第5話 輝きの正体


 皇帝陛下の葬儀に出席するため、馬車とともに旅に出たその旅路。

 出会ったのは訳ありだろう爺さんとその孫娘。


 ある意味怪しすぎる誘いに乗って、やってきたのは未探索だという遺跡。


 入ってすぐに出会ったのは、スケルトン。

 不幸な犠牲者の物や自然発生した魔物ではなく、誰かの儀式によって呼び出されたであろう相手だった。


 さらに……。


「正面2、上に張り付き1だ!」


「上は私が! 火炎の息吹よ!」


 声とともに、周囲を炎が一層明るく照らす。

 天井に張り付いていたゼリーのような姿……スライムが燃えるのを感じる。

 ボルクスは爺さんの護衛に専念してもらい、基本前衛は俺だ。


「またスケルトンか。何体目だ?」


「10は超えてるはずですがね。ここだけで食っていけるのはある意味、おかしいですな」


 そう、出会ったスケルトンすべてが金になっている。

 金糸入りの水晶が必ず肋骨としてあり、そこが核のようになっている。

 そのうえ、どこかが同じく金糸入りの水晶で出来た骨だ。


 それ用の場所に持ち込めば、十分売れるだろう。


(しかもこの金糸の太さ……未探索だからというのか?)


 ちらりと爺さんを見るが、特に動揺した様子はない。

 事前にわかっているような、気にするほどの儲けではないと感じているのか、さて?


「っと、足つかみだ!」


 壁から、黒いシミのようなものがいくつも押し寄せる。

 けがをすることはないが、名前通りに足をつかみ邪魔してくる。

 捕まってる間は移動できないし、その隙に襲われては面倒だ。


 幽霊のようにも感じるが、実体が一応ある謎の魔物である。


「はっ!」


「よっと」


 魔力を込めた杖で床を突き、対処するフェリシア。

 同じくボルクスも単純に靴で踏みつぶし……爺さんはあっさりと避けた。

 そして同じように靴で踏みつぶす。


「ほう?」


 捕まったところを対処すればいいかと思っていたが、とんでもない。

 あの動きは……できる動きだ。


「ボルクス、次からは中衛で頼む」


「了解。あの扉、どうします」


 最初は奥のほうに見えていた扉が、すぐそばだ。

 中のわからない部屋は宝箱のようで……遺跡も宝箱みたいなものだ。

 宝箱の中に宝箱っていうのもどうなんだろうな、うん。


「開けるさ。フェリシア、何か魔力的な仕掛けはあるか?」


「待ってください……今のところは、とくには」


「ようし、じゃあ開けるか」


 探索を主にする者からすると、この決断は少々危ういはずだ。

 しかし、俺にはこの遺跡に悪意は感じられなかった。

 罠にはめて殺そうという意思が、無い。


(スケルトンもそうだが、あのスライムも……倒すまでもなかったか?)


 フェリシアの魔法で焼かれたスライムだが、落下してくる気配はなかった。

 もしかしたら、掃除をしてるだけの存在かもしれなかった。


 試す気にはなれないので、わからないままなのだが。


鋭利なる刃シャープネス


 鉄剣に、一時的に切れ味をよくする魔法をかけ、扉に向けて振るう。

 面白いように切り裂かれ、の扉はそのまま崩れ落ちた。


「外れ、か? いや、これは……」


 扉の中は小部屋だった。

 特にこれといったものはないように見える。


 壁際にトーチがあったので、これにも魔力を通してもらう。

 明るくなった室内にあるのは水瓶が複数、そして長机とそれを囲む椅子。


「お金になりそうなものはないですね」


「それはどうかな? 爺さん、わかるか?」


「お前さんはわかってそうじゃがなあ。ふむ……間違いなく、ウォルナーじゃな」


 アルフ爺さんの言葉に、ボルクスとフェリシアが反応する。

 俺も、予想が当たったことで内心は驚いている。


「冗談でしょう? こんな場所に高級木材で出来た家具が?」


「さっきの扉も木製だった。おかしいだろう? 爺さんの話が確かなら、ここは結構前からある遺跡だ」


「……朽ちてないと、おかしいと? お兄様はどう考えます?」


 念のために周囲を警戒しつつ、考える。

 と言っても、答えは限られている。


「おそらく、この遺跡は死んでいない。待っていたんだ……約束が果たされ、その相手が訪れるのを」


 爺さんの言っていた、未来を見る場所という意味。

 誰かしらが、何度か訪れることを前提としている。

 となると、扉を切ったのは申し訳なかったな。


「正解じゃ。本当はワシらだけでも入れるんじゃがな」


「なぜ俺たちを誘ったかは、今は聞かないでおく。行くぞ」


 さすがに家具は回収できない。

 恐らく、外に出た後にあの岩を動かす術があるのだろう。

 誰かに持って行かれることもたぶん、無い。


 小部屋を出て、再び奥へ。


 今度は、妙に静かな時間が続いた。


「相手さんも手が尽きたとか……」


「さあな。だが、気配は何もない。小部屋は無視する。進むぞ」


 不気味なほどに、スケルトンもスライムも、足つかみさえ出てこない。

 まるで、先ほどの小部屋に入ることが何かの証明だったかのように。


(まさにその通りか? さっきの灯りをつけることが、訪れたことを知らせている?)


 しばらく進み、正面には大きめの石扉、左右の小道にはこれまでのような普通の扉、だ。

 ちらりと見た床は、ほこりがあまりない。

 スライムが掃除でもしているのだろうか?


「ほほう。どうする?」


「当然、真正面だ。フェリシア、何か守りの魔法はあるか?」


「ええっと、結界の魔法を応用したものと、浄化をまとわせるものなら」


 上等すぎる選択肢である。

 少し考え、浄化を選択した。


 こういう場合、直接の攻撃よりも……心を攻撃される方が怖い。


「では……清浄な平穏を……」


 ふわりとした光が、体を覆い始める。

 どこかさわやかな風を感じるし、気分も朝の目覚めのようだ。


「よし、後ろに警戒しておけよ」


 言いながら、大きな石扉に手をかけ、開いていく。

 音を立てて動き出した扉。

 その隙間から見えるのは、広い空間だ。


「なるほどな……」


「おお!」


 通路から差し込む光に、部屋の中は星空のように輝いていた。

 、そして……立ち並ぶ武装したスケルトンたち。

 その姿に、生身の騎士を幻視した。


 ボルクスの驚きの声は、おそらく俺の見たものとは違う理由だ。


「できるだけ引き付ける! ボルクスは中衛で2人を! 嬢ちゃん「フェリシアです」フェリシアは好きに攻撃だ。爺さん、自分でできるだけ生き残れよ!」


「了解でさあ!」「はいっ!」「うむ」


 やはり、魔物ではない。

 準備が出来たことを確認したかのように、ようやくスケルトンたちが動き出すのだった。



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