第7話 財宝の価値


「若、いいんですかい?」


「かまわん。あれがなんなのか、わからないからな」


 ボルクスが心配するのは、儲けの分配、その騒動だ。

 単純な討伐となると、倒した者が優先権を得ることが多い。

 もちろん、財宝目当ての探索であるので、それは正しい。


 ただ、協力して倒すとなればそれぞれの役割を果たしたからこそ倒せたともいえる。

 そうなると、貢献度合いがどうとかでもめることもある。


 例えば俺たちの場合、探索の際に割合は決めたが、それ以上は決めていないのも事実なのだ。

 となると、具体的な価値がわからないうちから主張するのもどうかと思ったのだ。


(それに、この感じからすると……持ち出していい物かどうか)


「爺さん、それは売れる物か?」


「いや、難しいじゃろう。帝都には見事な噴水があるのは知っとるか? じゃあそれを運び出すかといった感じじゃの」


 帝都の噴水、噂には聞いている。

 魔法とそれを込めた特殊な道具で、水を湧き立たせるオブジェなのだとか。

 相当大きいらしいから、無理だろうな。


 水晶球に爺さんが手を乗せて何事かをつぶやくと、どこか神々しく輝きが生まれる。

 それを見つめる爺さんの目は、とても静かで、真剣だった。


「……了解した。俺とボルクスは適当に拾い集めてるから、用事が終わったら言ってくれ」


「お兄様は、聞かないのですか?」


 アルフ爺さんに付き添っているフェリシアが、不思議そうに問いかけてくる。

 彼女からすると、儲け話を逃すのか、といったところか。


 気のせいか、彼女の体からも何か糸のようなものが水晶球に伸びているような?


「あまりしがらみは増やしたくないんでね。片手でつかめるものしか助けられないからな」


 もう片方には、武器を持ち戦うからだと付け加え、ひらひらと手を振り部屋を物色する。

 ドラゴンの姿をとっていたものは、よくわからない金属のがれきと化している。

 その周囲に散らばるのは、半透明の金銀財宝と、実体のある金銀財宝。


「ボルクス、適当に拾い集めてくれるか?」


「へい。若はめぼしいのをどうぞ探してくだせえ」


 年上で、今も十分動ける戦士であるボルクス。

 そんな彼にあまりかしこまれるとむず痒いのだが、本人がそうしたいというので仕方ない。

 上司と部下というか、部隊長と隊員、ぐらいがちょうどいいとは思うのだが。


 そのうち、この辺も変えていきたいなと思いつつ、周囲を見渡す。

 ほとんどは古いデザインの金貨銀貨……たまに宝石が混じる。

 どこかこう、適当にばらまいた感があるのが不思議だ。


「腕防具と小盾か、これはいいな。こちらは槍……金属槍とはなかなか渋い」


 全部持って行く気にはどうしてもならず、本当にめぼしいものだけを選ぶ。

 儲けだけなら、持てるだけ回収するのが正しいのだ。


 となると、一番は……瞳だ。


 ドラゴンもどきの瞳は、両眼とも金糸入りの水晶球だった。

 しかも、金糸は赤ん坊の指ほどはある。

 どうにかしてほじくりだすと、ごろりと手のひらに大玉が転がり出た。


(これなら、ワイバーン同様に献上品に加えてもいいな)


「ボルクス、今の布袋に入るだけでいい」


「へ? いや、わかりやした」


 言いながら、まだ水晶球に手をやっている爺さんたちのもとへ。

 いつの間にか、フェリシアも手を乗せている。


「今、大丈夫か?」


「ん? おお、問題ない。ちょうど終わったところじゃ」


 先に用事を片付けたらしい爺さんの顔には、安堵。

 酒場で出会った時とは違う、ある意味読めない良い顔だ。


「それならよかった。1つ聞きたいのだが、ここはこのままだろうか?」


「文献によれば、数年もすると復活するそうです。ほら、あれを」


 フェリシアが指さす先には、少しずつ動くスケルトンだったもの、ドラゴンだったものがあった。

 そう、少しずつ動いている。


「どこからか水晶を確保し、また守り手になるんじゃろうなあ」


「若、あの木材だけは後からの物っぽいですぜ」


 頷き、ひとまず部屋の外に出ることにする。


 扉を閉めたところで、じいさんたちに向き直った。


「俺たちは帝都へ向かうが、どうする」


「そうじゃのう……先ほど孫娘も聞いたが、問わぬのだな」


 ピリリと、空気が震えた気がした。

 強者に出会った時のような、独特の感覚。


「聞いた方がいいのなら聞くが……2人がそれなりの家の出で、訳あり以上のことを聞いた方がいいのか?」


 そう、どう考えても2人はどこかの貴族で、しかも訳ありだ。

 でなければ、こんな状態で爺さんと孫娘が2人旅をするはずがない。

 そのうえ、事実上未探索の遺跡になんて誘うわけがない。


 そのことを短く伝えると、笑い出した。

 驚いてフェリシアがこちらに振り向くぐらいだ。


「なるほど、なるほどのう! ワシのカンも、孫娘のも正しかったということじゃ」


「はい、お爺様。私、見ました。未来を……偉大なる戦士のそばで、使命を果たす自分を」


 爺さんも爺さんなら、孫娘も孫娘だ。

 正直、帝都での用事を考えるとどうするべきか悩むところだ。

 一緒に来るのかどうか聞いたが、2人はおそらく同行を望むだろう。


 そして、それは悪くないと何かが告げている。


「よくわからんが、土産話と儲け話は歓迎だ。そのうえで聞くが、ここは来た証以上に持ち帰る場所ではないのだろう?」


「ええ、そうです。あのドラゴンも、同じ姿で復活するそうですよ。それから待ち続けるのだそうです」


 遺跡のことは、わからないことの方が多いという。

 毎日魔物が湧く場所もあれば、有用な鉱石がどんどん穴を埋めていく遺跡もあるという。


 いずれにせよ、良い付き合いができればいい儲けになる。

 が、この遺跡は特定の時期に訪れてこうして水晶球に接するための場所のようだ。

 十分儲けたし、深く突っ込むところでもないと判断する。


「そうか。ならいい。では戻ろう。ボルクス! 行くぞ」


 行きとは違い、後衛に後方警戒としてボルクス、中央に2人、前衛は俺だ。

 地上へ向けて進み……何も遭遇することはなく、地上に出た。


「それでは改めて、よろしく頼むぞ」


「お兄様、足手まといにはなりませんので」


「うむ。退屈はしなさそうだ。よろしく頼む」


 馬車の守りと封印を解除し、荷物を積み込めば準備完了だ。

 御者を買って出るボルクスに任せ、向かうは帝都。


 途中、どんな出会いが待っているか、とても楽しみだ。


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