第12話 身分証明



「詳しくは言えないがな。今は貴族や領主たちは、馬鹿ができないはずなのだ。ちゃんとやってますとと言えないとまずい」


「つまり……わかりやすく巡回を減らしたのを放っておくなんて真似、しないはずだと」


 翌日、村を出て向かう先は予定とは別の街道。

 件の鉱山がある方向へと続く道だ。


(道はあるのだから、巡回が行えないはずなないんだがな)


「なるほどのう。バレやしないと思っているか、それどころではないか」


「行って見りゃわかりそうですな」


 一応は魔物や不届きものからの襲撃を警戒しつつ、道を行く。

 途中、それらに邪魔されることはなく順調に進めた。


 鉱山も見えてきた……のだが。


「なんだありゃあ? 若、あれを」


「んんん? 建物と人だな?」


 鉱山へと続く山道、その根元だろう部分にある街。

 そんな街の手前に、なぜか別の建物と集団が見える。


 まさか、検問か? こんな場所に?

 しかも、妙に規模が大きい。


「まるで防壁じゃな」


「ああ、まったくだ。まるで出入りさせたくないような……」


 急ごしらえなのがこの距離でもわかるほどの見た目だ。

 いったいどういうことかと思っていると、別の街道からやってきたであろう馬車がその建物に。


 俺たちが到着するまで、中に入っていないということは相当時間がかかっている?


「フェリシア、真ん中にいろ。爺さんもだ」


「え? わ、わかりました。お爺様、こちらへ」


「ここはお任せじゃな」


 正直、ここで回れ右して回避したい。

 が、さすがにこの距離ではもう向こうにも見えている。

 ここで方向転換は怪しいですと言って回るようなものだ。


 それに、だ。


(臭う、臭うぞ……ただの検問じゃない)


 少し速度を落とした状態で、近づけばその雰囲気がよくわかる。

 ピリピリとした、嫌な感じだ。


 幸いにも、武器を向けられているという感じはない。


「止まれぇ!」


「そこまで叫ばなくても聞こえやすぜ。よっと」


 まずはボルクスに任せ、視線を変えぬまま雰囲気を探る。

 ずいぶんと兵士が多いように思う。

 そう、ほかから回したような、そんな人数。


「荷物を改める。全部出してもらおう。封がされたものもだ!」


「へ? 封をしたものもですかい? そりゃ無茶ってもんだ」


 その言葉に俺も、フェリシアたちも驚きの表情になったことだろう。

 検問で荷物の確認をすること自体は普通だ。


 が、さすがに全部、しかも封をされたものまでというのは聞いたことがない。


「そうだ。全部だ。これは子爵様の決定だ」


「少し、いいだろうか? 協力はしたいが、封がされたものは無理だ。詳しくは言えないが、しかるべきところにお出しするものでな。中身に手を付けていないことを証明できなくなる」


 陛下の葬儀、そのための献上品とは言い出せず、どうにかなだめにかかる。

 これでもめるようなら、名乗るしかないのかもしれないが……。


「だめだ! 出入りの商人ですら、例外はないとお達しなのだ」


 兵士側も頑なだ。そういう命令なのだとしても、ずいぶんと……仕方ないか。


「子爵に取次ぎをお願いしたい。我が名はヴィル・アレクシア。隣領の者だ。帝都へと向かう途中、噂話を聞いてこちらに立ち寄っただけだ」


 敵意はないことを示しつつ、名乗る。

 それでもやはり、葬儀のためとは言いにくい。


「何!? いや、そんな見え透いた嘘はやめておくんだな。その名は次期領主のはず。それが従者1人と爺に小娘だけ、さらに自分の馬にも乗らず馬車1台とはあり得ぬ!」


「それには事情が……ずいぶん大ごとになったな」


 相手にとっては相当怪しいと思ったのか、兵士たちが続々と集まってきた。

 その瞳には、殺気というより恐怖?


「こちらも荷物を改めること自体は構わないが、封がされたものは除外してくれと言っているだけだが?」


「だめだ。そうして開けなかった荷物が汚染されていた」


 汚染……汚染と言ったか?

 何か良くない物が荷物として街に……ということか?


 兵士をなだめるべく、馬車から降りて1人、近づく。

 どうしても視点が違うと、圧迫感はあったりするものだからな。


「身内の恥のようで言いたくはなかったが、アレクシアは貧乏でね。余裕はない。だからなのだが」


「ええい、おとなしく全部出せ!」


「待て、待てって!」


 必死な様子で迫る兵士たちをどうにか制しようと彼らの前に立つ。

 どうしたものかと悩んだ、そんな時だ。

 にわかに騒がしくなった。


 騒動の源は、鉱山。


「ほら、あっちはいいのか? 俺たちは別の街に行くから、それでいいだろう?」


「くっ……しかし……」


 あっさりと対処した俺を警戒してか、距離をとる兵士たち。


 あと一押しか。

 そう思った時、そっと腕に手が。

 フェリシアが、なぜかそばに来ていたのだ。


「おい、危ないぞ。どうした?」


「いえ、宝剣を光らせればいいのではと」


 言われ、その手はありかと思った。

 親父から預かる形で手にしている宝剣は、国全体でいえばこの一振りだけではない。

 実用性は別にして、領主ごとに授かっているのだ。


 目立つので、名乗る以上のことはしたくなかったが、仕方ない。

 そういう剣だと伝えたことはなかったはずというのはこの際、後だ後。


「なんだ、何を言っている?」


「その眼、見開いてとくと見よ」


 宝剣を鞘ごと手に、教わった通りの言葉を口に。

 魔力を添えるのも忘れない……は?


 つぶやく俺の手にフェリシアの手が添えられ、似たような言葉が紡がれる。

 似ているが、まるで2つは最初から同時につぶやくような文言で……。


「お? おお? こいつは美しい」


 宝剣が、光を放った。

 まぶしいほどではないが、確かな力強さ。

 これと比べると、俺だけの時はただの照明だ。


 しかし……今は剣全体を力がしっかりと覆い、まるで脈動しているかのようだ。


「光る宝剣……まさか本当に……失礼しました。以前、宝剣の持ち主を騙った者もいたもので」


「わかってくれたのならいい。それより、まずいのだろう?」


 鉱山の騒動は、先ほどより大きくなっているのを感じるのだった。


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