第15話 太古の目覚め


 兵士たちと別れ、奥へ奥へと進む。

 逃げ遅れた鉱員を助けていけば、いつしか動くものは俺たちとゴーレムだけになる。


 思ったよりも鉱員は残っていたが、ゴーレム以外に敵もいないのが幸いだった。

 隠れてしまえば、そうそう見つからないからだ。


「左に2、右に1でさあ!」


「わかった。まず右だ!」


「浄化、行きますっ!」


 最近組み始めたばかりの即席パーティー。

 ボルクスは俺のことを良く知っているが、フェリシアはそうではない。


 俺たちに合わせるのではなく、俺たちが合わせることにした。

 彼女の持つ杖、その先端が光り力が放たれる。

 何度か見た形になる、本当ならば貴重なはずの浄化魔法。


 瘴気ゴーレムへと吸い込まれ、その光が弾けることでゴーレムは姿を変えていく。


「この状況でもまだ力が残る個所……そこだっ!」


 ボルクスは先に前に出ることで、ゴーレムの攻撃を誘う。

 無言で振り下ろされる拳をボルクスが回避し、俺の前に無防備な姿が現れる。


 宝剣を突き刺すように繰り出し、ゴーレムの力、その源であるコア部分を貫く。


 力を失い、崩れ落ちるゴーレム。

 その体は、ただの岩石ではなく……。


「これは、何か混じっていますね? これが魔鉄でしょうか」


「おそらくそうだろうな。独特の色合い、模様がある」


「ってことは……このあたりに鉱脈が?」


 迫ってくる2体のゴーレムを見つつ、状況を探る。

 恐らく、まずは魔鉄の産出を安定させるために兵士を集めているのだ。


 だとしても、この騒動まで読んでいたとは思えない。

 どれだけ有望な鉱山でも、掘れなくては稼ぎにならないのだから。


「まずはあいつらを倒してからだな」


「わかりました! 撃ちます!」


 だいぶ慣れてきたのか、かなり早く力を杖先に集めるフェリシア。

 魔法には詠唱と、放つ魔法名が必須……ではない。

 熟練者なら、炎よと言いながら冷気を放つことも不可能ではないという。


 受け継がれてきた詠唱と魔法名は、力を思い浮かべやすくなるための補助なのだ。

 この詠唱、この魔法名で放つとこういう魔法になる。

 そんな思い込みが、実際に魔法として力になる。


 つまるところ、彼女はその思い込みだけで浄化魔法を使いこなし始めているのだ。


 そのことが頼もしく思いつつ、可能にする血筋か運命めいた何かが気になってくる。


「だいぶ奥の方まで来たな……」


「でかい鉱山とは思ってやしたが、ここまでとは……」


「少し休憩でも……??? 何か、変な感じです」


 フェリシアの言葉に、俺とボルクスははっとなって彼女を挟み込むような配置になる。

 不思議そうな彼女に、壁からゴーストが出てくるかもしれないとだけ伝える。


 地元で、母が同じことを言ってゴーストと対決したことがあるのだ。


「……出てこない、か。ということはこの奥か。ボルクス、後ろを頼む。前のほうがまずそうだ」


「若がけがをすると、自分が後で怒られるんですがね。わかりやした」


 俺が前に出る、それは未知の相手が強敵だろうという予感の時、だ。

 魔法使いであるフェリシアを間に入れ、坑道の奥へ。


 採掘の最前線だったであろう場所が見えてきたと同時に、宝剣に力を込めた。


「ここで事故でも起きたわけでもあるまいし……なんだこれは」


「お兄様、あれは一体……」


「さすがにこの数は厄介ですぜ?」


 3人の見つめる先には、いかにも掘りかけという壁を守るようにただよう、ゴーストの群れ。

 そのうちの数体が、こちらに気が付いた。


「火矢! ボルクスは増援を警戒!」


「わかってまさあ!」


「撃ちます!」


 俺も宝剣に力を籠め、斬撃を飛ばす。

 攻撃魔法とは違うが、魔力のこもった一撃はゴーストにも有効だ。

 その代わり、ボルクスのような普通の武器では傷つけることができない。


 幸いにもというべきか、相手の耐久はそう高くないようだ。

 そうして、ゴーストの数が減っていくことで、その奥にあるものが見えてきた。


「多少は撃ち込んでも大丈夫か……ふんっ! 何っ!?」


 ゴーストではなく、壁に向けて飛ぶ斬撃。

 ただの岩壁なら、これで多少砕けるはず。

 ところが、当たる前に何かにはじかれた。


 と、何か動く音がする。

 音の主は……もう守る者のいない壁!

 斬撃の当たらなかったはずの壁が、崩れ落ちて中身が見えてくる。


「え……壁に骨? まさか……!」


 最初は、目に入った物が信じられなかった。

 それは彼女も同じだったのだろう。


「いったい何が……化け物ですかい?」


 その言葉が聞こえたわけではないだろうが、壁に埋まる形だった骨が動く。

 半身が埋まったままの巨大な骨、その姿は……ドラゴン。


 通称、ドラゴンボーンが魔物として動き出したのだ。


「お兄様、来ます!」

 

「遺跡にいた作り物とは違う、本物だ! いったん後退!」


「了解でさあ!」


 相手が感じ取ったのは、俺か、彼女か、あるいは両方か。

 虚ろな瞳とがらんどうの口がどちらも俺たちを向き、瘴気の炎が飛び出した。


「ブレス! 瘴気も魔法も違いはない!」


 回避しきれないと判断。

 足を止め振り返り、全身から魔力をひねり出す。


 ブレスを丸ごと切れるかは、半ば賭けだ。

 あと一手、あれば……。


「かつての祈り、果たされる盟約! 目覚めよ!」


 背後から届く声。

 力強く、まるで神への祈りをささげる儀式のような声。


 それが、そのまま俺に届き、剣へと伝わり……振り上げた剣に力が宿るのを感じた。

 兵士たちに光らせて見せた時と似たような、どこか懐かしい感覚。


「ええいっ、ままよっ!」


 迫る黒いブレスへ向け、俺は宝剣を力いっぱい振りぬくのだった。


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