第6話 思惑を探して



(やはり……この場所は、試しの場だっ!)


 数体のスケルトンに襲われながらも、余裕をもってさばいていく。

 後衛のフェリシアたちには、踊ってるように見えたかもしれない。


「すごい……何で……」


 彼女からの魔法は飛んでこない。

 実のところ、必要ない状況だった。


 明らかにスケルトンは、技術で攻撃を仕掛けてきている。

 こう受けろ、こう避けろ。

 そしてこう倒せ、と。


 俺はそれに従うように、丁寧に返すだけだ。

 結果、すぐにたくさんのスケルトンたちは倒れ伏した。


「数は多いが、それだけだな」


「いったい何です? こいつら……まるで若を昔鍛えてた時のようだ」


 言いながらも、ちらちらとボルクスの視線がスケルトン以外に向くのを感じる。

 無理もないかもしれない。


 俺の目以外には、金銀財宝が山のように積みあがってるように見えているだろうからだ。


 だが……。


「1つ確かなのは、未探索ってのがウソだ。爺さんが来たことがないというのは本当だろうがな」


「本当ですか、お爺様!?」


「もうバレたか……ヴィル、何か別の物が見えているんじゃな」


 ようやく、ボルクスも俺が剣を宝剣に変え、しかも構えたままなのに気が付いたようだ。

 2人を守るように、改めて位置取りをしなおしていく。


 俺の目にも、金銀財宝は見えている……半透明で。

 その奥に、馬車ほどの大きさの何かがいる。


 見たことがないが、四つ足に一対の大きな翼。

 トカゲを大きくしたようなその姿は……ドラゴン。

 ワイバーンとは確かに、違うな。


「フェリシア、全員に浄化の魔法を」


「え? は、はいっ!」


「若、自分はどうしますか」


「一発当てれば見えるだろう。あとは2人を頼む」


 すでにこちらをにらんでいるドラゴンへ向け、こちらも殺気をたたきつける。

 咆哮が響き、ようやく3人にも見えない何か感じられたことだろう。

 浄化の魔法により、俺と同じようなものも見えるようになったはずだ。


 咆哮に負けじと腹に力を入れ、ワイバーンにそうしたように、宝剣に魔力集中。

 一歩踏み出し、斬撃を飛ばした。


 床を削る勢いの斬撃はしかし、傷つけることなくドラゴンに向かう。

 ドラゴンの口から飛び出した何かとそれはぶつかり、弾けた。


(金属の音……財宝自体は全部偽物でもないのか!)


 身にまとった浄化の魔法のおかげで、幻惑を受けていない俺。

 周囲に散らばるまばゆい輝きの中に、本物が混ざっているのが見えた。


「戦えないものに用はないってことだな!」


 突進してくるドラゴンに、正面から立ち向かう。

 大きく振りかぶった右腕を回避し、切りつければ刃が通った。


「魔力攻撃! ボルクスはしのげ!」


 叫び、相手の敵意をこちらに向ける。

 その間に爺さんは距離をとってもらい、ボルクスもその護衛に。

 打撃を与えられそうなのは、俺とフェリシアだろう。


「フェリシア! 俺は当たらん! 好きに撃て!」


「そんな、無茶をっ……もうっ!」


 伊達に実質一人で、ワイバーンの討伐に挑んでいない。

 全部とは言わないが、魔法の気配の1つや2つ、感じられなくては母との鍛錬で沈む。


 母の鍛錬はとても実践的だ。

 当たってもやけどしない程度の魔法を、目隠しをしながら感じて回避。

 そんなことも、よくやるぐらいなのだ。


「力だけは強いが、それだけだなっ」


 動きはよく見ると単調。

 ドラゴンも、外や先ほどのスケルトンのように何か、技術を感じる。

 腕の長さ、爪や牙の鋭さ。


 ドラゴンとはこういうものだ。


 そう考えた人間によるもの。


「まずは一枚っ!」


 何度目かの突進を回避し、そのまま翼へ切りつけ、同時に斬撃を飛ばす。

 直撃したそれは、ドラゴンの悲鳴のような咆哮と、散らばる金属音を産む。


 と、倒れこんだそこに炎の塊が連続で衝突、爆発した。


「撃ってから言うのもなんですけれど、アレに炎が効くのでしょうか?」


「蚊を手で叩くよりは痛いだろうよ。それに、本当のドラゴンではなさそうだ」


 間合いを詰めて、火矢ではなく、火槍を打ち込んだフェリシア。

 確かに、良く使うのは火矢と言っていたが、ほかに使えないとは言ってないな。


「本当ではない? あ……」


 うめき声をあげるドラゴン。

 その翼は、がれきのような金属の塊になっていた。


 これまでの情報から推測するに、財宝の守護者といった方がいいのだろう。

 もっとも、財宝以外も守っていそうだが。


「来るぞ。どんどん撃ち込め」


「わかりました! お兄様、結構人使いが荒いんですね」


 そうか? なんて答えつつ、姿勢を整えたドラゴンに向かう。

 ボルクスはと思ったら、なんとスケルトンが再度出現していた。


「ボルクス!」


「しのげます! こいつら、新兵だ!」


 彼にも、仕掛けが見えてきたようだ。

 満足して頷きつつ、片方の翼を重そうに揺らすドラゴンに向かい立つ。


 こうして真正面に立てば、ドラゴンだというならやってくることは1つ。

 ブレス、必殺の一撃だ。


「結界を真正面に!」


「はいっ!」


 攻撃の機会をうかがっていたであろうフェリシアから、不可視の力が飛んでくる。

 結界魔法は、展開場所などを工夫すると、単純な盾となる。

 そして、思惑通りにブレスが放たれ、結界魔法と衝突。


「やはり、見かけだけか……ふっ!」


 ドラゴンのブレス。

 それを再現しただけで、威力は低いものだった。

 結界ごと切り裂く勢いで剣をふるい、魔力を込めた剣撃は狙い通りに両者を切り裂く。


「口っ!」


「はいっ! 燃え……上がれっ!」


 フェリシアの手に生まれる数本の火槍。

 それがドラゴンの口に飛び込むのに合わせて、踏み込んで宝剣をふるう。


 確かな手ごたえとともに、ドラゴンの頭部が火槍と剣撃を食らい、吹き飛ぶのが見えた。

 重い音を立て、沈むドラゴンだったもの。


「若、スケルトンが消えやした」


「同じ仕掛けだったのだろうな。爺さん、ここはなんだ? 何を見定める場所だ?」


「未来を見る場所というのは間違っておらんよ。自分の手か、仲間の手に取って突破し、たどり着けることを示すことで見えるものがある」


 そう言って、爺さんが歩いていく先には、台座に乗った人の頭ほどの水晶球があるのだった。

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