第17話 再会の予感



「よかったのう。帝都まで運んで組み立ててくれるそうではないか」


「ああ、それはありがたいんだが……どうもこそばゆいな」


 兵士たちとともに外に出て、大きく深呼吸。

 そんなところに駆けつけてきたベリエ子爵。

 その頬は紅潮しており、事態が解決したであろうことにひどく興奮していた。


 事情を聞いた彼は、素晴らしい!と叫び、さらにはドラゴンボーンの移送と組み立てを申し出たのだ。

 俺が解決した事件の証拠という形で、帝都に納めたいのだという。

 当然時間がかかるので、今回現物は持って行けないが、事件を解決したということを手紙にしてくれるとも。


 そんなことがあり、ベリエ子爵の管理する鉱山での事件は収まった。

 そのことを祝ってと歓待の申し出があったが、丁重に断る。


 一応、急ぎではないが帝都への旅の途中ではあるのだから。

 目的を考えると、あまり喜びの宴というのもなと考えたのもある。


「お兄様にとっては、必要以上の見返りを求めてではないということですね」


「ははは。若はそういうところがありやすからね。山を走る鍛錬だって言って、近隣の平和のために獣や魔物を狩るようなお方ですから」


「多少の下心が無いとな、人は疑うものだ」


 すでにフェリシアたちの前で名乗ってしまってるので、隠すことでもない。

 自分が男爵であるアレクシア家の長男であり、用があって帝都へと向かっていることは話した。

 さすがに、詳細な目的は話せなかったが……なぜだろうな、2人とも知っていそうな気がする。


「無私無欲はのう……何か逆に裏があるのではと思われやすいもんじゃ」


「そういうものなのですか? 貴族の方々は、叙爵の際に……」


「それは建前、というとさすがにさみしいか。何、祈りだけで麦は増えんということだ」


 少し不満な様子のフェリシア。

 アルフ爺さんは、孫娘の成長する機会だと思っているのか、しきりに頷いている。


 そんな雑談ができるぐらいには、平和な道のりだった。

 中央、帝都に近づくほど道もしっかりしていくし、巡回も頻繁にある。

 結果として、村や町も多くなるわけだ。


(誰だって、平和に暮らしたいものな。我が領地のように、冒険的に活動する人もいるが)


 安全であるということは、良い方に大きく跳ねることも少ないということだ。

 その点でいえば、アレクシア領の商人たちはたくましい。

 大きく儲けてる様子はないが、競争相手が少ないのは利点らしい。


 今後に期待されている、とも言えるか。


「若、寄り道はしばらくなしですかい?」


「特に変な話も聞かないからな。もう十分だろう」


 問題は、どのあたりで2人と別れるか、だ。

 具体的にどこまでというのは、帝都に俺たちが向かっている以外に話していない。

 帝都についたあたりでしっかり話さないといけないとは思うが……。


「ヴィル殿、ワシらは帝都についたら親族を訪ねることにする。土産話もできたしな」


「む、そうか? 了解した」


 フェリシアは何か言いたそうだが、突っ込むのも野暮というものだ。

 帝都につくまで、何か思い出になるようなことがまたあればいいのだが。


 さすがに、騒動という意味での思い出はもうないほうが……な。


 道中、宿を適当にとり、金の臭いがするものがあればざっくりとそれに対応。

 そのほとんどがちょっとした討伐で、あまり儲からなかった。

 中央に行くほど平和なので、仕方ない部分だ。


 わずかにぎこちなくなったフェリシアを気にしつつ、旅の時間は過ぎ……その時がやってくる。

 両親からの、少しでも稼いでくれると助かるという話は、最初のうちになんとかなったことになる。

 ベリエ子爵も、領地への優先的な鉱石類の出荷を約束してくれたし、問題はないはず。


 そして、旅の終わりが近づいてきた。


「見えてきやしたぜ」


「あれが、そうか。思ったよりでかいな」


 遠くに見えてきた城壁。

 その中で待ち構えているあれこれに、今から少し緊張してきたのを感じる。


「帝都は初めてなのですか? 意外です」


「地方の男爵、その後継ぎでしかないからな。基本的には直接来ることはないさ」


 そんなことをいってくるフェリシアは普段通りだ。

 彼女は親類がいるということだから、慣れているのかもしれない。


 大きく、門番も多い帝都に入るための関所。

 今回は宝剣を見せて、俺自身の魔力で光らせることで身分証明ができた。

 フェリシアが残念そうだったのは、きっと気のせいだ。


「ヴィル殿、ではこの辺で」


「お兄様、一時のお別れです」


 ある意味あっさりと、2人は馬車を止めたところで降り、そのまま帝都の雑踏へとまぎれていった。

 もともと、そういう話だから別に構わないのだが……。


「今、一時と言ったよな?」


「……我々は我々の用事を片付けるべきでは?」


 確かにその通り。

 荷物の再確認を済ませ、王城へとゆっくり進むのだった。




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