感じつつ、荷物をすべて降ろし終わる。


「お疲れさまでした。それではお時間までこの先のホールでゆっくりお休みください。軽食もご用意してあります」


 そういうと、兵士はあっさりと立ち去っていく。

 むろん、倉庫にしっかりと鍵をかけて、だが。


「てっきり、個室等で話などすることになるかと思ったが、そうでもないようだ」


「ですねえ。ちなみに自分がいてもいいんでしょうかね?」


「大丈夫だろう。他の面々を見たか? 普通に執事やメイドらしき者が付き添っていたぞ」


 むしろ、自分のように男の従者一人だけというのが珍しいだろう。

 物語にあるような密室での密談は機会がなさそうだ。


 もっとも、やってる連中はやってるような気もするが……。


「さて、どうなることやら」


 陛下の葬儀、つまりは合わせて行われるのは新しい皇帝の誕生だ。

 スムーズに終わるといいのだが、果たして?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る