第16話 その光、伝説
英雄、それは魔を討ち果たすために神々と契約した戦士たちの総称。
戦士であり、魔法使いであり、弓手であり……いずれも覚悟を決めた人々だ。
体や骨の一部などを捧げ、神々のそれと交換するようにして力を授かったらしい。
彼ら彼女らの子孫には、時折その力の残滓が宿り、力に目覚めるという。
「この光、伝説の光明剣……まさか若が?」
「わからん。だが、どうにかなったのは間違いないな」
力いっぱい振りぬいた宝剣は、斬撃を飛ばした。
ただそれだけではなく、斬撃は強い光を放つものとなっていた。
かつて、英雄の1人が使ったという破邪の光。
(力強く、それでいて優しさを感じる。これは本当に?)
静かに突き進む光の刃は、ドラゴンボーンのブレスとぶつかり……切り裂いた。
強大なブレスを、まるで煙を払うかのように進み、本体に直撃。
あまり聞きたくない叫び声が坑道に響き渡った。
「今の内です……お兄様。力が続く間に、直接!」
「わかった。無理はするなよ」
フェリシアから伸びるうっすらとした力の糸。
指ほどの太さのそれは、彼女の胸元から俺に伸び、つながっている。
説明不要、これが力の源だ。
「若っ! あいつ歩けませんぜ、足が片方ない!」
彼の言う通り、壁から出てきたドラゴンボーンは這うような動きだ。
右足がなく、残る足と両手でどうにかというところ。
もともと、四つ足で駆け抜ける種だったのだろう。
(ならば、近接でもやれるっ!)
「死にぞこないめっ!」
恐らく、生きたまま山崩れか何かに飲み込まれたのだろう。
それがいつのことだかはわからないが、執念のようなものを感じた。
迫る俺に気が付き、無理な姿勢から食らいつこうとするドラゴンボーン。
しかし、その動きは見え見えなものだった。
「核はそこかっ……っ!?」
いざ宝剣で一刺し、というところで視界に光が揺れる。
フェリシアからの力、それが視界をふさぐように覆い……ドラゴンボーンから何かが伸びる幻を見た。
とっさに体をひねると、口の中から舌とでもいうべきか、棒状の骨が槍のように飛び出してきた。
あのまま突っ込んでいたら串刺しになるところだったそれを、宝剣で横合いから切り裂く。
さらなる叫び声をあげるドラゴンボーン。
今度こそ弱点となる力の集中する個所、核が無防備に俺の視界に飛び込んでくる。
「今ですっ!」
「応ともっ!」
湧き上がる力を宝剣に注ぎ、突撃。
喉元付近から胸元へ、一気に宝剣を突き刺した。
何かを砕いた手ごたえ、それはすぐに成果を示す。
急に気配の薄まるドラゴンボーン。
数歩後退すると、そのまま巨体は姿勢を維持できずに倒れた。
「こいつが異常の原因ですかね?」
「おそらく。見ろ、周囲の気配も薄らいでいる」
念のためにと周囲を警戒しつつ、ボルクスがフェリシアを連れて近づいてくる。
緊張しているのか、まだ集中した様子のフェリシア。
そんな彼女に向き合い、頷けばそれで安心したのかほっとした様子になる。
すると、あっさりと力の糸は消え、先ほどまでの感覚も消え去った。
万能感に近いような、湧き立つ力。
まるであれは……英雄の?
「成功してよかったです。知識としては学んではいたのですが……」
「正直、助かった。あのままだとどうなっていたことか」
「あー……お嬢、どうしてあの魔法を選んだんで?」
ボルクスの疑問はもっともだが、きっと彼女にもわからないだろう。
「ええっと、行けると思ったから、でしょうか」
「そんな適当な……いや、姉御、若の母親もそんなことを言ってやしたね?」
「ああ、その通りだ。理屈ではない、と」
魔法は、かなり感覚だよりなところがある。
これは母上も良く言っていた。
使おうと思って使うのではなく、使えると思ったから使うのだと。
慣れてくると、その感覚の中から、必要な魔法を選択するように行使するという。
今回、フェリシアはあの魔法……人と人をつなぎ、力を高める物を選んだのだ。
「次に同じことができる自信はありませんけどね」
「ま、そんなもんだ。さて、何か回収できるか?」
倒れたドラゴンボーン、その姿は単純に組み立て前の骨標本という見た目だ。
それだけなら雰囲気がある光景である。
悩む間に、背後から人の気配と足音。
振り返れば、兵士たちが追い付いてきたようだった。
「ご無事か! ……これはっ! まさか、伝説のドラゴンボーンでありますか!」
「おそらく、な。汚染されたゴーレムももう出ないだろう。良ければともにこれを運び出したいのだが?」
さすがに俺たちだけで運び出すのは無理がある。
俺の提案に、兵士たちは驚きながらも同意してくれた。
鉱石を運び出す台車なども使いながら、戦利品としてのドラゴンボーンを運び出すのだった。
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