第11話 事件の気配


 村に戻り、ゴブリン問題の解決を報告。

 一晩の宿にと村長宅の離れを借りての夕食時。


 野営時のように、火にかけた鍋とシンプルなものだ。

 ちなみに、昼間に狩ったウサギを焼いたり汁物としている。


「そういえば、ヴィル殿。聞いておきたいことがあるんじゃが」


「爺さんがかしこまった聞き方をしてくるとは……」


 短い付き合いだが、アルフ爺さんは自由人だとわかる。

 立ち振る舞いからして、高位の教育を受けた人間なのは間違いない。

 なので、今は隠居して自由を楽しんでいるといった印象だ。


 そんな爺さんが、食事の手を止めてこちらを向いてきたのだ。

 すぐそばにいる、ボルクスやフェリシアも気になるようだ。


「なあに、大したことではないのだが……ヴィル殿は独り身だとか。これという相手はおらんのか?」


「っ!? と、唐突だな……」


 危うく口の物を吹き出すところだった。

 ボルクスがすまなそうにしてるところを見ると、留守番の間にうっかり話したに違いない。

 爺さんは話が上手そうだし、責めるほどではないか。


「残念ながら、な。親からは好きに選べとは言われているが……」


「ほうほう。親御さんもか。珍しい考えじゃな。平民でなければ、家を主軸にするもんじゃが」


「ウチはな、少々特殊なのさ。それで?」


 本当は、爺さんの言うように政略結婚までは言わずとも、家柄だとかが重視されるだろう。

 が、ウチの場合は母が父を目標に飛び出した感じだからな……。


「なあに、簡単な話じゃよ。独り身なら、うちの孫娘はどうかなと思ってのう」


「お爺様!?」


 突然の発言に、フェリシアも慌てた声を出す。

 その顔は真っ赤で……む?


「フェリシア、嫌なものは嫌というべきだ。たとえ祖父であってもな」


「あ、いえ。その……」


 急にもじもじとしだしたフェリシア。

 そそくさとそのままベッド代わりの藁山に移動してしまった。


(これは、そういうことなのだろうか?)


 言われてみれば、遺跡での探索時にそんなようなことを言っていたな。

 戦士の横に立つ自分を見た、と。


「ま、考えておいてくれると嬉しいのう。強い戦士は好ましい」


「強さにはそれなりに自信があるが……それでいいのか? んっ、来客か」


 外に、気配。

 これは……村長だ。


 素早くボルクスが扉を開け、外を確かめる。

 感じた通り、村長が小樽を持って立っていた。


「これはこれは。昼間はありがとうございました。どうです、やりませんか」


「いただこう。フェリシアも一杯ぐらいはどうだ?」


「い、いただきますっ」


 先ほどのやり取りがまだ残っているのか、慌てた様子のフェリシアも寄ってくる。


「酒杯はこちらで……」


「すまないな。ボルクス」


 一応は警戒し、自前の祝杯で小樽からの液体……酒を受け取る。

 香りからすると、ワインの一種か。


「ほうほう、良い香りじゃ」


「本当です。さわやかな……」


 嫌な気配は感じないので、ちびちびと口に含み、味わう。

 毒を警戒してのことでもあるし、一気に飲むのももったいないということでもある。


「幸い、近くを良い水が流れておりましてね。畑もそれを利用して、と」


「若、明日は出る前に数樽仕入れていきましょう」


 内心でボルクスを誉めつつ、大丈夫そうとわかって残りの酒を飲む。

 村長の顔が、ほっとしたものになるのを見て……少しばかり事情を察する。


「最近、このあたりは巡回が少ないのか?」


「おわかりですか。ええ、そうなのです。戦士様がゴブリンどもを片付けてくださいましたので助かりました」


「おかしいのう。このあたりは子爵領じゃろう? 巡回がないわけがない」


 どうしてそんなことを知っているのかはともかく、爺さんの言う通りだ。

 アレクシア領の隣であるここは、確かベリエ子爵の領地のはずである。


「それが、以前と比べると明らかに。おそらく、にぎわってるという鉱山に人手がとられてるのだと思うのですが」


「だからと言って! お兄様、どうにかなりませんか?」


「そうですなあ。巡回が減るとなりゃ、魔物だけじゃなく盗賊だってでかねない」


 話を聞きながら、腕組み。

 内容が本当なら、ゆゆしきことだ。


 自身が戦士、騎士であるからこその思考ではあるが……。


「弱きを見捨て、金だけを見るのでは問題だな」


 もっとも、金を稼ぎながらの旅である自分もそこを突かれると弱いが。

 巡回を偏らせるというのは、別の問題だ。


 ちらりと、爺さん、村長、ボルクスを見る。

 最後に、隣にやってきたフェリシアを見て……。


「なるほどな。臭うな……」


「私、汗臭いでしょうか?」


「ん? ああ、違う違う。とある理由からな、このことが放置されるのはおかしいと思ったからだ。理由がありそうだという意味だ」


 自分の臭いを嗅ぎ出す姿は、どこかほほえましいというか、年相応に見える。

 やはり、フェリシアは良い子だ。

 確かな教育を受け、正しく育ち、自分の決意も胸に秘めている。


 爺さんが過保護とは違うが、気を使うのもわかる気はする。

 だからこそ、少しばかり……騒動を呼びそうだ。


「村長、その鉱山の位置を知りたい。そう遠くないと思うのだが」


「ええ、そのぐらいなら」


 せっかくの酒が、酔いを呼ぶ前にまじめな話になってしまったのは残念だ。

 けれども、その分は帝都への献上品……武勇伝が1つ増えそうな気配がするのだった。



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