第13話 瘴気汚染
我が家の隣領、ベリエ子爵領は鉱山を複数抱えた土地だ。
以前から、豊富に産出される各種鉱石・鉱物類は国の富となっている。
そんな領地で、新しく見つかった鉱山、そこにやってきたわけだが……。
「荷物が汚染されていたと言っていたな? 具体的にはどんなことが?」
「詳しくはわかりません。ですが、これでは使えないと職人たちは言っていました」
臨時の検問でこちらを止めた兵士たちの内、数名が俺たちの案内に残り、他は鉱山へと走って行った。
事情説明を受けながら、ひとまず馬車を止める場所へと向かっている。
「汚染……使えない……若、こいつはひょっとして?」
「ああ、可能性があるな。ウチでも覚えがある。亡霊種の魔物が通ってしまったんだな」
魔物には、様々な種類がある。
そのうちの一つに、亡霊種がある。
これにはスケルトンなどのいわゆるアンデッドも含まれ、嫌われている。
そんな彼らは、倒しにくいことで有名だが、大きな特徴を持つ。
彼らが暴れた場所、過ごした場所はしばらくの間……汚染されるのだ。
瘴気とも、負の魔力にともいわれるが、とにかく厄介なものだ。
見た目でわかるような変化は少ない。
が、例えば食べ物であれば体調を崩すし、資材とするには不向きになる。
(確か、一年はまとめて放置しておかないといけなかったような……)
そうなると、食べ物であればもう無理であるし、資材としても微妙。
何より、徐々にだが汚染が広がるのだ。
薄まるという見方もあるが、よろしくない状況になる。
「その通りです。おかげで備蓄の多くを検査し、仕分ける必要が出ました」
兵士の足が止まり、こちらも顔を上げる。
いかにも臨時の建物という感じだが、目的地のようだ。
「こちらで、ベリエ子爵様が指揮を執っているはずです」
「了解した。感謝する。ボルクス、爺さんとともに馬車を頼む」
「またですかい? いえ、かまいませんがね」
不思議と、首を突っ込みそうなアルフ爺さんは、静かだった。
何か考え事をしているようで、うなっている。
そして……フェリシアは、俺が言うまでもなく、行く気満々だったのである。
「私の出番、ですよね?」
「そうかもしれんが、いざというときまでは隠しておけよ」
首をかしげるフェリシアの肩を叩きつつ、先を行く兵士についていく。
今のところは、あくまで彼女は俺の従者のようなものとしておいたほうがいい。
実用性のある浄化の魔法は……それだけで血縁の証明のようなものなのだ。
彼女がそれを知っているのか、知らないで使っているのかはわからない。
(もしかしたらベリエ子爵はご存じかもしれないな)
そんなことを考えつつ、中から大声が聞こえる部屋へ。
どうやら、取込み中のようだが、仕方ない。
兵士が扉を大きくノックし、中からの声にこたえてる間に心の準備はできた。
さて、どう話を切り出すか、と思っていた時だ。
中から、扉が音を立てて開かれた。
「おお? おお! まさにまさに! ヴィル殿ではないか!」
「ベリエ子爵、お久しぶりです」
確か家の親父よりいくらか年下の、文官タイプ……それがベリエ子爵だ。
赤毛の男性で、ふっくらとちょうどいいの境目ぐらい。
自身では戦えず、兵士の充実を図るタイプだ。
以前出会ったときも、こんな感じで陽気に両親と話していた。
爵位の差を感じさせない、きさくな貴族。
だからこそ、村の巡回が減っているというのはよほどのことだ。
「息子たちは帝都に行かせた後でな。これも運命か。相談したいことが……ん、そちらのお嬢さんは?」
「彼女はフェリシア。旅の共にしている魔法使いです。なかなかに優秀です。きっかけになればと」
すました顔で、頭を下げるフェリシア。
その身のこなしは、わかる人にはわかるだろう。
本当に、彼女自身はわかっているのかいないのか……今度聞かねばいかんな。
「なるほどな。おっと、それどこではなかった。ヴィル殿、鉱山に厄介なゴーレムが出ることが続いてな。兵士たちではなかなか時間もかかりそうなのだ。噂の腕前を1つ、見せてもらえんか?」
むろん、報酬はふさわしいものを出す、と告げられる。
彼も、当然自分がなぜ帝都に向かっているのかは知っている。
そんな俺に対する報酬なのだから、相応のものだろう。
「鉱山から出る魔鉄、そのインゴットを10本出そう。1本は持ち歩くといい。宝剣に万一があった場合の、修理材となるからな」
「それはそれは……わかりました。かまいません」
帝国でも、限られた産出量の魔鉄。
鉄鉱石に特定の混ざり物がある場合にのみ魔鉄となるのだとか。
それがもらえるというのなら、問題ない。
状況の説明を受け、地図を預かり……部屋を後にする。
馬車に戻ってから突入の準備だ。
今回は、爺さんもついてくるという。
「なあに、入り口付近で馬車を見張っとるよ。帰りに、少しばかり運び出す手伝いをするぐらいはできるじゃろう」
「爺さん、俺たちは掘りに行くんじゃないぞ? そりゃあ、なんらかの副産物はあるとは思うが」
「中には自分もついていきやすぜ」
「ボルクスさんが一緒なら、私もやりやすいです」
あっさりと役割分担は決まり、3人で突入、1人は留守番ということに。
兵士たちが入れ代わり立ち代わりと動く鉱山へ向け、進む。
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