第14話 山に響く咆哮
「かなり高さがあるな。ボルクス、どうだ?」
「響いてはっきりしやせんが、奥のほうに複数暴れてますな」
問題の鉱山は、かなり長い間採掘を行っているようだった。
というのも、穴も大きく、あちこちに補強工事や灯り台の設置がされているのがわかる。
さらに、明らかに長く続いている気配がするのだ。
「フェリシア」
「だめですね。お兄様の言うのは、魔力での探査でしょう? ここは周りが……」
申し訳なさそうに顔を伏せるフェリシア。
彼女の肩を軽くたたき、歩き出す。
(ダメ元だったが、これは思ったより厄介だな)
金糸入りの水晶が、魔法の良い触媒になるのは良く知られている。
それと同様に、特定の鉱物やらが混ざった石や宝石というのは、魔法と相性がいい。
研磨する前、大地に眠っている段階から……その影響があるほどだ。
鉱山全体が巨大な魔力の触媒になる可能性がある。
「想定内だ。ここだと、いつもとは魔法の調子が違うだろう。自己強化以外には気を付けるといい」
「なるほど、わかりました。博識ですね、お兄様」
「若、良ければ先に見てきますぜ?」
ある意味では、いつも通りの役割を果たそうとするボルクス。
しかし、その顔に浮かぶ笑みは……わかりやすい。
俺とフェリシアをくっつけたいのだろう。
(浄化の魔法に関して、ボルクスも知ってるだろうからな)
貴族界隈ではそこそこ有名な話だから、当然かもしれない。
「いや、挟撃が厄介だ。見える範囲で頼む」
「了解でさあ。確かにここは厄介だ……横穴がこんなにあるとは」
若干緩みかけた雰囲気も、すぐに引き締まる。
恐らくは計画的にだとは思うが、横穴が多い。
崩落しないよう、補強工事をしながらの採掘は感心するほどの結果を産んでいる。
そうこうしてるうちに、奥から鉱員たちが逃げてきた。
「兵士たちは奥に?」
「あ、ああ! ゴーレムどもがたくさん!」
1人捕まえて話を聞くと、やはり騒動はまだ序の口のようだ。
鉱員と別れ、なおも進む。
「鉱山って、もっとぐねぐねしてるものだと思っていました」
「俺もさ。よほど調査をしっかりしたらしいな」
言いながら、騒がしい気配に近くなったのを感じた。
無言でうなずきあい、3人で駆け出し……中継点であろう場所に出る。
何人もの兵士たちが見え、その相手も目にすることができた。
「あれがゴーレム! でも、なんだか様子が」
「ああ。あれはまずい……!」
地元でも2度ほど見たことがある。
瘴気に汚染されたゴーレムだ。
体から漆黒のオーラを醸し出し、瞳にあたる部分も怪しく光っている。
通常、自然発生した後に一定の範囲をただうろつくか、近づく相手を誰であれ攻撃するのがゴーレム。
いつもなら戦いやすい相手だが、今は回避するのみだ。
「どうして攻撃しないんですか?」
「瘴気の泉で、ゴブリンがいただろう? あれに噛まれたりすると、最悪の場合はその相手に汚染が広がる。が、生き物には抵抗する力があるからな。だが、ゴーレムの場合は少し違う」
俺も詳しくは知らないが、汚染は同じようなものに広がるのだ。
生き物なら生き物に、石なら石にと。
この場合、ゴーレムは金属や石となり……生き物には移らない。
その代わりに、武具に移るのだ。
そうなったら、しばらくその防具は使えない。
「だから、ああして回避し続けるしかないんだよ。攻撃を仕掛ける分には、魔力をしっかり込めるとなんとかなるんだが」
言っている間にも、兵士の中にいる魔法使いから火や魔力そのものの矢が飛び、当たる。
何発かそうしたところで、崩れ落ちるゴーレム。
「増援か? 下手に手出しされなくて助かった」
「ああ。対処した覚えがある。いきなり動きが変わるから厄介だよな」
兵士たちが、木材で出来た道具でゴーレムの残骸を片付けるのを見守る。
これで終わり……ではないのだろう。
まだ離れた場所での音が耳に届いている。
「領主様がよこしたということは相応の……その剣、まさか」
「一応、そういう立場だが、ここではひとまず置いておいてくれ。状況は?」
「そう言われるのであれば。ゴーレムは複数、奥よりどうも湧いているようで。まだあちこちに鉱員が避難してるはずだ」
敬礼でもしだしそうな兵士を制止し、状況確認。
やはり、かなり厄介なようだ。
「若、来ました」
「まだあんなに……」
坑道の奥から、複数の重い足音。
ゴーレムを引っ張ってきたのか、別の道からは兵士たちと、ゴーレム。
再びゴーレムと戦いだす兵士たちを見つつ、こちらも戦闘準備だ。
「俺たちはこっちを。任せてくれ」
「了解しました。危なくなれば、遠慮なくここまで後退を。おい、行くぞ!」
兵士たちの移動に合わせて、こちらも行動開始だ。
「フェリシア、前言撤回。坑道に向けて浄化を。ボルクス、後ろを頼む」
「できるだけわからないように撃ちますね」
「へへっ、いつもの、ですな」
戦闘音がうるさく、聞こえないのをいいことに指示を出し、まだ姿の見えていない足音のほうへ。
すぐに見えてきたゴーレムへと、小さなテーブルほどの光が迫る。
自身で言ったとおりに調整して放たれた浄化の魔法だ。
それを追いかけるように駆け出し、宝剣を握る。
相手は汚染されていようがたかがゴーレム。
鈍い動きに、鈍重な姿。
切りかかるのは、簡単だ。
「斬……鉄っ!」
硬いものを切る。
そのために特化した魔力剣。
母から幼い頃より、叩き込まれた必殺剣の1つだ。
攻撃魔法として魔力を使うのが苦手な俺が、どうにか形にした魔力攻撃。
体を強化し、さらに武器にも力を通しての攻撃だ。
俺の剣が届く直前に浄化の魔法が直撃し、瘴気の気配が一気に薄れる。
そのまま俺の攻撃がゴーレムの肩口から、人間でいう腰あたりまでを一気に切り裂く。
「さっき、瘴気の気配が消えましたよね? 動いてる相手にも効くんですか」
「浄化は、そういう力もある。だからこそ、ここぞというときに使うものだな。覚えておくといいさ」
足元には、ゴーレムの残骸。
ただし、汚染が確認できない。
毒などはどうにもできないが、瘴気やその類、心の動揺などはどうにかできる。
それが浄化の魔法なのだ。
「俺の魔法剣が、それを可能にしたとしておく。いいな?」
2人が頷くのを待ってから、少しずつ奥へ。
思い出したように出てくる鉱員へ、止まらず駆け抜けろと告げてさらに進むのだった。
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